夏休みの日常

クロバンズ

第1話

照りつける日差し。吹き抜ける温風。耳を傾けずとも聞こえる蝉の声。そして大量の宿題。

そんないつも通りの夏休みを俺は過ごしていた。冷房の効いた部屋でゴロゴロしながら怠惰な日々を送る。それが俺の夏休みの過ごし方だ。


いつも通り俺がテレビゲームで遊んでいるとドタバタと下の方から誰かが階段を上ってくる音がする。まぁ誰かは大体察しがつくが。

俺の部屋のドアを開け、その人物は部屋に侵入してきた。


「ちょっと! 宿題終わったの!?」


その人物ーー母のやかましい声が部屋に響いた。

「もう夏休みも長くないのよ! さっさと終わしちゃいなさい!」


「ハイハイわかってるよ。あと部屋に入るときはノックしてってば」


まったく、俺にだってデリカシーはあるんだ。いつまでも子供扱いしないでほしい。


「まったく、母さん買い物いってくるからお留守番しててね。あと宿題やるのよ」


「あーハイハイいってらっしゃい」


バタンとドアを閉じて母は部屋から出て行った。やっと静かになった。


「あっそうだ」


録画していた深夜アニメを見るのを忘れていた。早速今から見るとしよう。


俺はテレビのある下のリビングへ降りた。


レコーダーを起動し、早速アニメを再生する。

そうだ、誰もいないしせっかくだから音量を大にしてじっくり見るとしよう。

そう思って俺はテレビの音量を上げた。

内容が少しいかがわしいため、ちょっと他人の前では見られないが、唯一邪魔な母は今買い物に行った。

ククク……誰も邪魔者はいない。誰も俺の聖域にはーー


「いけない。財布忘れちゃった」


「うおああああああああああ!!!!!」


母がドアを開け、聖域に踏み込んで来た。

俺は声を上げながら、普段なら絶対に発揮できない反射神経を見せ、すぐさまテレビの電源を切った。


「な……なによいきなり叫んで。あんた、何そんなに驚いてんの」


「い……いや別に。つーかなんで買い物に行くのに財布忘れるんだよ!」


某国民的アニメのオープニングみたいなことしやがって!


「忘れちゃったものは仕方ないじゃない。それよりあんた! 宿題やってないじゃない!」


「うるっさいな! ほっといてくれよ! 俺の問題だろ!」


母に声を荒げて反論し、俺はリビングを出て部屋に駆け込み、ベッドにダイブした。


…ちょっと言い過ぎたかな

そんなことを思ったとき、俺の嗅覚は布団からある香りを感じた。お日様の香りだ。


もしかして俺の布団干してくれたのかな。


「後で……お礼言わないとな」


アニメの続きを見るため、俺がリビングに戻ると買い物に戻った筈の母が何故か呑気に茶を啜っていた。


「買い物に戻ったんじゃ」


「特売日が明日だったのよ」


どこまでそそっかしいんだこの人は。

そう呆れながら、俺は言葉を切り出す。


「俺の布団、干してくれたの?」


「えぇ、今日は天気が良かったからね」


普段から照れくさくて言えないのだが、その言葉を今日は声にすることができそうだった。


「ありがとな、母さん」


「なによ、照れくさいわね。いいのよ気にしなくて。それよりテレビでも見ましょ」


そう言って母はテレビの電源をつけた。


ありがとうなんて台詞を言うのは、やはり恥ずかしいものだな………ん?待てよ、テレビ?


「あ…」


『キャー!! エッチィーーーー!!!』


俺の見ていたアニメが大音量で響き渡った。


その時

母の俺を見る目が養豚場の豚を見る目に変わった。





ーーそんな夏休みの1ページ。










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