第3話

 栗拾いを終えたトッシェとナリッサが次に向かった先は良質な肉が取れると攻略ブログに記載されていたとある洞窟であった。しかし、そこには先客が居たのである。


「おーほほっ! ゴーマ! さっさと紅き竜レッド・ドラゴンの霜降り肉を探してくるのですわ!」


「なんで拙者ばかり働かせるのでゴザル……。シャライ殿も少しは協力する気はないのでゴザルか?」


 金髪縦巻き2本ロールと神官服からもわかるほどの巨乳を揺らしながら高笑いをする女性キャラと、いかにも自分は盾職だと主張するゴテゴテの分厚い金属鎧を着こんだ男キャラが洞窟内で言い争いをしている現場にトッシェたちは出くわしたのであった。


「あっ。これは失敗したッス。入る穴を間違えたとはまさにこのことッス」


「ん……。トッシェ。正しくは入れる穴を間違えただよ? ちなみに僕は後ろの穴でも全然へっちゃら。むしろ、好きなほう」


 誰もナリッサの性癖なんか聞いてないッスと思うトッシェである。先ほどは価値観(カップリング)の不一致で元カレ? と別れたと言っていたが、本当は性癖の不一致のほうが正しいんじゃないッスか? とトッシェはツッコミを入れたい気持ちをなんとか抑えるのである。


「あら? あらら? そこに居るのはマツリ=ラ・ヴィクトリアとイングランドの恥部の腰ぎんちゃくじゃありませんの?」


「おい、失礼なことを言うなでゴザル。【ヴァルハラの武闘会】週では、いくさ時のいざこざを持ち込まないのはノブオンでは暗黙のルールでゴザルよ?」


 ゴテゴテの金属鎧を着た戦士が高飛車な女性を諫める。女性側はさも気にいらないと言った感じでフンッ! と鼻を鳴らす。


「それもそうでしたわよね。ここは謝罪をさせてもらうのですわ。遺憾の意ですわっ!」


「ん……。遺憾の意は謝罪の言葉じゃないよ? 小学生から国語をやり直したほうが良い」


 ナリッサが高飛車な女性に鋭く毒を含んだツッコミを入れる。だが、女性側はきょとんとした顔つきで


「あら? ウッキーペディアでは、謝罪を表すと書かれていたのに、おかしいのですわ? まったく、日本語はわかりにくいのですわ。もっと、英語のようにわかりやすくしてほしいのですわ?」


「だから、ウッキーペディアで日本語の意味を調べるのはやめろといつも言っているのでゴザル……。あんな【知ったかぶりペディア】を真に信じているのは、貴女のお義兄さんくらいなのでゴザル」


 戦士が所作『やれやれ』をおこない、額に手を当てながら首をふるのであった。この戦士の名前はゴーマ=フィッシュバーン。その名はフランス陣営にも知れ渡っているほどの、鍛冶職の最上級位階ランク【店持ち鍛冶屋】でありながら、さらにはイングランド1の盾鍛冶と言われている。


 そんな男が、これまたイングランド陣営の三大傭兵団クランのひとつである【イングランドの綺羅星イングランド・ビューティフル・スター】の筆頭であるシャライ=アレクサンダーと肩を並べて、肉の採集のために洞窟にやってきていたのであった。


 そんな彼女ら2人がいる洞窟にトッシェとナリッサが来てしまったのは、運命のいたずらだったのかもしれない。


「ナリッサ。ここから退散するッス。こんなところに居たら、イングランドかぶれに伝染するッス」


「ん……。トッシェ。ゴーマさんが言っていたように【ヴァルハラの武闘会】週は、相争わないとの紳士協定があるんだよ? トッシェも自分から喧嘩を買うような真似をしないこと。良いね?」


 ナリッサの反論を許すまじといった力ある言葉に、トッシェは思わず、うぐっと口をつぐんでしまう。ナリッサを怒らすと厄介なことになるのは、長年、彼と徒党パーティを組んできたトッシェにはわかりきっていたので、以後、発言に気をつけようと心に誓うのであった。まあ、それでも、この場だけだが……。


「オーホホッ! マツリ=ラ・ヴィクトリアと徒党パーティを組んでいるだけあって、ここで捕れる肉が良質なのは知っているみたいですわね? 彼女の腰ぎんちゃくと言えども、さすがなのですわ?」


「ん……。お褒めいただき、ありがとう。でも、ここに来たのはたまたまかな? この洞窟から、何か邪悪な気配を感じたから選んだまでだよ?」


 ああ言えば、こう言う。シャライとナリッサが頬を引きつらせながら、必死に笑顔を作りつつ、火花をまき散らしながら視線を交わす。


「おい……。だから、いくさ場での感情を持ち込むなと言っているのでゴザル。トッシェ殿。相方を止めるのでゴザル。自分はシャライ殿をもう一度、諫めておくでゴザル……」


「わかったッス……。おい、ナリッサ、落ち着けッス。こいつの口の悪さに付き合うなッス。いがみ合うのは、いくさ場で敵同士になった時だって、団長からも口を酸っぱく言われているッスよ?」


 ゴーマがシャライを。トッシェがナリッサを諫めるのであった。ナリッサは、何故か、当事者のマツリやデンカたちたちよりもシャライとぶつかりやすいのであった。何故、そうなのか、トッシェにはよくわからないのであった。


「うっ。申し訳ないのですわ。この【イングランドの綺羅星イングランド・ビューティフル・スター】の筆頭である、わたくしこそが模範にならなければならないというのに……」


「ん……。トッシェ、ごめんなさい。あの女を見ていると、つい、腹立たしい気持ちが抑えられなくて……」


 2人がそれぞれの相方に謝罪するのである。ゴーマとトッシェは所作『やれやれ』をするばかりであった。


 和解した4人は情報交換をするためにも会話を続ける。


「わたくしたちが【寄合】と呼ばれるサイトで、ここの洞窟には良質な肉が手に入ることを知ったのですわ?」


「なるほどッス。俺っちたちも風の噂で聞いていたから、ここの洞窟にきたんッスよ。で? 実際のところ、どうなんッスか?」


 トッシェが、ナリッサとシャライの2人で会話させるのはまだ危険があると思い、珍しく情報交換役を買って出ることになる。シャライの言いと自分がノブレスオブリージュ・オンラインのプレイヤーたちのブログサイトから手に入れた情報が合致することから、シャライが嘘を言っていないことは確かだろうッスねとトッシェは思うのである。


「うーーーん。なんとも言えないのですわ……。ペットの獅子に鑑定をさせているのだけれど、どれも【高級な肉】止まりなのですわ……」


「ん? 【究極の肉】は手に入れられてないんッスか?」


 トッシェが怪訝な表情を顔に浮かべて、シャライに問いかける。シャライは困った顔つきでトッシェに次のように応える。


「この洞窟に2時間ほど前から獲物の肉をペットの獅子で鑑定しているのですわ。大体、100匹ほど野生の紅き竜レッド・ドラゴンを。でも、どれも【高級な肉】ばかりで、【究極の肉】は、たったの2個なのですわ……」


「おかしいッスね……。俺っちがネットで見た攻略ブログには、10匹に1匹は【究極の肉】が手に入るって書いてあったッス。100匹でたったの2匹しか【究極の肉】なのは、明らかに乱数的にもおかしいッス……」


 ゲームにおいて、何かアクションをおこなった際に、結果がばらつくように『乱数』というものが用いられていることは有名である。


 確率・統計において、例えば1~6の出目のサイコロをふたつを振った場合、その合計値で最も出やすい数値が5~7である。これを『期待値』という。そして、サイコロ2つを振った時の組み合わせがもっとも少ない1+1=2と6+6=12が確率的に最も出にくいのは自明の理である。


 しかしながら、それでは、ゲームとしての何かしらのアクションに対する結果としては、面白くもなんともない。だから、開発者側が『乱数テーブル』というモノを用意し、『確率』で導き出される結果よりも、もっと結果に幅が広がるように工夫されているのだ。


 その『乱数』という観点から言って、100個中、2個しか【当たり】である【究極の肉】が出ないのは、おかしいと思えるトッシェであったのだ。

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