5-2「お義兄ちゃんはお姉ちゃんをオ××××にしてるううう!!」

 いやね、まったくキスのタイミングがわからないんですよ。最初の時、どうやったかも全然思い出せない。2回目はおれからじゃないし。

あれからも、毎日、「彼女」の瑞希さんと登校している。いっしょに帰ることもある。

週末には、ついに2人だけで出かけたんだけどね。遊園地でもショッピングでもなく。瑞希さんがおれや充希が昔住んでたあたりを見たいって言うから。いまの家からも学校からも離れているから都合はいいんだけど。最初のデートがそれって、ホント、義母に似て変わった人だ。

 俺が生まれ育った町は、大東京の中心地にある。「都の都」を自称し、新日本の心臓部で、国のかなめだそうだ。

なんか京都の人が聞いたら怒りそうだが。

ここらへんの学校に通う子供たちは、選民思想にあふれた郷土愛の歌を校歌よりもよく覚えているぐらいだ。普通、郷土愛というと山や川などを取り上げると思うが、この地ではコンクリート愛に満ちあふれている。「戦前の軍国主義時代かよ」とツッコミたくなるその歌詞の内容が書かれたけっこう大きな石碑もある。

そんな町を歩くだけだが、瑞希さんは楽しかったようだ。こっちはずっと、どういう状況になったらどのタイミングでキスすればいいのか、そればかり考えていて純粋に楽しめなくて。もちろんそれなりに楽しかったです。

途中、小田さんじゃない方の「いま、この時が、その時かもしれない」という歌が2、3回聞こえた気がしたんだけどさ。いざとなると、まったく体が動かないんですよ。これってアスリートのイップスみたいなものかな? もう一生瑞希さんとはキスできないんじゃないかという気がしてきましたよ。


 一人で帰っているところを充希に捕まった。

「どうして鍵つけたの」

「アポなし突撃を断るためだ。芸能人じゃないからドッキリは嫌いだ」

あれっ、鍵は登校中に秘密裏に取り付けられたはずだ。

「お前、また、不法侵入を試みたな」

「あたしが来たら嫌なの」

「アポイントがあれば問題ない」

「じゃあ、今日の10時」

「夜間は面会禁止だ。育ち盛りだから安眠を十分とらねばならない」

「どうせなエッチことでもしてるんでしょう。手伝ってあげるわよ」

「だから年頃の女子がそういうことをって何回・・・」

「手伝いに行ってあげるから」

「断る。いや手伝われるようなことはない」

こんな粗暴なやつに手伝われたらまたケガしてしまう。瑞希さんならきっとやさしく、ってチガあーウ。

「またお姉ちゃんでエッチなこと考えたでしょう」

「また、とはなんだ。名誉毀損だ。いつそんなことをした」

「ふん。隣の部屋にいればわかるわよ」

「かまかけたってだめだぞ」

ちょっと待て。これはあの伝説的マンガの超有名シーンだ。ということは次に起きることは・・・。充希があの5文字を叫ぶ(注:「めぞん一刻」参照。るーみっくわーるどと称される至高の御方にこの言葉を教えた人がいることが衝撃でした)。おれは充希の声が届く範囲に瑞希さんの姿がないか必死に探した。

「お兄ちゃんはお姉ちゃんを・・・」

おれは充希の口をふさごうと。

「こら、かむな。おまえ、それは女子が一生口にしてはならないNGワードだぞ」

「なんのこと?」

さすがに女子中学生はオで始まるあの禁断の5文字を知らないか。

「お姉ちゃんを想像してエッチなことしてるっと言おうとしただけよ」

「なんだ、そうか。それなら・・・、全然よくないぞ。マンガの主人公と違って、おれはそういうことはしないんだ」

「そういうことって何よ」

「だから、瑞希さんだけじゃなくて、隣のお姉さんとか同級生とか身近だと顔を合わせられなくなるだろう。ってお前は義兄に何を説明させてるんだ。いいかっ。とにかく面会は昼間だけだ。時間外は中立地帯でのみ応じる」

「でも、あのときはお姉ちゃんで・・・」

「こらっ、そっちに食いつくんじゃない。あのときって、あのときだろう。あれは故意じゃないから。自由意志のない状態だから心神耗弱って言って罪は問われないんだ。明確に意識や判断力のある状態で意図的に罪を犯すのとは違う」

軽い過失で書類送検されても起訴猶予になるレベルだ。

「難しいこと言ってごまかそうとするんだから」


 彼女のいる男子がほかの女子から身を守る方法。そんなノウハウはどこにも見つからない。彼女にばれないようにどうやってほかの女子と接するかと、逆に彼氏がほかの女子と接するのをどう防ぐかは山ほどあるのだが。どっちも彼氏がほかの女子と何かする気フルスロットル前提だから参考にならないよ。

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