第1話🐾準備は慎重に

『華瑠、ごめん、別れてほしい』


それは何の前触れもなく言われました。


週末の何時もと

変わらない彼の家で。


『昊洸、

私のことを嫌いになったのですか?』


私は彼に何か

してしまったのでしょうか?


ここ二週間程、

忙しく会えない日が

続いていたのは確かですが

それくらいで壊れるような

仲ではないと自負しているつもりです。


『そうじゃないんだ……


だけど別れてほしい』


嫌われたわけではないとわかり

そこには安堵しましたが

では何故、別れてほしいなどと

言うのでしょう……


『理由は教えてくださらないのですね』


声に棘があったのは否めません。


『ごめん……』


彼の口からは謝罪だけ。


『私は別れる気は

毛頭ありませんので

保留ということにしておきます』


彼の家を出て帰路につきました。


。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。


彼から別れを告げられてから

三ヶ月経ちました。


そして、その日の朝刊を見て

頭を鈍器で殴られたような

気持ちになりました。


新聞の一面を飾っていたのは

昊洸とある令嬢の婚約発表。


そういうことなら

あの時に言って

くださったらよかったのに……


それとも、この発表まで

口外禁止だったのでしょうか?


それなら、仕方ありませんね。


しかし、この婚約に

昊洸が乗り気ではないと

深影さんが教えてくれました。


彼は何故か裏の人間とも仲が良いのです。


「《華瑠、新聞見たか?》」


朝食をすませ、出勤の準備をしていたら

深影さんから電話が来ました。


『《はい、見ました》』


「《あの記事は信じるな》」


どういうことでしょう?


「《あいつはあの女に

脅されてるんだ

お前の命と引き換えに結婚しろとな》」


はい!?


それこそ、すぐに私に

言うべきではありませんか!?


いえ、それこそ

言えなかったのでしょうね。


私の命が自分のせいで

狙われているなんて……


優しい人ですからね(苦笑)


『《わかりました。

教えて頂いてありがとうございます》』


深影さんにお礼を言って

通話を終わらし

出勤するために家をでました。


。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。


学校に着き、自分の席に座り

隣の席が空席なのを確認し

小さくため息を吐きました。


昊洸が欠席なのは

今朝の朝刊を見た時点で

わかっていたことですけどね。


「華瑠、おはよう」


授業の用意をしようと

机の上に色々と出していたら

深影さんが声をかけてきました。


『おはようございます』


「華瑠、ちょっといいか?」


昊洸のことでしょうね。


『はい、構いませよ』


。.・◆・.。*†*。.・◆・.。*†*。.・◆・.。


授業の用意を持ち

深影さんの後について行くと

着いた場所は家庭科準備室。


「職員室じゃ話せないが

此処なら邪魔かま入らずに話せる」


家庭科準備室は

深影さんしか使ってないですもんね。


「昊洸を奪還する気はあるよな?(ニヤリ)」


当たり前じゃないですか。


『ぇぇ、勿論』


彼は私の恋人ですからね、

返して頂きますよ(ニヤリ)


「そこでだな、

お前に女装してもらおうと思うんだが」


それはいいですね。


私は普段、“綺麗”だの“可愛い”だの

昊洸以外に言われるのは

好きではないのですが

少なくとも例の令嬢よりは

自分の方が綺麗だと思っています。


『婚約発表のパーティーは

今夜でしたよね?』


朝刊には今夜八時から

◆◆ホテルにてと書いてありました。


「そうだ、早めに学校を出て

華瑠のドレスを買いに行かなきゃな。


その後は俺の家でヘアーメイクだな」


予定が決まれば実行するのみです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る