第5話 ノイジー・ディナー・タイム
――ギルドハンティング。
ショウの発した言葉を心の中で反復する。
ギルド、とは言わずもがなこの『トロヴァトーレ』のことだろう。
ハンティング、とは直訳するならば狩りのこととして、つまりギルドで狩りを行うということは理解出来た。
しかし、今日
付いて行ったとして足手まといにしかならないだろうし、剣術系スキルもポイントこそ得たもののまだ何にも割り振っていなかった。
適当に振ってしまって間違えていたら、と思うと、やはりアマリなり誰かにアドバイスを得てからにしようと考えたためである。
それに事情はナナも同じだろう。
ロクに譲る予定のようなことを言っていたし、初心者で戦闘経験が浅いのは彼女もそうだ。
そんなカズキの胸中を知ってか知らずか、ショウはアジトのリビングを見遣りながらこう続ける。
「何はともあれまずはご飯。変な話だけど、リアルでご飯を食べてからさてエンオンで遊ぶぞってなってもログアウト状態ですらお腹は空くから、もう一回エンオンでご飯食べないといけないんだよねぇ」
彼の目線を追いかけると、リビングの奥にあるキッチンに立っている人物が居た。
男性で、上背があり、体格はがっしりとしている。
よくよく見ると、彼はフライパンを振るって何かを作っているようだ。
それどころか、目を凝らして見たらグッドスリープもキッチン内で何か作業をしていた。
そういえば『料理と調合にスキルを振っている』と言っていたか。
「料理……もスキルレベルがあるんだろ? ……このギルド、スキルがやたら高い人が多くないか? だって、このゲームって発売してまだ一週間なのに」
グッドスリープも、まだ会ってはいないがロクも、アマリも、β時代からプレイしていると言っていた。
βテスターがこうも都合よく集まっていることがどうしても不思議に思えてしまう。
ショウはリビングにあるダイニングテーブルに歩み寄りながら、軽く振り返るとこう説明した。
「β時代に作ったギルドと同じ名前のギルドを正式サービス開始直後に作って、事前に根回ししてあったからほぼ同じ面子が集まったんだよね。半分くらいは僕のリア友だよ。あそこで料理してるヤミーもそう。……あーいや、今は人数が増えたから3~4割くらいかな」
『トロヴァトーレ』のメンバー達は、それぞれ食事の準備を自分なりに手伝いながらアジト内を整えていく。
どうやらこのギルドはショウの知人の集まりがきっかけで発足したらしい。
そう思えば、βテスターがやたらと固まっているのも納得が行く。
「あぁ、あとカズキくん達は夕方軽く
「そう言われても、武器の手入れはロクって人がやってるって聞いた。ナナがログインしてたら、ロクって人は入れないし……」
「大丈夫、他にも出来る人は居るからね。確かにうちで一番武器修繕のレベルが高いのはロクくんだけれど、心配要らないよ」
そう言うと、ショウはアジト内の人の合間を縫って奥へと入って行った。
それに付いていくと、小柄な女性に声を掛けるのが見え、ああ、あれは確か
とりあえず仲介はショウに任せることにして、後ろに感じる気配に振り返った。
「ナナはギルドハンティングに参加するのか? ロクって人に譲らなくて大丈夫なのか」
ご飯の後はお兄ちゃんに譲る、挨拶くらいはさせて貰えるかも、と言っていたのだ、VR環境が一人分しかない家庭にいるナナは、ロクに譲るのが自然だろう。
しかし、ナナは少し目を逸らしつつも口許が緩んだなんともいえない表情で答える。
「実は……さっきご飯の時にお兄ちゃんに、カズキさんとアマリさんと狩りに行った話をしたんです。そしたら、『ナナがエンオンに嵌まってくれて嬉しい。今日は好きなだけやっていい』って言われちゃって。だからその言葉に甘えちゃおうかなって思ってます」
「なるほど。いや、でも俺としてもそのほうが有難い。初心者仲間が居ると思うとそれだけで心強いからな」
「私もです。やっぱり、ある程度知っている人が居た方が心強いです!」
お互い、無意識のうちに笑みが零れた。
ナナとは初心者同士通じるものが多いし、一緒にステップアップ出来たらきっと楽しいだろう。
アマリはまだだろうか、食事の準備の手伝いはした方が良いんだろうか、などと話していると、ショウが小柄な女性を連れてきた。
「カズキくん、この人はサダメさん。剣を持って二階に上がって、修繕をして貰いなよ。サダメさん、食事の準備中に皆の手入れをお願いしても良い?」
サダメ、と呼ばれた
服装は軽めの鎧と言ったところで、太ももや腕などは所々露わになっていた。
豊満な胸元は金属で覆われているものの、腹部は完全に露出している。
一昔前のビキニアーマーと言うべきかな風貌のその人は、ショウの頼みを聞くと笑顔で頷いた。
「ロクちゃんが居ないのね。良いわよ、任せて。えーと、あなたがカズキくんね? 私はさだめ。ご覧の通り
「カズキです。えっと……サダメさん、よろしく。ついでに武器の修繕が必要な頻度とか程度についても教えて貰えると助かるなぁ」
差し出された小さな右手を、右手で握り返す。
軽く振って握手を済ませるついでに、教えて貰えることは今のうちに教えてもらうべきと判断し、質問を投げかけた。
ショウの言ったように『人が多くログインしている時に同時にログインしたら頼めることは頼んでおいた方が良い』のなら、サダメに色々と教えてもらうべきだろう。
「良いわよ。やる気のある新人さんは歓迎。じゃあ、二階に上がりましょうか」
こちらを見上げて小首を傾げて微笑む仕草はどこか
……確かに、小柄ではあるしリャン同様身長も1mくらいしかないのに、胸や尻といった女性的なパーツはしっかりとした量感を持っている。
恐らくは彼女もセクシー路線のつもりでキャラクリエイトしたのだろう。
ならば、彼女に対して『色気のある、セクシーな人』という感想を抱くのは間違っていないはずだ。
「……武器の修繕が必要な人は二階に来て。ロクちゃんの代わりに私がやるわ」
サダメの後を付いていき、ナナやショウと一度別れ二階へと上がる。
階段を短い脚で一段ずつ丁寧に踏みながら、サダメはギルドリングに声をかけた。
彼女はギルドリングを右手に嵌めているようだ。
二階は、作業スペースとでも形容すべき空間が広がっていた。
階段はまだ続いているのが見え、これで少なくとも三階以上あることが解る。
広間には低く大きなテーブルが鎮座していて、壁は一面を除いて全て棚でカズキが見てもよく解らないものが色々と置かれていた。
それにどことなく金属のような匂いが漂っており、お菓子とお茶の残り香があった一階と比べると随分と違う様相となっている。
ここが作業スペースなら、さしずめ一階は団欒スペースといったところだろうか。
「じゃあ、剣を抜いてそこのテーブルに置いてくれる?」
壁の残りの一面には、小さなハンマーやペンチのような形をした金具など、あらゆる工具が掛かっている。
サダメはそこからハンマーを取り出し、壁の中央下部にある
その一連の行動に見蕩れかけるところだったが、慌ててフェザーブレードをテーブルに置く。
「普段だったら500リルから頂いているところだけれど、ここは初心者サービスで無料でやってあげるわね。……このゲームには、何をするにもちゃんと対価という誠意が必要よ。ロクちゃんもそれは同じ。次からは頂くからね」
「わ、解った。サービスありがとう、よろしく頼むよ」
『対価という誠意』と言われると、アマリとグッドスリープに言われた言葉が蘇った。
画材を買う資金を自力で調達しなくてはならないという事は、手に入れたアイテムを買い取ってくれる人がどこかしらに居るということだ。
アマリも、グッドスリープに薬を作ってもらうための薬草を買い付けるコネのために種を集めていた。
つまり『モノとカネの循環』がリアルの世界同様に成り立っていて、それは同じギルドに所属していたとしても適用され、それぞれに誠意を見せる必要があるということだろう。
テーブルの向かい側に立ったサダメは、フェザーブレードを手に取るとしげしげと眺め始めた。
それから
そこで、作業の邪魔かもしれないと思いつつ、質問を繰り返した。
「で、さっきの話の続きだけど。アマリからは『下手したら折れる』とまで言われたんだ。さすがに俺もそんな事態は避けたい」
「そうね……然程耐久度は減ってないわね。これならすぐ済むわ。お金を取るとしても最低額の500リルね。この剣が折れるとしたら……修繕なしで15時間も振るったら、ってところかしら? 見た目では全く解らないのよ、耐久度は。武器鑑定のスキルを振らないといけないのよね」
流れるような口調で、すべらかにサダメの解説が続く。
耐久度は、平たく言うなれば武器版の空腹度システムのようなものである。
武器を使用するごとに減少し、減少すればするほど攻撃力が落ちる。
アマリが『錆びる』と言ったのは、このことの比喩だろう。
そして、修繕には特に素材は必要ないらしい。
つまり、フェザーブレードの修繕をして貰うにあたってアイロンフェザーを狩る必要は無いようなので、ほっと胸を撫で下ろした。
減ってしまった耐久度は武器修繕スキルを持ったNPCかプレイヤーに頼まないと回復せず、限界を迎えると武器は壊れて使えなくなる。
その限界は、武器鑑定スキルを持ったプレイヤーにしか確認は出来ず、見た目の変化は全くないため、『耐久度が0になった瞬間いきなり壊れて使用不可になる』のだそうだ。
武器修繕スキルは高くなればなるほど、激しい損傷を短時間で直すことが出来る。
NPCは武器修繕スキルレベル1程度の能力しかないため、長い時間を奪われる羽目になるうえプレイヤー間の相場と比べると割高な値段設定になっている。
近接武器を使用するつもりなら武器修繕の出来るプレイヤーとのコネは必須だ、とのこと。
それを回避するには武器を複数持つなど手段はあるが、攻撃力の高い武器ほど値段は当たり前のように高値が付くので、戦闘スキルが上がれば上がるほど簡単には行かなくなる。
……ショウはおそらくこれらの説明が自分に必要と判断して、大して修繕する必要もない剣を手入れして来いと言ったのだろう。
「じゃあ、アマリみたいな二刀流はコストも二倍ってことか?」
「そうなるわね。でもあの子は宝石や鉱石の鑑定依頼が結構来るだけの人脈があるし、なにより
「未鑑定アイテム?」
要するに、アマリはコストが二倍でも問題ない程度に稼ぎがあるということらしい。
それよりもサダメの口から発された初めて聞く言葉、『未鑑定アイテム』を
「言葉のままよ。
「なるほど……つまりもし俺が
「そうなるわね。ただ、あの子も鑑定には代金を貰っているわよ。鑑定が1000リル、未鑑定のまま買い取りが100リル。もちろんそこもきちんと男らしく誠意を見せてよね?」
「は、はは……たぶん、未鑑定のまま買い取って貰うかな。俺はそんなに
NPCに売っても1リルにしかならないのなら、アマリに100リルで売った方が良い。
もしかしたら資金繰りの関係で行くことがあるかもしれないが。
「さて、終わったわよ。それにアマリちゃんもログインしたみたいだし、少し話してきたら? 言いたい事があるんでしょう」
「よく解ったな。……本当だ」
差し出されたフェザーブレードを受け取って鞘に納め、振り返ると後ろには修繕待ちのメンバーが並んでいた。
そこに、見覚えのあるエメラルド色のポニーテールを見つける。
――アマリだ。
武器の修繕役を担ったサダメを一人で束縛するわけにはいかないので、並んでいるアマリに近付いて軽く挨拶を交わす。
彼女には、訊きたいことが色々とあった。
「ごめんねー遅くなって。これからギルハンだけど、行くでしょ?」
「そうしたいのはやまやまなんだけど……」
まず、スキルポイントを何も振っていない事。
手に入れた葉と茎はどうしたら良いのか解らない事。
仮にギルドハンティングに参加するとして、もし未鑑定アイテムを手に入れたらアマリに買い取って貰えるのか教えてほしい事。
アマリは矢継ぎ早に投げかけられた質問に、丁寧に答えてくれる。
「スキルはそうだね、片手剣で行くつもりなら堅実にまずは『剣術』をずっと伸ばせばいいと思うよ。武器の攻撃力にスキルレベルに応じた攻撃力が上乗せされるから」
「なるほど。じゃあ早速……」
メニューを呼び出し、自分のパラメータを呼び出すとツリー状に展開されたスキルを表示させた。
確かに、デフォルメされた剣のイラストである『剣術』のアイコンがポイント割り振り可能スキルとして光っている。
他に『斧術』『槍術』なども割り振り可能になっていたが、剣を使い続けるのだから不用だろう。
そして、『剣術』の上位スキルである『剣・衝撃波』『剣・属性付与』などは前提スキルである『剣術』をある程度上げないとポイントを振れないようで、半透明になっていた。
とりあえず、夕方に手に入れたスキルポイントを全て『剣術』に振っておいた。
「で、葉と茎はぐっすりさんに売ると良いよ。あたし、『ぐっすりさんに薬を作って貰う材料を買うコネのために種が欲しい』って言ったじゃん?」
「うん」
「プラントはたまに種を落とすの。で、それを買い取って、育てて、プラントの葉を栽培している人がいるわけね。わざわざプラントを狩って自力で葉を集めるより、栽培している人からまとめて買った方が早いのは解るよね」
「と言う事は、俺はアマリがすっ飛ばしている『葉を手に入れる』過程を自力で行ったから、ぐっすりさんに直接買い取って貰うか薬にして貰えば良いって事か」
「そういう事。ただ、葉と茎だけじゃ薬にするには足りないね。あたしはたまに行くメルアゲイルの浅い層で残りの必要素材も手に入るんだけどカズキはそうじゃないから、純粋に買い取って貰う感じになるかな」
アマリがコネを作ろうとしているプレイヤーは、ある程度の種を納品しないと葉を融通しないという自分ルールを定めているのだそうだ。
プラントの葉は下位素材ではあるが、序盤にお世話になる低級回復アイテムの主要素材だという。
グッドスリープに葉と茎を買い取って貰ったら、その金で薬も買っておくと良い、と言われた。
そうすると画材の購入は遠のくが、今は色々と経験して自分なりの
何事も地盤を固めてから、ということだ。
「最後に未鑑定素材だよね。勿論買い取ってあげる。ただ、今回のギルハンは正式サービス開始でメンバーが増えて初心者も増えたから、そんな深くには行かない予定らしいのね。そうするとあたしはたぶんめちゃくちゃに損をするんだけれど、一度設定した値段は貫くから安心して」
「鑑定士ってのもなかなかにリスキーなんだなぁ……」
「まーでもそういう『生き方』を選んだのはあたしだし。それにあたし以外にも買い取ってくれる人はいるし。と言っても、だいたい相場なんてみんな同じだから相場を知らない初心者をカモるくらいしか出来ないと思うけれど、初心者に買い取る
「でも俺はアマリにずっと買い取ってほしいかな。さっきサダメさんに言われたんだ。何をするにも対価という誠意が必要だって。俺なりにアマリに見せられる誠意なんて、そのくらいしかないし」
あんまりレア素材は拾えないかもしれないけれど、と呟くが、アマリはぽかんとした顔をしていた。
しかし次の瞬間には破顔して、ばしばしと肩を叩かれる。
「なーに初心者が生意気言ってんの! 初心者は初心者らしく上級者に甘えて良いんだって。言ったでしょ、出世払いで良いんだよ」
「え、じゃあ無料で鑑定してくれたりするのか?」
「え? するわけないじゃん? そこはきちんとお金を頂きますわ、おほほ」
ふざけて口に手を遣るアマリを見て、彼女の尺度が解らないなぁと思いつつ頭を掻くと、ちょうど武器修繕がアマリの番になった。
話したい用事も粗方終わったので、一階に戻ることにする。
食事の準備は、既に終わっているらしい。
テーブルには所狭しと食事が並んでいたのだが――
「カズキさん! こっちです、席を取っておきました!」
声を掛けられたほうに振り向くと、一階の端にある小さな4人掛けのテーブルにナナともう一人、見知らぬ人物が座っている。
手招きするナナの隣の席が空いていたので、そこに腰を降ろした。
「ありがとう、ナナ。取っておいてくれたんだな」
「アマリさんが取ってくれたんです。ここ、もう一つはアマリさんの席です。えーと、それで……」
ナナの向かいに座る、線の細い青年に目を遣った。
少し癖の強いオレンジ色の髪は、まるでワックスで整えたようにつんつんとしている。
目鼻立ちがくっきりとしていて彫りが深く、垂れ目がちな瞳は空色をしていた。
纏っているのはアマリのそれに似た布製の服で、殆どローブのようなもので露出度は極めて低くあまり近接戦闘系には見えない。
白を基調にして青がラインなどのアクセントで入っており、細やかな刺繍は銀糸で施されていた。
ナナが彼を紹介しようとしたが、青年はひらひらと手を振って口を開く。
「良いよ、自己紹介くらい自分でするから。……カズキ、だよね? 俺は
男性にしては少し高いアルトが自己紹介を述べた。
言われてみればレイとロクと言うのは数字であるが、言わなければ気付かなかったかもしれないのに。
「レイ、だな。よろしく。……ロクって人とはまだ会ってないけど、ナナが居るからロクって名前にしたんだっけか」
「そうだよ、シスコンにも程がある。ナナとはリアルでも何回か会った事あるから、アマリが『ちょうどいい』って全部俺らまとめてこのテーブルにポイ、ってわけ」
「アマリとも知り合いなのか?」
「エンオンでだけね。リアルまでは知らないよ。まぁ、俺らと同じくらいの歳だとは思うけど。だって夏休みじゃん」
ナナは中学生と言っていたので、その兄ならば高校生くらいか。
まるでこちらの年齢について全く考えていないように聞こえる物言いだったが、何も言わないでおく。
アマリからは『リアルについてあまり詮索するな』と言われたのだから。
なので、詮索された場合は下手に答えないのが正解だろう。
レイがどう想像していようが、変な誤解でないのなら別にいい。
「どうやら既によろしくやってるっぽいね?」
笑い混じりのソプラノに振り向けば、アマリが立っていた。
レイの隣に腰を下ろすと、箸を手に取って春巻きをつまむ。
「ナナちゃんは本当にMMO初心者っぽいから、安パイから攻めようと思ってね。カズキもちょうどいいからレイと仲良くやんな」
「自己紹介は済ませたよ。っと、俺らも食べなきゃダメか」
リアルでも会った事があるらしい、という点については触れないでおいた。
アマリも、レイとナナを会わせればこれに触れざるを得ないことは想定していただろう。
しかしどうしても、『リアルについてあまり詮索するな』と言われた事が喉に刺さった魚の骨のように引っかかる。
それに今はギルドハンティングに備えて空腹度を満腹にしておくべきだ。
頂きます、と手を合わせ、一番手前にあった
……なかなか辛味のアクセントが効いた味だ。
一通りの料理に箸を付けたが、どれも純粋に『美味しい』と思える。
確かショウはヤミーと呼んでいたか、この料理を作ったプレイヤーの料理スキルは随分高いらしい。
そうして食事を終えたのだが、空になった皿はぼわんと白煙をあげて消え失せた。
どうやら食事システムに後片付けという概念は無いようだ。
アジトに、ショウの声が通る。
「フォーマンセルかスリーマンセルのパーティを適当に組むよ。行くのはメルアゲイルの二層。レベル高い人は援護メインで、出来るだけ初心者の人を戦わせてスキレベ上げさせて。非戦闘員もせっかくだから来られる人は来て。拾った素材は出来るだけギルド内で買い取るなり譲るなりすること」
フォーマンセルかスリーマンセル、か。
ならば今ここにいる四人で――と思ったが『適当に』と言うのが引っかかった。
「蘇生術持ちの居るパーティは出来るだけエリアの中央に陣取って、死人が出たらすぐ蘇生に向かえるようにすること。じゃあ組み合わせを言うよ!」
……やはり。
ショウがメンバーを勝手に決めたらしい。
いや、確かに……確かに、ギルドに馴染むためならいつまでもアマリやナナとべったりというわけにはいかないのは解る。
しかし、初日なのだ。
せめて一人くらいは知り合いと同じパーティに。
そう祈る気持ちで、ショウの読み上げるパーティメンバーを黙って聞いていた。
「次。ササミさん、シックくん、カズキくん、で、援護にすーちゃんよろしくね」
……見事に、全員知らない。
さて、このギルドハンティング、どう転ぶだろうか。
いや、せっかく『トロヴァトーレ』に入ったのだ。
それにせっかくのVRMMOを始めたのだ。
出逢いを楽しまなくてどうする。
そう自分に言い聞かせた。
まるで自己暗示だ、そう自嘲の笑みを浮かべながら、ショウから指示されて立ち上がったリーダーへと近付いた。
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