第32話:白い少女
目の前に突然現れた少女は、雪のような白い髪に白く
「平気ですか?」
「あ、あぁ……」
周囲の
「そうですか。少し休んでいて下さい」
周囲に集まった十数匹の
直後、予想外の状況が目の前に広がっていた。
少女が槍で先頭の集団を
そして、少女はそれを皮切りに襲いかかる
周りにいた
背を見せる
「セナ。出過ぎ」
「……申し訳ありません。シャル様」
見覚えのあるエルフの姿を見て、白い少女がエルド兵士の服装をしていることに、初めて気付いたのだった。
※※※※※※※※※※
「無事?」
「ああ、おかげさまで……」
こちらに歩み寄るシャルに、痛みを
「どうしてシャルが?」
「あなたを
言い方はともかく、心配してくれていたことが分かる。少し前までとは考えられない変化だった。
「あれは、誰なんだ?」
「彼女はセナ。エマのところの
シャルに紹介された少女は、チラッとこちらを見て目を伏せて挨拶すると、すぐに周囲の警戒へと戻っていった。
「……」
「気にしないでいい。あの子は常にあんな感じだと」
同い年くらいに見える彼女の印象を一言で言ってしまえば、氷のような少女だった。出会った当初のシャルの方が余程マシだったと思えるほどに、無表情で感情の
「では、早く戻りましょう」
「シャル、森の中で他に誰か見かけなかったか?」
「見ていない。あなたと一緒にいた冒険者も、少年も」
「そうか……」
あの後、彼らは無事に逃げることが出来たのだろうか。そんな事を思っていた時、
「お二人とも……」
気配を全く感じずに近づかれて、驚きながら振り向くと、セナと目が合った。
彼女の瞳は、
「セナ、どうしたの?」
シャルが彼女に尋ね、視線が外されて、ようやく我に返った。セナは何事ものなかったように報告を続ける。
「
彼女の言う状況には、心当たりがあった。
※※※※※※※※※※
「急げ! 追いつかれるぞ!!」
森のざわめきが徐々に近づいて来る中で、ヒルが声を上げる。ウルが先導する道を、手負いの少年と三人の少女と共に進む。さすがのヒルも焦っていた。
「……たっく、割に合わんな」
少女を連れてこの森を進むことは、最高難易度の
「文句言ってないで、なんとかしろよ! おっさん!」
コルトが
それに、彼は何もしていないわけではない。目の前を進む狼と、これまでの経験を踏まえて、適切なルートを瞬時に判断して進む。彼無くして、このペースを保って進むことは到底不可能だった。
「わ、私たちのことは構わないで、先に……」
「馬鹿! そんなことしたら、アイツに顔向けできねぇよ」
少女の一人が言ったことを否定するが、遅かれ早かれ、このままでは全員が助かる見込みは薄かった。ここまで頑張って来た彼女たちにも、流石に疲れの色が見える。ペースが落ちているのを、後ろの気配が伝えていた。
※※※※※※※※※※
そんな必死に悪路を進んでいた時だった。
「キャッ!」
「ソニア! 大丈夫か!?」
足の踏み場を
「私はもういい! お兄ちゃんは早く……」
「置いてなんていけるか!」
そんな兄妹の前に、ついに
一直線に走り込んで来た一匹が、ソニアに迫ったのをコルトが身を
「……たっく、本当に割に合わん」
ヒルは剣を引き抜いて、コルトの前に出た。
十匹程度ならば一人で相手にすることも出来ただろうが、集まった群れは数十匹になろうとしている。流石に分が悪いが、子供を置いて行くことなど選択肢には無い以上、やることは一つだった。
剣を構えた一人の冒険者を
そして、そこに立っていた一人の白い少女は、まるで鬼や悪魔のように見えた。
大抵の人間は傷を負えば動きを止める。
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