rain came boring
HaやCa
第1話
見間違うほどきれいになっている。土砂降りでつまらない今日にあの子を見つけた。
でも、あの子の名前なんだっけ。顔ははっきり覚えているのに、名前はちっとも。
華奢な指でピアノを弾いては、満足そうな笑顔をしている。
ほんとうにピアノが好きなんだな。近くにいるのにとても遠い存在に思えた。
春があっという間に過ぎて、夏もいまは終盤を歩いている。
あの子の笑顔は、春を忘れられない、そんなことを思っているように映る。
川辺にあるここは公共スペースになっていて、誰でも気軽にピアノを弾くことができる。
昔じゃ考えられなかったけど、今は音楽により優しい環境が作られているのだ。
あの子は何を想い、ピアノを弾き続けるのだろう。
今日も聞かずに帰ろうとしたとき、ふいにあの子が顔を上げた。
目と目がぶつかって、あの子はわたし以上に驚いた双眸をしていた。
「今崎さん、来てたんだ」
「ちょっと、ね。帰り道に偶然」
何にも後ろめたいことはないのに、わたしは下を向く。
「来月の定期演奏会の練習してて。よかったら聞いてくれない?」
赤い頬をかいて、あの子は照れ隠しをする。凛乎とした見た目からは想像もできなかった。
何かに夢中になって、誰かを驚かせる。もちろんいい意味で。
「うん。聞きたい。ずーっと聞いていたい」
「おっ。そういってくれると嬉しいよ。じゃ、頑張って弾くから」
瞑目してあの子はピアノを弾いている。
空から雨が零れ落ちても、その旋律は燃え上がるように、それでも心からあたたかい。
rain came boring HaやCa @aiueoaiueo0098
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