第44話
空中で手足をかき、転がり込むように橋の向こうに辿り着いた。
まもなく、ドボン、と川から聞こえてくる。
大丈夫……だよな――。
心配になる。だが、繋いでくれた想いを胸に、目の前の事に集中した。
「ホンっト、しつこいわね」
辟易としたなかに確かな敵意が混ざる表情を浮かべる怜奈。
「妹を――雪海をかえせッ!」
「この期に及んで言葉が無意味な事くらい知ってるでしょ。〈スカジ〉!」
怜奈の前に人型の氷が現れる。
だが、アイスゴーレムとは違う。
身長は冬鷹と同じくらいだ。長い髪と細い身体の線が、一目で女性だと判る。手にはボウガンを持ち、足にはスキー板を履いていた。
同時に怜奈を取り囲むように宙に点々と氷の粒が現れる。見る見るうちに成長し氷柱となったそれらは、冬鷹に鋭く尖った先端を向けた。
言葉無く、氷柱が飛びだす。
冬鷹は〈ゲイル〉で左へ大きく避ける。
――が、そこへ〈スカジ〉がボウガンで氷の矢を複数同時に放つ。
「ぐ――ッ!」
当たった矢の内一本が〈金剛〉を貫き、冬鷹の左肩に突き刺さった。
「アンタ一人で天才の私に勝てるわけがない」
再び複数の氷柱が冬鷹を襲う。今度は右に大きく避け、さらにスカジの矢も避けた。
しかし今度は、突如地面から生えてきた氷柱に道を塞がれ、接近の機会を逸する。
気が付けば、地面は怜奈を中心に白い薄氷に覆われていた。
「諦めるのね」
「諦めるわけないだろッ!」
だが下手に踏み込めば、また足を凍らされ、〈ゲイル〉を破壊されかねない。
氷の世界はじわりじわり、その領域を拡大してゆく。
「仲間はもういない。来たとしてもここまで渡ってこられない。例え渡れたとしても、その頃にはアンタは倒されて、私はこの街とおさらばよ」
避けても地面からの氷柱と氷の陣がある。だが、恐れてはいつまでたっても近付けない。
冬鷹は意を決し、氷の陣内へと踏み込む。
〈ゲイル〉による急接近。怜奈の周りには次弾となる氷柱がまだない。
〈黒川〉をクルっと握り直し、怜奈に向け峰を振り下ろす。
だが――。
「アンタ、バカね」
強烈な打撃が冬鷹の胴部を襲った。
「ぐあっ、がはッ――」
殴り飛ばされながら、冬鷹は失念していた事に気が付いた。
アイスゴーレム――。
怜奈の背後で雪海の身体を担ぐそれは、単なる運搬用ではなかった。
「だから言ったでしょ。勝てるわけないって」
「はあ、はあ、」
全身を巡る痛みに抗い、立ち上がる。言葉を返す余裕などない。ただ目標を捉え、刀を構え直す。
しかし、怜奈は無慈悲に告げる。
「無駄よ」
「ぐあッ!」
冬鷹の足に痛みが走る。
倒れ、起き上がった場所、そこは氷の陣の内側だった。
「これで〈ゲイル〉は無くなった。〈金剛〉も貫ける。〈黒川〉も届かない。〈力天甲〉も〈パラーレ〉も全く脅威にならない。これじゃあ〈アドバンスト流柳〉も宝の持ち腐れね」
そう言う間にも、スカジの矢が冬鷹の右ももに突き刺さる。
冬鷹は〈力天甲〉を使い足元の薄氷を叩き割ると、陣の外に下がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます