捏造

「これ、ショックガンの跡じゃないですか?」


 ぽつりと言ったのは海生でも修平でもない。

 千恵である。

 海生が驚いて後ろをばっと振り返った。開いた瞳孔が痙攣するようにかたかたと震える。

「んだぁ? ショックガン? 某青狸のアニメの見過ぎだろ」

「違いますよ! お父さんとれいれいがよく使ってたんです!」

「誰だよ? ったく、お前の仲良しの話は今は関係な――」

「関係あるよ」

 呆れた様子の修平の声に海生が静かに、しかし力強く声を被せた。

「は?」

「今から500年後に開発された未来の技術、それがショックガン」

「んなっ!?」

「何、言って……」

 一瞬何を冗談をと真顔で言いそうになったが、口を思わずつぐんだ。そうだここは変人の街。そして彼はそこに住まう「秀才」と称されている。何を知っているか等、我々の頭と常識の外の話である。

 更にはが笑顔で殆ど同じ事を言いやがった。年代の一致がどうも気に掛かるが。

 そう、彼らは多少のSFを許容する必要がある。――これで事件が動くのなら彼らは無駄に文句など言いはしなかったし、もう慣れっこだった。

「主に相手の記憶を操作する為に作られた代物だ。思い出させるのも忘れさせるのも自由自在。

「……!?」

「あたら、しく?」

 突如この場を渦巻く矛盾が一筋の線となって彼らの頭の中で繋がり始める。

「それじゃあまるで……」


「警備員さんの記憶をみてぇじゃねぇか」


 鼻の横辺りをひくつかせながら苦笑する修平の言葉に一同が息を呑んだ。

「え、それって……警備員さんは嘘を犯人に刷り込まれたって事ですか!?」

「そう考えて問題は無いでしょ」

 海生の鋭い眼光が射抜く。

「そもそも少し引っかかってたんだ。こういう犯罪が起こるって分かっているならばまだしも、ただの演劇の練習とも考えられるんじゃないのか?」

「あ、そっか……」

 前提条件があったから我々は彼らの行動を不審に思ったのだ。

 それがなければ歌を歌っていたなり、海生の言うように演劇の練習をしていたなり、様々な憶測が可能である。防犯カメラは音の記憶まではしないのだ、その内容は推測するしかない。

 更に場所が場所である。

 屋上はしばしば何かしらの「秘密」の為に使用される。

「でっ、でもでもでも! 倫太さんは社会人です! 演劇やっている訳……」

「そんなの分からないじゃないか。どうする? 今度の同窓会か何かで出しものすることになっていたら」

「あ……」

「ね? 役者だって色々いるんだしさ。――もしかしたら時沢はプロのスタントマンかもしれないし?」

「えっ! 時沢先輩そうなんですか!?」

「は? 俺はそんなのとは違うぞ?」

「もしもの話に決まってるだろ、お馬鹿だなぁ。だから僕が言いたいのは、副業として役者やってたり、逆があったりするって事さ」

 千恵のボケと武のツッコミに海生が正論で殴り返した。

 がしかし、そんな茶番を挟みつつも既に現場の空気はある一つの結論に辿り着きつつあった。

「――ねぇ、修平。これである程度は固まったんじゃない?」

「……」

 緊張が張り詰める。


「犯人は、確実に剛とは別に居る」


「……」

「別に居る、か」

 修平が親指の爪をカリと噛んだ。

 沈黙と予想通りと想定外とが混在する狭陋きょうろうの中で全ての疑問に対する解答が沈黙で代わりに提出される。

「それって、あの、アイツ怪人なのか」

「サア? 分からないけどさ」

 そこで言葉を口に含ませる、視線を無垢な彼女に向けながら。

「嘘を刷り込ませるなんて何だからしいよね、千恵」

「――あ、そう、ですね」

 わざわざ名指しされた事に少し動揺しつつ曖昧に笑んだ。

 僅かながら何か他の感情が孕んでいそうな表情である。

「こうなると怪人の身長とか技術とか、色々知りたいな」

「もしも彼があの二人組と同じ様に500年後から来たならば」

「可能性は相当濃くなりますね……」

 次の目標が定まった。情報屋を連れてレフォルムだ。

 それとなく怪人の情報を集めるのが目的だ。大輝の名前をちらつかせれば、なからでも好意的に彼は協力してくれるに違いない。――その間に亀裂が走っている事は内緒だが。

 全員で頷きあった。

「あ、あの、皆さん」

「ん」

 急にひしょひしょ話し込んだ一行を見て落ち着かない様子の警備員がこちらを覗き込む。

「他に調べたい事はありますか?」

「あ、ああ、ここで調べたい事については一通り確認取れました。これだけあれば現時点では困らないでしょう」

 慌てて姿勢を正し、簡潔にそう説明する。

「さいですか、それは良かった」

「ご協力感謝します」

 武の丁寧な礼に合わせて(演技モードの)海生が不器用に深くお辞儀をした。

 千恵も真似してたどたどしいお辞儀をする。海生の鼻が限界だ。既に目の辺りを覆ってこれ以上その可憐な後ろ姿を見ないようにしている。

 鼻血そうか、出そうでちゅか? とにやにや笑われて海生は陰で修平の腹に拳をぶち込んだ。

「また何かあったら遠慮なくおいで下さい。私も真相が知りたいように思う」

「ええ、勿論」

 今となっては過去形だが、この警備員が予想以上に優しくて良かったと一同が胸を撫で下ろす。

 本来ならばこんな事、起こり得ない幸運なのだ。

 遠くで煌めく希望と幸運に胸躍らせる。

「それでは私達は次の場所に行きますので、これで」

「あ、ありがとうございましたっ」

「うんうん、君、良かったね」

「はい……!」

 スターでも目指すつもりか? とにやにや笑われて海生はまた陰で修平の腹に拳をぶち込んだ。

 それに気付かない警備員は彼の肩に手を置いて

「頑張って」

と真摯に瞳を見つめる。

「はい」

 困ったように笑いながらその瞳を小さく揺らした。


 * * *


「おーっす! 取引しようぜおっちゃーん!」

「どわッ!?」

 トロピカルジュースをすすりながら小型車の運転席で予定の全くない一日を満喫していた怜の手元が狂い拳銃の雑誌が顔に降ってきた。

 鼻に二桁のダメージ!

 ついでに数少ない休日に三桁のダメージ!! 瀕死の状態だ!!

「アァン? つつつ、その声は犯罪予備防止委員会の皆々様方か。俺の数少ない休日に何の御用だ」

「うっす、初めまして情報屋さん、犯予っす」

「犯予っす、じゃないんだよ」

「大輝に頼まれて来たんすよ、ちょっと助力願いたく」

「嘘はよしておけ、アイツはそういう頼み方はしない」

「ちぇっ、残念です」

「残念がってろ」

「でも帰らないんでかんけーはないです」

「や、帰れよ!」

 へらへら笑いながら情報屋に軽率に近づく。彼の涙目と休日への執着に全く気が付いていないらしい。

 ――終わった。

 休日のお葬式は頭の中で簡単に済ませておいた。南無南無。

「はぁ、流石は給料泥棒様のお弟子さんだな。人の有給まで盗む積もりかい」

「そんな、めっそうもない! 給料を上げてあげようと労働を連れて来ただけっす。まあ安心してよ、俺も休日返上してんだし」

「やッ、俺とアンタらは違ッ! ――って言っても分からんか」

「あはは、分かんねぇっす」

 濃い二酸化炭素が吐かれた。疲労も少なからず混じっている。

 彼らの中には一貫して「俺らも好きならお前も好き」みたいな某ガキ大将の魂が眠っていることをよく聞かされていた。追及するだけ体力と時間の無駄である。

「ったくあんたらは相変わらず元気だな。全く大輝が普段ぼやく通り――」

 半ば諦めたように皮肉を垂れ流しながらそちらを向いてみる。

 しかし一瞬間後、その表情が変わった。


 アタッシュケースに大量の札束が詰め込まれているのだ。


 ――、――。


「……」

 それを情報屋に提示する、キャップを逆さに被った青年は満面の笑みで彼を覗いている。奥に潜むのは悪意か善意か、計り兼ねる何とも無邪気で素敵な笑みである。

 その二つを視線だけで見比べながら暫く放心して後、怪訝な顔をしながら静かに雑誌をどかしてフロントドアを開けた。

「ンだそれ」

「金」

「や、それはそうだけど……何の腹積もりだ」

「何が? 取引って言ってんじゃん。まあ取り敢えず出て来てよ」

「取引って……」

「大輝の名前出しても効かなかったからさ。ステージ2よ、ステージ2。移行が結構早くてビビったけど」

「……」

「どうやらこれは効いたみたい。俺らラッキー」

 表情が読み取れない。不自然な緊張も身体的反応も、異常な生理的反応さえ何も読み取れない。

 そこで事態は一旦硬直した。

「れいれいさん!」

 が、それを打開するのが彼女である。慎重に開くその隙間に捻じ込むように千恵がその身を滑らせ腕に抱きついた。

「ぉわ、お、おーちゃん!?」

「お久し振りです! 会えてとってもとっても嬉しいです!」

「おいおい、ここにはもう来ないんじゃなかったのか!?」

「それとこれとは別のお話って古川先輩も言ってました。それに大事な話があるんですよ」

「だッ、大事な話ってのは目の前の異常事態に関係する事か?」

「異常事態? んん、どれの事でしょうか!」

「え!? あ、あ? い、いやいやいやいや、どう見ても異常事態じゃねぇか! だって、だってだって、ほんの二十そこらの民間人が札束詰めた金属鞄ぶら下げて情報屋に迫って来るんだぜ!? こんな異常事態そうそう無いだろうよ!」

「おおお、取引する気になってくれましたか!」

「言ってない! それだけは断じて言ってない!!」

「ええっ! 何でですかっ!!」

「当ったり前だろ! あんな怪しさ大爆発のアタッシュケース、久し振りに見たわ!」

「えええ、それじゃあ取引は駄目なんですか!?」

「そうだ」

「……くすん」

「う」

 怜は弱い者の味方だ、故に少女の涙に弱い。

 ――って、ええい、そんな事言ってる場合か! の仕事は下手したら過労死コースまっしぐらも待ったなしなんだぞ!

「だ、駄目だ駄目だ。余りに話が突然過ぎてちょっとお返事できんのだ」

「そんなぁ」

「それは困るよ、おっちゃん」

 修平が不意に口を挟んできた。

 腕に巻き付く千恵はそのままに険しい表情を修平に向ける。

「俺らはあんたと話がしたいんだ。ちょっとで良いから出て来てよ」

「……ソレ、初対面の人と話をする態度にはどうも見えないんだが」

 人差し指が真っ直ぐ怪しい金の山を指す。

「がめついと聞いた。だからかき集めた」

「……あんたら、対人コミュニケーション下手だろ」

「ふふ、かもしれないな」

 少し寂しそうな笑みにつと、心を突かれる。しかし油断して心を許してしまえば何が起きるか分からない。

 慎重に次の言葉を選ぶ。

「取り敢えず、取り敢えずだ。先ずはお客として面倒を見てやろう。用件を言え、判断と報酬はそれからだ」

「ふうむ」

 ふと考え込んでちらと目配せ。

 耳元の髪を掻き撫で掻き撫で、

「ここじゃちょっと言えねえな」

と呟くように言った。

「それじゃあこっちも困っちまうよ。付いて行く理由が何一つ無いじゃないか」

「訳は必ず後で話す。だからさぁ頼むよ、取り敢えず金に釣られてこっち来てくれよ」

「おいあんた取引っていう物をちゃんと分かって言ってるのかよ!」

 面倒臭そうな顔に思わず大声で怒鳴る。

 何だ、取り敢えず金に釣られてくれって。一周回って寧ろ尊敬する。

「分かってるよ。だけどここではどうしても言えないんだよ、さっきから言ってるじゃないか」

「俺らしか人は居ないじゃないか、遠慮せずに話せよ」

 肩を落としながら言った彼の言葉に修平の瞳がちろりと光る。

 その僅かな変化さえ重要に見えて注視せずにはいられなかった。

「……何だよ」

「お前と俺ら、じゃあないだろ」

「ん……どういう意味だ」

 物知り顔の相手に体が強張る。

「そこ」

 短く言った彼の人差し指。示す先にある机には海生がいつの間に陣取っていた。その裏に貼られた機械が彼の手によって空いたスペースに置かれる。

 それは既にバッテリーが抜かれた後であった。

 無精髭の喉がこくりと音を立てて上下する。

「れいれい、さん?」

 態度の豹変したらしい彼に千恵が首を傾げる。

「机にFMラジオ。空いたチャンネルから俺達の声」

 長く伸びた髪に隠れていた耳に小さく鎮座する黒いイヤーフォン。彼らのお手製だろう、少なくとも市場に出回っていない。

WFMワイドFM変調による盗聴か? ふん、随分あからさまだな」

 簡単に説明するとFMラジオで受信可能の盗聴方法である。

 詳細は省くが安価かつ市販のFMラジオで受信可能である代わりに電波が飛ぶ距離が短いという特徴がある。

 ただ、市販のラジオで聴くことが出来るという事は便乗盗聴――即ち赤の他人も盗聴が可能であるという事だ。発覚の危険性が高い。

「プロなら普通そんな物は使用しない。FM変調使うならNFMナローFM変調の方がよっぽど一般的だが、それにも関わらずNFM変調を使用しない。加えて机の上のそのラジオ。若しかしてと思って電波をこっそり拾ってみたけど案の定だ、ラジオ放送とは違う不自然なチャンネルが見っかった」

「……」

 眉間に皺を寄せて彼の顔をじっと見つめる。

 怜の顔にも不自然な挙動や生理的反応等は見つからないが、その眼光の鋭さには何か恐怖を人に植え付けるような凄みが含まれている。

「そこから推測できる可能性は幾つかあるが……状況的に考えてお互いでお互いの周辺を盗聴し合っているんだろう。目的は分からんが腹の探り合いか、無線機や電話機の代わりか金欠か、そんな所だろう」

「ほう。で?」


「誰かが裏で聞いてやがる。それが気に入らねぇって言ってんだよ」


「……サテ、誰だろうね。俺もびっくらこいた。盗聴されていたとは」

「誤魔化すな」

「何を根拠に。ラジオはラジオ。チャンネルは存在するだけだろう? それがどうして俺と裏で繋がる誰かとの通信になるんだ」

「へえ、

 不意を突かれて振り向くと直ぐ後ろで海生が真顔で立っていた。

「アンタ……」

「情報屋なのに盗聴に随分甘いね? 盗聴を妨害する為にノイズを発する機械だってこの世には存在するのにさ、それすらここら一帯からは見つからない」

「……」

「それにこのWFM変調の特徴は電波が飛ぶ距離が短いって事は知ってると思うけど、それの大体の距離は5~40メートル」

「が? どうした」

「その範囲で考えるとちょっと厄介な奴が範囲圏内に居るんだよ」

「厄介? 俺にとってはアンタらの方が厄介だけど」

「話を逸らして主題から逃げようとしたって無駄。怪獣の顔が描かれたロングパーカーの男がこの中に居るでしょ」

 目が僅かに見開く。

「同じマンションに住んでて何もない訳無いんだよ、どうなのそこんとこ」

「……」

「嘘吐かなくて良いから」

「……」

「認めて。相手と、なんでしょ」

 沈黙が暫く流れた。

「仮に……俺がアイツ怪人とグルだとして、何のメリットが?」

「そこまではよく分からない。何せ目的も素性も分かっていないから」

「ったく、アンタも甘いね、ん? そこまで突き詰めてから来るんだね、坊ちゃん」

「ただ、彼の怪人が『姿無き殺人』の最重要容疑者の可能性が出てきたと考えれば?」

「――何?」

 聞き馴染みのない新しい話に怜の瞳だけがぐるりとこちらを向く。

「どういう事だ」

「さっき現場に言って証拠を見てきた」

「それで」

「そしたら驚くべき事が起こっていた。それは一方で怪人を指差している可能性がある、それはそれは重大な問題だ」

「……アイツの姿が映っていたとか? 画像加工がされていたとか?」

「半分外れて半分当たってる。そして主題は大きく外れてる」

「んだよ、勿体ぶらずに教えろよ」

「――は?」

「この情報、金になるんだよ。アンタからしてみれば喉から手が出る程欲しいでしょ?」

「……ナルホドな。そこは否定出来ねぇわ」

「だから利用してやろうと自ら近付いた。違う?」

 ふむ、とだけ言って一頻り考えた後、彼は小さく「全く見事だ」と呟いた。

「当たり?」

「残念ながらちょっと惜しい。だがそこら辺はノーコメントとしておこう。そこから先はプライバシー保護に関わる問題だ」

「……そう」

「まあその問題に片足突っ込むとなると流石に色々証拠が少ないからな」

 そしてけひひと悪戯っぽく笑う。そのままぽかんとして聞いている少女の頭を優しく撫でてやった。

「なるほど。話の流れから何を言いたいのかが何となく分かってきた。要はその『姿無き殺人』について俺から情報を買おうって魂胆だな」

「というよりかはアンタに協力して欲しいって方が近い」

「ふむ?」

 身を乗り出してくる。次いで新しい煙草に火を付けて煙をもやもやとくゆらせた。――彼の話を聞く時の癖である。

 しかし犯予のメンバーは何が何でも彼と情報をやり取りして真実に近付く必要がある。

 勢いでバッテリーを抜いてしまったが、今頃それに慌てた傍受者がどのように対策を立てているのか分からないのだ。

 そうして一行は移動する事になる。


「意味のない事を」


 二階の窓から暗い表情で彼らを見とめる怪人の視線など気付くことなく。


 ――そう。そしてそれは意味が余り無いようであった。

「何? レフォルムの連中から話を聞き出せだ? 無駄無駄、止めておけ」

「何で」

「アンタらあれだろ。LIARがきゃつらと取引をしているらしい事を委員長さんから聞かされたんだろ。それで彼らから話を聞いて怪人の目論見だとか現状だとかに迫りたいと」

「よく知ってるな」

「アンタらの内情は委員長さんから筒抜け状態で御座んすえ」

 まあそりゃそうですなと武が真剣な面持ちで頷く。

 また白煙がふわっと口から雲の様に出てきた。

「で? それが何で無駄なんだよ」

「にゃ、アンタらは知らないと見える」

「は?」

「あそこ、実は社員は三人ぽっち。LIARはどちらかというと場所の提供をされているに過ぎない。取引って結構そんなモン」

「え……」

 話と違うではないか。短時間の重要な取引ではなかったか。場所の提供等、それこそ長時間居なければ成り立たぬ話ではないか。

 若しくはあれか。怜の時間感覚と常人のそれとが食い違っていたか。

 新たな謎が図らずも生まれてしまい、修平は頭を抱えた。やめてくれ、マジで。

 しかしそれを問う前に話題が次の方向へと進む。


 その次が我々にとっては少しばかり大問題であった。


「それでその社員さんなんだけど、先ずは話題の人物張本倫太、そしてカイを名乗る男、そして――」

 そう言って溜めつつ名刺を取り出した。

 そこには社長の役職名と名前――星野一歩――が堂々らしく記してあった。

「……誰だこれ」

「誰だと思う」


 不敵な微笑が何かを掻き立てる。


(つづく)


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