第2話

 親友のエリの死を知らされた時カナはちっとも驚かなかったし、悲しくもなかった。


 ーーーーついに逝っちゃったんだ。


 ただ、そう思った。


 それは別にカナが薄情だとかいう訳ではなく、カナを取り巻く環境がカナから感情というものを奪っていたからだ。


 全ての事がどうでもいいし、生きたいとも思わない。もういっその事、戦争に負けちゃえばいいとさえ思っていた。


 だからエリの死についても、ただ当たり前の事であり、今回はたまたま自分ではなくエリが死ぬ順番だった。


 ただそれだけの事である。


 だから、


 #次は__・__#自分が死ぬ順番なのだ。


 それがいつになるのかは分からないけれど、それだってどうでもいい。


 明日でも来月でも、いつだって同じだ。


 なんなら今、この瞬間でも。


 こうなってしまっては、生き死にについて特にこだわりは無い。


 いつまで生きて、いつ死んでも別に構わない。


 そう思うのは、かつての仲間達と交わした約束があるからだ。


 自分の生きる理由は仲間達のため。自分の戦う理由は仲間達を守るため。


 そうやってお互いに守りあう事が自分達の生きる理由、戦う理由として生きてきた。


 だからエリが死んで守る対象がなくなった今、カナが生きる理由も、戦う理由もないのだ。


 自分には何もなくなった。


「…………」


 最近考える事がある。それは、自分はいったい何のために生まれて、何のために死ぬのだろうということ。


 幼い頃から教えられた航空力学も、気象学も、戦闘術も、全ては奴等、正体不明と戦わせるためのものだと思うし、物証というか身体の中に機体を制御するための装置を埋め込まれていたのでまず間違いはない。


 自分を含むかつての仲間達は奴等と戦わせるためだけに生まれてきた、用が済めば要らなくなる子供なんだと、そう理解した。


 自分は戦うために生まれてきた。


 別にそれならそれで構わない。


 戦うために生まれてきたのなら戦おう。


 ーーーーそれでいい。


 じゃあ、自分はいったいなんのために死んでいくのか。


『大丈夫、お前ならやれる!』


『君は人類の、世界の希望だ!』


『私達は君を誇りに思う』


 カナに向けられるこうした激励の言葉は、カナを戦場に送り出すための呪いのように聞こえる。


 カナは考える。


 自分は全人類のために死ぬのか。


 あるいは先に死んでいった仲間達のために死ぬのか。


「…………」


 答えは出なかった。


 その日カナは行くあてもなく基地から抜け出した。

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