第13話 口裂け女(バラエテイー)
episode13 口裂け女(バラエティー)
●タカコチャンはこの春、小学校に入学したばかりのピカピカの一年生です。
校舎のなかを探検して歩くのが好きです。
楽しくてしかたがありません。
「ここにはピアノがあるから音楽室ね」
一年生でも、それくらいのことはすぐわかりました。
でも、壁に飾ってあった白いお面が、なんなのかわかりません。
家にある白キツネのお面に似ています。
でも、口はトガッテいません。
口がキツネのように耳のほうまで裂けていません。
かぶってみました。
とれません。
息がつまりそうです。
必死ではがしました。
お面のうらがわに血がついていました。
とくに、口のあたりに血がべっとりとついています。
痛みよりもその赤い血をみてタカコチャンはこわくなりました。
泣き出しました。
泣き声を聞いて、どっと生徒が入ってきました。
「わあっ。口裂け女だ」
●まさか、あんなことになるとは、昭雄はおもわなかった。
「おい、富雄。邦子の両手を押さえろ」
昭雄は富雄に命令しました。
ふたりは六年生の双子です。
悪ガキです。
いまも邦子の顔に音楽室の壁にかかっている白いマスクをかぶせました。
「やあい。ぶよぶよふとったドブス。これかぶってスマートになれ!!」
女の子にはけっして言ってはいけない。
禁句です。
侮蔑用語は使ってはいけません。
邦子は夢中になって逆らいました。
でも二人の力にはかないません。
邦子が静かになった。
息がつまったのです。
ぐったりしています。
昭雄は邦子の顔からお面をはずそうとしました。
はずれません。
持ち歩いていたシャープペンシルの先をお面と邦子の顔とのあいだにさしこみました。
とがった先が邦子の肌につきたったようです。
ヤットはがした下から邦子の顔が――。
「わあっ。口裂け女だ」
●音楽室に飾ってあるマスクは。
楽聖、ベートーベンのデスマスクです。
デスマスクというのは死んだ人の顔から石膏型をとって制作するものです。
死人の魂がやどっていてもふしぎはありませんよね。
●なに、あなたの学校の音楽室にはない。
楽聖のデスマスクが飾ってないのですか。
それはやはり、なにか祟りがあったからでしょう。
部屋の奥の棚を探して御覧なさい。
●バラエティーは、寄せ集めというような意味です。
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