第9話 口裂け女


part2 episode 9 口裂け女


「レイコおねえちゃん。またあの女の人たっている」

「ほんとだ。風子わたし怖い。白いマスクしているよ!! 怖いわ」

口裂け女恐怖症のレイコと風子はがくがくふるえている。

ふたりは小学6年生の双子の姉妹だ。


「レイコも風子も、怖がることないって。インフルエンザがはやっているからよ」

あとから追いついてきたマリ。

レイコと風子の背をとんとんと交互にたたいて、元気づける。

「レイコ。あまり妹を怖がらせないほうがいいよ」

「怖がらせてなんかいないよ。でも……あのマスクの下は……」


「口裂け女だぁ」


と元気なはずのマリまで叫んだ。

声は恐怖におののいている。

レイコと風子は青くなっている。

けっきょく、三人とも怖がっていたのだ。

口裂け女だぁ、と三重奏。

三人で同時に声をはりあげた。

女の子が三人あつまっているのだ。

それも騒ぎたい盛り。

おしゃまな小学6年生。

姦しいこと、かしましいこと。


小学校の校門をでてすぐだ。

まだほんの数歩しか歩いていない。

少し傾いた電柱の影に赤いワンピースの女の人がいた。

いつものように白い大きなマスクで顔をかくして立っていた。


「風子。はなしかけてみない」 

「いやだもん。レイコお姉ちゃんやってよ」


双子の姉妹だ。

いつもなかよく登下校している。

母親が気をつかって、同じ服装をさせている。

友だちでも、区別はつけにくい。


「マリちゃん、おねがい」


姉妹が同時に同じことをいった。

いうことも、かんがえることも、いつも一緒だ。

おねがいと頼まれたマリは青い顔をするどころか。

堂々とした態度で電柱に近寄っていく。

姉妹はハラハラしながらマリの背を見ていた。

マリちゃんは、ヤッパすごい。

マリは平気で女のひとにはなしかけている。

女の人の後ろ姿は電柱の影で見え隠れしている。

とつぜん、マリが倒れた。

女の人はなにもしていない。

マリの顔が恐怖でクシャクシャに歪んでいる。

その表情がはっきりと見えるところまでふたりは近づいていた。

マリが道に腰をおとした。

あまりの恐怖に腰をぬかしていた。

女のひとを指さしながら口をパクパクさせている。

声はでていない。

マリの指さす先で、女のひとはかがみこんだ。

「見たわね。見たでしょう。見てたんでしょう」 


それにしても、見てたんでしょう。なんてきくのはオカシイ。

「わたしのこと見たいの? 見たい」

といって白いマスクをとると口が裂けている。

真っ赤な口紅をぬった口が両耳のほうまでさけている。

これが定番。

口裂け女のフェアな怪談だ。

だいいち、マスクはしたままだ。

マリはなにを怖がっているだろう。

ふたりは勇気をだしてマリをかばうように、女と向かいあった。

「見たわね。見たでしょう。見てたんでしょう」

そうだ。

このときふたりは瞬時に悟った。

そうだ、この女のひとは先週自殺した同じクラスの翔太くんのお母さんだ。

マスクをしていてもいつも遊びにいっていたから。

わかる。


「おばさん。翔太くんのお母さんでしょう」

うなずきながら女のひとはマスクをはずした!!

口は――裂けてはいなかった。

でも、その口から出た言葉は……もっと怖いことを訊いてきた。


「ねえ、教えて。翔太がイジメラレテいるの見たでしょう」

「…………」

「教えて。だれにイジメラレテいたの」

すごく悲しそうだ。

「それは……」

「風子、いわないで」

「そうよ。風子ちゃん、口が裂けても――いってはダメだよ」

とマリもレイコに唱和する。


「わたしは翔太がいじめの標的になっているなんてしらなかった。死ぬほどつらい、いじめにあっているとはしらなかった。おしえて。おしえてください。おねがいです」


「バスケ部の顧問の先生。わたしたちの担任の橋田先生よ」


翔太のことを好きだった。

風子は翔太のことを想い。

いっきに、いってしまった。

風子はなんども、翔太がなぐられているのを見ていた。

みていたものは風子だけではない。

レイコもマリもみんな大勢。

翔太がキャップテンテだから試合に負けた責任を取れ――と。

橋田先生になぐられているのを目撃している。

でも、それをチクッタラ、こんどはじぶんがなぐられるのがわかっているから。

こわくていえなかったのだ。 

「そう。先生だったの。うすうすは感じていたけどこれではっきりしたわ。風子ちゃんありがとう」

翔太君のお母さんは泣きだした。

かがみこんでさめざめと泣きつづけました。


このお話には、口裂け女はでてきません。

でも、口が裂けてもいってはいけないことを。

真実を明るみに出した勇気ある風子がヒロインです。

でも、風子には心配なことができました。

その後も、白いマスクをした女の人が。

恨めしげな眼で。

橋田先生を見るために下校時には電柱の影にたっていることです。

なにか不吉なことか起きそうで、心配です。

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