アニマルコロシケーション
そらからり
序章 未来と過去
序章その1 戦場
あちこちから血の匂いがする。
死体はそこらかしこに投げ捨てられ、元がどのような姿であったのか想像すらつかないほど損傷を受けたものもある。
なまじ嗅覚が優れているばかりに腐敗臭と血肉臭はきつい。
一瞬、視界が歪んだ。
「――っ⁉」
気を抜いた途端に右から牙が迫り、左から爪が突き立てられる。
何時の間に現れたのか、2体の化け物とも呼べる生き物たちが明らかな敵意を向け殺しにかかってきた。
何とか牙を避け、爪を腕ごと受け止めるが、油断も休憩もさせてくれない。
「……精神が張り詰めすぎて切れそうだ」
生きるために殺し、生きるために殺されないようにするなどあの平穏な日常からは想像もしていなかった。
もっと自由な日常も憧れていた。
だが……これが自由なら、これが野生ならば自分は何時までも檻の中で良かった。
かつての仲が良かったものたちは今は殺気と狂気に呑まれこちらの言葉など通じない。
「……どうしてこうなってしまったんだろうなあ」
人間ならこういう時、こういう言葉を言うのだろうか。
それならば、言わずにはいられなかった。
かつては動物だったとしても……今は人間の姿をしているのだから。
動物園は見る影もなくただの戦場と化していた。
倒れたものは弱者。死んでいる、もしくは死を待つのみ。
立っているものは強者。摩訶不思議な能力を持つもの。見誤ればこちらが殺される。
例え自分に与えられた能力が弱者のそれと似たようなものだったとしても。
例え憎き人間から与えられた能力が人間にも、下手をすれば今もなお生きている強者に通用しなくとも。
自分は生きてここから出なければならない。
本当にここから出られるかは分からない。
だが、何もしないということは死を受け入れること。
それだけは避けなければならない。いつか人間を殺すために。死んでいった獣たちの無念を晴らすために。誇りのために。
「……よし」
心構えなど今更改めなくともとっくにできていた。
だが、それでもやらなければ、心が折れそうだ。
休まることのない猛攻の中を生き抜かなければならないのだから。
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