【エピローグ】

【エピローグ】

昏い昏い地下にある、無数にある部屋の中の一室に、その男と少年はいた。その部屋には大量のビーカーやフラスコが壁から天井から床にまで配置され、常時気泡の発生する音であふれていた。

 男はその部屋の中心に座り込み、何か作業をしている。時折火花が散るその作業は、何かの機械をいじっているようだ。

 少年の方はその部屋に唯一あるパイプベッドに座り、男の作業を眺めている。

 少年は無表情だったが、どこか不機嫌そうにしている。

 「・・・人造人間って知ってるかい?」

 男がおもむろに少年に尋ねる。少年は無言でかぶりを振る。

 「その名の通り、人に造られた人型のもの。それらは大抵何か目的があって作られる。完璧な人間を作ろうとした博士や、あらゆる知識を持った小さいものとか、ね。けど、もし、それらが目的を与えられなかったら。」

 相変わらず、作業の手を止めずに、男は話し続ける。少年は聞いているのかいないのか分からない表情で黙している。

 「何をすればいいのか分からず、もちろん作られたばかりなのだから過去の記憶もなく、ただそこに存在しているだけ。そんなのは嫌じゃないか。」

 「そうかもね。」

 「だから、きっとそうなったら、それらは自分が何者か、何のためにいるのかを探そうとするんじゃないかな。・・・でも、真実が見つかってしまったら、存在意義がないことを知ってしまうことになる。それって、悲しいことじゃないか?」

 「・・・そうかもね。」

 「じゃあ、きっと、真実を知らずに答えのない答えを探していた方が、それらにとっては幸福だと思うんだ。」

 「・・・何も知らない方が、よかったってこと?」

 「そうだね、でも、いずれ知ってしまうんだろう。そして」

 ――――――絶望してしまうんだろうね。

男のその言葉を最後に、彼らの会話は途切れ、火花の散る音と、無数の気泡が発生いする音だけが、部屋に充満した。

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