キモダメシ

あさかん

👻{ばぁ)

 皆さんはカップルで訪れると必ず別れてしまうという伝説の心霊スポットをご存知でしょうか?


 これは私自身が初めてそれを実体験した時のお話です。




◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




 街灯の無い深い闇を進む。


 兎に角、前へ前へと無心で進む。


 

 どうしてこんなところに来てしまったのだろうか?


 後悔の念が後を絶たない。


 

 私は元々こういうのが苦手だ。


 女の子だし、昔からとても気が弱い。



 肝試し。


 それがこのイベントの名称。


 

 そして私がいる、深夜の墓地へと続くこの田舎道はまさにそれにもってこいの場所だった。


 

 足音ひとつしないのにも関わらず、何故か後ろから感じる存在の気配。


 今にも口から正気が飛び出しそうになるのを必死で抑え、恐る恐るゆっくり振り向いた。


「ばぁ」


「―――ヒィッ」


 月明かりに照らされ、青白く浮かぶその顔は私の意識を根こそぎもっていくのに十分だったが、辛うじてそれを免れたのは、その顔が私の良く知った人のものだったからだ。


「おっ、おっ、驚かさないでくださいよぉぉぉ!」


 イケメンのYくんは私が密かに憧れている男の子。


「ごめんごめん、余りにもすくみ足だったからさ。遠くから見てて心配だったし、つい追いかけて来ちゃったんだ」


 こんなにも優しい声を掛けてくれるものだから、すっごく怖かった反面、嬉しい気持ちも一入ひとしおだった。


 更には、こんな場には到底そぐわないほどの爽やかな笑顔を私に向けてくれる。


「僕が一緒にいれるのはここまでだけど、その曲がり角の先がキミの目的地だよ。大丈夫、絶対にキミならいけるよ」



 行くならば一人で行かないといけない。そんなルールなのは誰もが知っていることだったけど、この時の私はあわよくば……なんて考えていたのかもしれない。



 それでも彼の『大丈夫』は魔法の言葉だった。


 それまでは私になんて、私が一人でなんて絶対無理だと思っていたけれど、彼に『大丈夫』って優しく微笑まれると、不思議とそれは絶対大丈夫なんだって思えてしまう。


 この先の曲道が目的地。


 すぐそこにある終着点。


 

 スッと背中を押されたような気がした。


 自然と体が前に進んだ。


 

 私、行きます。











「ばぁ」




「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!」」






 曲がり角の先にいたカップルの男性の方はもの凄い勢いで来た道を引き返し、その彼氏に見捨てられた女性の方はその場で失神していた。



「やったな!」


 振り向くと、サムズアップで私を称えてくれるオバとものYくんがいた。


「はいっ!上手にできましたっ!!」



 幽霊になってから苦節二年、私は自分が担当するこの縄張りで初めて人を驚かすことが出来ました!! 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る