第11話

 一先ず事態は収まった。しかし、現場の調査や聞き取り、被害状況の確認や現場警備、怪我人の応急・搬送、保険会社への対応など。隊員の仕事はまだ終わっていない。


 だが冬鷹は参加させてもらえなかった。

 もっとも、負傷度合いを考えれば当然だ、と冬鷹自身も納得している。


「よくやった! お手柄だな!」と、冬鷹の肩にドンと手が置かれた。


 手の主――去川さるかわ先輩は何故か楽しそうな笑みを浮かべている。彼はバディである英吉の肩にも手を置いていた。


「二ノ村ァ、どうだったよ、俺の咄嗟の判断と剣捌きは?」

「ええ。素晴らしかったです。大変勉強になりました」


 英吉は普段の穏やかさとは違う、爽やかでキリッとした表情で頷く。冬鷹・杏樹の三人でいる時には決して見せない顔だ。しかし、特別珍しい事でもなかった。


「だろ~? 俺が奴の腕を切ってなかったら大勢の怪我人が出るところだったぜ」

「右腕を切り損ねたけどねぇ」


 と、根本が眠たそうに漏らした。


「切ろうとしたら隠岐が横取りしたんだろ! それに根本も!」

「詰めが甘いからフォローしたんだよぉ」

「詰めの最中に割り込んで来たんだろうが!」


 まあまあまあまあ、英吉が止めに入る。こういうポジションは変わらないようだ。


「ともあれ、先輩方のおかげで助かりました。危うく親友を失うところでした。な?」


 話題を逸らす為の言葉だったのかもしれない。

 しかし、冬鷹は本当に、一瞬死を覚悟した。

 冬鷹は心の底から「はい」と頷き、二人の先輩に頭を下げた。


「すみませんでした。もっとちゃんとしてれば先輩たちに迷惑掛ける事なんてなかったのに。俺みたいなド新人が、調子に乗ってあんな化け物に……勝てるわけなかったのに」

「おいおい、何言ってんだよ! 冬鷹が足止めしてたから、二ノ村が避難誘導できたんだし、だから俺たちが間に合ったんじゃねえか!」


 サルの言う通りさぁ。だから気にする事ないでしょ。と、根本は眠たげに頷く。


「むしろ褒められるんじゃないかなぁ? まぁ、僕やサルは怒られるかもしれないけどぉ」

「はあ!? なんで!?」

「規律に違反して新人だけ・・・・で行動した――そんな後輩たちの直属の先輩としてねぇ」

「はあ? むしろ逆だろ! 規律に違反してでも・・・・・・・・市民を守ったんだぜ? そんな後輩を育てた事を褒められても良いくらいだ」

「かもねぇ。まぁ、どっちになるかは『上』の気分次第でしょぉ。でもさぁ、そもそもな話、僕もサルも『育てて』はないよねぇ」

「お前はそうだろうけど、俺はちゃんと二ノ村に隊員たるあれやこれを教えてる。なァ?」


「ええ、大変勉強になっています」と英吉の外面用スマイルが爽やかに輝く。


「二ノ村君は人間ができてるなぁ。まぁ、僕としても、こうして正当にサボれてラッキーだし、冬鷹君と二ノ村君には可哀想だけど、サルと僕は互いに良い後輩を持った、って事だねぇ」

「うんうん。 ……ってッ! はあ!? 根本、てめぇ! どういう意味だ!?」

「どういう意味もぉ、そのままだけどぉ? まぁそんな事よりぃ、」


「『そんな事』じゃねえ」と、食らいつく去川の言葉は、根本の手によって制された。


「冬鷹君にぃ、お客さんみたいだよぉ」


 根本の視線を辿ると、先程の逃げ遅れた少女が冬鷹を見つめ佇んでいた。

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