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「どうしよう、常盤さん起こそうか?」

 終電がない時間、というよりは最初からタクシーで帰宅予定だったのだろう、志麻に電話を頼まれて振り返るとすっかりつむじをこちらに向けた常盤さんがいた。

「・・・もう少しこのままでいいわ」

 静かなジャズの流れる店内。ラストオーダーの時間も終わって今はもう店内に常盤さんと志麻しかいなかった。

「タクシーが到着するまでもう少し時間があるでしょう? それまで寝かせてあげてもいいと思うの」

 オーケー。志麻がそう言うならお兄さんは別にいいとも。

「志麻ちゃんは常盤さんの事、好き?」

「もちろんよ、パパを見て嫌いになる要素なんてあるの?」

 軽い気持ちで質問しただけなのに志麻はバッサリとそう言い切った。

 うん、そうだね。そんなことないよね、常盤さんには。仕事も家庭も大事にしている人だし、男としても憧れるよ。

「素敵な人だもんね」

「でも、まさか今日、こんな情けない姿を見るとは思わなかったわ」

 そう言ってチラリと横を見る。タイミングよく常盤さんから『ふふ』と笑ったような声が聞こえた。

「まぁそう言ってあげないでよ。常盤さん、今日とても嬉しかったんだと思うよ」

「それは、私の誕生日だから?」

 もちろんそうだけれど、そんな簡単なことじゃなくって。

「子供が生まれるってことはね、とても奇跡的なことなんだよ。そんな奇跡で生まれた子が二十年も健康に育って、大人の仲間入りをして、そうして二人でお酒を飲めるのなんて、親としてとても嬉しいことなんじゃないかな」

 だからいつもよりペースが速かったんだと思う。だって志麻を見る常盤さんの瞳、とても優しくて慈愛に満ちていたもの。

「そうなのかしら」

「そうだと思うよ」

 ましてや溺愛している娘だもの。

「大切な一人娘だもんね」

「ふふ、でもこの調子じゃぁ私がお嫁に行くときは大変かもしれないわ」

「そうだね」

 きっと泣いて泣いて大変だと思う。でもきっと常盤さんのことだから最後には娘のことを一番に考えて行動するんだろうね。

「大丈夫よ、一緒に説得するもの」

「え?」

「これで私もれっきとした大人になったわ。もう子供じゃないもの。やめたのよ、弱い女の子でいるのは性に合わないの」

「ん?」

 ちょっと待って、何の話?

「でもあなたのこと困らせたいわけじゃないから。もっと素敵なレディになるように努力するわ」

「な」

――コンコン。

「あら、タクシーが着たみたいね。パパ、パパ、帰るわよ」

「・・・ん? かえる・・・?」

「そうよ帰るの。ほら立って」

 志麻はそう言って常盤さんの腕を取ってドアへ向かう。

「また来るわ」

 そう言って最後に見せた志麻の笑顔が、なんだかとても印象的で。

「ふぅ」

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