第9話
うっかりじゃねえよっとツッコミを入れそうになるが、話がこれ以上、横道に逸れても困ると思ったデンカ(
続けて、そのメニュー画面から【取引】を左クリックして、マツリとの【取引窓】を開くのでった。そして、自分の所持品からマツリに渡すべき装備品をボックスにポンポンッと手際良くドラッグアンドドラッグしていくのであった。
「おおー。全身、5か所分の防具を全部作ってくれたのね? でも、武器は無いみたいだけど?」
マツリが不思議そうにそうデンカに言ってくるのである。デンカはそう言えばマツリには従者の武器に関してはちゃんと説明していなかったなと思いながら
「ああ、マツリの従者:ヤツハシって、薬剤師だろ? 従者NPCの薬剤師というよりかは、後衛職はは武器によるステータスの変動があまり意味が無いからだよ」
デンカは続けて、従者の武器は攻撃力が高くなれば、腕力のステータス値が上がることを説明に加えるのであった。
「ふーーーん。なるほどねえ。従者NPCって、腕力が上がっても総重量に対する所持品の重量の割合ボーナスが得られないものね? 逆にどんな重装備をしてても、ウエイト増加のペナルティは無いんだっけ?」
「そうそう。だから、プレイヤーと違って、従者NPCは防御力が高い装備をつけておけば良いってことになるわけだ。というわけで、ちょっと不格好な鎧だけど、ヤツハシに装備しておいてくれないか?」
デンカに促されるまま、マツリはメニュー画面から【従者】を選び、従者:ヤツハシを自分の横に呼び出し、デンカから受け取った防具をヤツハシに装備させていくのであった。そして、従者:ヤツハシの装備変更を終えたマツリがデンカに放った一言は、ヒトから防具を作ってもらったニンゲンの言う言葉とは思えないものであった。
「ダサいっ! 本気でダサいっ! デンカ、あなた、いくら防御力が高い方が良いからって、あたしのヤツハシにこんな格好させないでよっ! 特に、この玉ねぎを頭に被っているようなセンスのかけらも無いような兜はっ! あたしのヤツハシを馬鹿にしているの!?」
「うーーーん。やっぱりダメだったかあ……。後衛職の従者が装備できる中では一番防御力が高いんだけどなあ?」
デンカは見た目よりも、その防具の質の良さを見てほしかったのであったが、デンカ自身もマツリがその辺りを理解してくれることはあまり期待はしてなかった。しかし、まさかここまでけちょんけちょんに、自分が準備した防具に文句を言われるとは思っていなかったのである。
「ぶひゃひゃひゃ! マツリちゃん。従者:ヤツハシの装備している防具って、もしかして玉ねぎファイターの装備一式ッスか? こりゃまた、防具を作成してもらう相手を間違えたッスね?」
従者:ヤツハシの玉ねぎニンゲンに生まれ変わった姿を見たトッシェが、所作『笑い転げる』を
「デンカ? リテイクよ、リテイクッ! もう一度、チャンスを与えるから、防御力が高くて、それでいて、まだヤツハシが見れる防具を作って!」
「えええ? じゃあ、せっかく作った玉ねぎファイターの防具一式をどうすりゃ良いんだ? 俺は」
「それはデンカの従者:ダイコンに装備させてちょうだい。デンカの気持ちは嬉しいけれど、こればっかりは、女性キャラに着けさせる防具じゃないわっ!」
マツリは従者:ヤツハシから防具を剥ぎ取り、デンカへ全て返すのであった。まあ、デンカとしても自分の従者:ダイコンの装備を変えておかねば、26階層からは厳しいことはわかっていたので、作ったモノが無駄にはならなかったので、これはこれで良しとするのであった。
「しっかし、従者用の防具で防御力が高くて、さらに薬剤師でも着れるようなモノって、あったっけかなー? トッシェ、お前も鍛冶屋の端くれだろ? 何か知らないか?」
「ん? 俺っちッスか? 俺っちがまともに作れる生産品を修得していると思っているほうが間違いッスよ?」
トッシェは職業【一人前鍛冶屋】なのだが、盾職でありながら、ボスNPC戦でも火力に期待できる【腕力鍛冶屋】と呼ばれるシロモノに傾倒していたのであった。
確かに、トッシェの考え自体はノブレスオブリージュ・オンラインに上級職しか実装されていなかった時代では、職業:鍛冶屋のひとつの運用方法であった。しかし、如何せん、時代は変遷し、最上級職である【店持ち鍛冶屋】が実装されてからは、職業:鍛冶屋は自身の防御力を上げる
それでも、トッシェは【腕力鍛冶屋】としての可能性を信じ、日夜、努力しているのである。正直、余っているキャラスロットにアタッカー職を作ったほうが遥かに効率は良いのだろうが……。
「トッシェに生産について聞くこと自体、間違いだってのは重々承知してるさ。でも、そんなトッシェならではの発想は無いかと期待したんだがなあ?」
デンカにしては珍しく、挑発にも取れるような聞き方でトッシェにそう言うのである。マツリはそれに感づき、スカイペの音声通話でデンカに諫言を
「デンカ……。今の言い方は、ちょっと無いんじゃないかしら? いくら、鈍いトッシェでも、気を悪くするわよ?」
「ん? 俺はトッシェの成長を願って言ってるんだよ。トッシェは職業:鍛冶屋なんだ。トッシェの防御力が俺たち
デンカのつっけんどんな言い方に、少しムッとなってしまうマツリである。もしかして、自分がデンカの作ってくれた装備を嫌がって返したゆえのトッシェへの不愛想な言い方なのだろうか? と疑ってしまうのである。
「あのね? デンカ? あたしがデンカが作ってくれたモノに関して、突き返したことは謝るわ……。でも、そうだからと言って、トッシェに八つ当たりするのは良くないと思うの」
マツリがいきなり謝ってきたことにデンカ(
「いやいやいや。マツリこそ、何を勘違いしてんだ!? 俺はただ、純粋にトッシェのことを思って、多少、挑発的に言ったまでだぞ?」
「本当に?」
「いや、本当だって。そりゃ、ちょっとはマツリに防具を突き返されたのは、カチンときそうになったけどさ? 俺もあんな見た目の防具を渡したのも悪いって思っているから、それとトッシェのことは関係ないからな?」
デンカ(
「本当に本当?」
とだけ返してくる。デンカ(
「すまん。ちょっと、俺はトッシェにきつく言い過ぎた……」
「わかればよろしい。さっ、デンカ? トッシェに謝って?」
マツリにトッシェに謝るように促されたデンカは、はあああとため息をし、俺って尻に敷かれるタイプなのかなあと思いながら、スポーツサングラス式VR機器のレンズに映るソフトキーボードを操り、トッシェに謝罪の言葉を送る。
「あー、トッシェ。すまん。俺の言い方が悪かった……。ヒトに頼み事をしているのに、こんな態度で聞く奴なんていないわな……」
「ん? デンカさん、どうかしたんッスか? いきなり謝ってきて? 何か俺っちに対して、デンカさんは悪いことでもしたんッスか?」
トッシェが逆に何事だという表情で、デンカを見るのであった。良い意味でも悪い意味でも鈍いトッシェに、デンカは詫びとして、今度、トッシェにサブキャラの鍛冶屋で何か装備品でも作ってやろうと思うのであった。
「ん……。トッシェ。デンカさんはトッシェが良い奴だと思っているよ。今度、何か装備品を作ってくれるかもだよ?」
ナリッサはさすがに感づいていたのか、トッシェにそう言葉を送るのであった。デンカは、ナリッサの気遣いにも感謝せざるをえないのであった。
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