ここよろしいですか

勝利だギューちゃん

第1話

僕は今、列車に乗っている。

海岸沿いをカタコト走る、ローカル線。

車窓からは、海が見える。


「それにしても、ガラガラだな・・・」

そんなことを思う・・・


「シーズン中は、もっと混雑しますけどね・・・」

見上げると、なかなかの美人がそこにいた。

髪は長いようだが、束ねていた。OLさんかな・・・

「ここよろしですか?」

(他にも空いているだろうに・・・)

そう思いながらも、悪い気はしなかったので、承諾した・・・


女性は、軽く会釈をして、僕の前に腰を下ろす。

「こちらへは、観光ですか?」

女性が声を掛けてきた・・・

「ええ・・・気ままな一人旅です・・・」

僕はそう答えた。


「お住まいは、東京なんですか?」

「いえ、ちがいますよ。」

「でも、東京近郊なんですよね?」

「いえ、ちがいますよ。」

女性は不思議そうな顔をしている。


「では、どちらからいらしたんですか?」

「奈良です」

「奈良ですか・・・?」

女性は驚いていた。

確かに奈良からここは遠い。


「奈良はいいところですか・・・高原さん・・・」

「ええ、まあまあですね・・・僕は市内ですけど・・・」

「奈良は県内を、鹿がうろついているんですよね・・・」

女性は、しんみりと答えた・・・

「うろついていません。奈良公園とその近辺だけです!」

「・・・冗談ですよ・・・」

女性は、笑みを浮かべる。


ここで、重大なことに気が付いた。

「そういえば、さっき僕の名前を言いましたが、

どうして御存じなんですか?」


「いえ、何となくそんな気がしましたので・・・

気味悪いですね・・・」

「・・・いえ、そんなことは・・・」


それからも、談笑が続いた・・・

初対面の人と、列車の中で、談笑する・・・

こんなのも、悪くはないな・・・


女性は僕の名前を知っていた、僕は女性の名前を知らない・・・

でも、気にはならなかった・・・


40分程した後。女性は立ちあがった・・・

「じゃあ、私はそろそろ失礼しますね。次の駅で降りますから」

「そうですか?お気をつけて・・・」

「高原さん、良い旅を」

「そちらこそ・・・」

女性は次の駅で、降りて行った・・・


僕の旅は、まだまだ続く・・・

長期休暇を取っての、1人旅・・・

この先、どんな出会いが待ってるか・・・


    (今回も、ありがとね)

    (いえ、とんでもないです)

    (あの子、寂しがり屋だから、苦労してるでしょ?)

    (最初のうちは大変でしたが、話してみると、とてもいい子ですよ)

    (でもまだ、あの子はあなたの事がわからないのね・・・)

    (鈍感な子ですからね)

    (ごめんなさいね)

    (いえ、私は彼が好きですよ)

    (ありがとね。今度はどんな格好で行きましょうか?)

    (彼の好きな、JKで行きます)

    (これからも、話し相手になってあげてね)

    (もちろんです)


次の日、僕は列車を乗り継いだ・・・

今日も、ボックス席を、独り占めにしている。

優越感だ・・・

そこへ、1人の女子高生が声を掛けてきた。

「ここ、よろしですか?」

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ここよろしいですか 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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