第4話 


 お店に着くまで街木くんはイヤホン付けて音楽聞いていたし、

私たちは会話をしてなかったので、私はあんなやこんなこと、

いろいろ考えまくってた。


 それで気が付いたら私は街木くんと並んで店内の椅子に座っていた。

 SHOPは駅近にある店舗で学生たちで賑わっている。


 学生たちは皆、銘々の友人たちとの語らいに夢中で

自分たちの世界に没頭している。


 そんな彼らのことを見ながら……


 これが私と街木くんとの最初で最後のマックかもしれないから

楽しい時間にしたい、彼との時間を楽しもうって決めた。


 私たちはクラスメイト、それ以上でもそれ以下でもないっ。


 同級生なんだから楽しく話して美味しく食べればいいんだと、そう思った。




 街木くんとは、週に1度だけ中国語で一緒になる。


 翌週の授業で一緒になった日もランチを誘われて

一緒に食事した。


 私は女子とだって一緒に食事したことがなく、かんどー感動した。

2回も誘われて胸熱だ。



 それなのに、その時別れ際にカラオケ行こうって誘われて私は

固まってしまった。



「帰り、A棟の1Fの出口のところで待ってるよ」


 固まる私を尻目に、街木くんはそう言い残して次の教室へと

向かって行った。



 彼の背中を目で見送っていると、友達が2人彼の側に寄って行き

3人で並んで新緑の中、校舎に向かって歩き出すのが見えた。



 私たちの大学は所謂近代的なマンモス校ではなく、歴史のある大学で、

だからといって決してボロ校舎ではないけれど、一つ一つの建物が

こじんまりとしていて、授業によっては建物から建物へと結構頻繁に

移動するのである。




 何で私なんか……と。

 どうして私を誘ってくれたのだろう。


 人生に期待することなどただの一度もなかった自分。


 期待を持たせるような言動をする街木くんに、

私は戸惑い、少し不安に感じてしまう。



――― そもそも同性とだって、これまで一緒に出掛けるというような付き合いが

皆無だった芽衣にとって、戸惑いがあっても無理からぬことだった ―――




 それにしても、誘われたのがカラオケとは!

 あぁー、全く!





 芽衣は教室に半数はいる女子の中で、断トツずば抜けて

美しかった。


 着ているものは決して高価なものではなく、学生らしく簡単に

手に入るユニクロのようなファストファッションブランドの装いでは

あったけれど、凛とした美しさが際立っていた。


 どうも本人にはそのような自分に対する自覚がなさげで

そんなところも彼女の魅力のひとつだ。


 だから学部学科の違う自分が芽衣と同じ授業を取り

更には最初の授業で彼女の隣に座れたのはものすごい幸運の

なにものでもなかった。


 俺自身、彼女の隣にたまたま座らなかったら、その存在すらも

知らずに学生生活を終えていたかもしれない。



 友達とつるんで別の授業に……


 歴史の講義を取っていたらと思うと……


 友達と一緒にいることもやぶさかではないが、

ひとりでいることも苦にはならず群れない時間を持った

自分を褒めてやりたいと思う。

 



 大学生になっても、トイレに行くのに数人連れだって

連れションするんだぜっ、あきれるだろ?


 女子だけじゃない、男だって中・高とそういうクラスメイトを

横目に大勢目にしてきた。


 まさか、大学になってそれはないだろ、って思ってたけどな……呆れる。


 リーマンになっても同期でつるむんだろうな、もち、おトイレもっ。

 げっ。


 山本芽衣……。


 何度か同じ席で授業を受け、友達関係に進みだした頃には

構内で1週間のうち、1度くらいは見かけるようになったが

彼女は誰ともつるまず孤高の人だった。


 まっ、たまたまなんだろうけどね。

 きっと普段は友達に囲まれているんだろうと思う。


 俺には中・高でできた親友と呼べる友達が2人いる。

 他に同級生で電話連絡取ったり、会ったりする友達は10人ぐらいいる。


 悪い人間ってわけじゃないけど、大学のクラスメイトは

自分にとって軽い、綿菓子の重量みたいな存在で、たぶん卒業後、

会わなくても何とも感じないだろうな。


 ただ芽衣の存在は違った。

 このまま、付き合い続けたい存在だ。


 理由なんてない、そうだろ?

 人を好きになるのに理由なんてないさっ。


 惹かれるンだからしようがないっ。


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