舌足らずな予言

六地蔵

舌足らずな予言

あるところに物を言わない幼児がいた。声を発することができないわけではない。ただ、喋るのが月に一度程度で、それも舌足らずで何を言っているのかわからない。そんな男の子だった。


その子に声をかけられた人間には、常ならぬことが起こった。近所の老人は、声をかけられた後、顔見知りの子どもを誘拐して殺害した。その子が通う保育所の保育士は、諦めかけていた子宝を授かった。そしてその子どもの両親は、飛行機事故で命を落とした。


ある人は、それを予言だと言った。またある人は、言霊だと言った。口さがない人などは、呪いだと言った。


いずれにせよ、不気味な子どもだった。両親を失ったその子は、叔父に引き取られた。


ある日の夕飯の席で、叔父は、自分をじっと見つめる子どもに気付いた。


ゾッとした。


子どもが口を開きかけたのを目にして、叔父はパニックに陥った。咄嗟に子どもの口を塞ぎ、そのまま首を絞めた。子どもの言葉は飲み込まれ、音になることはなかった。子どもは死んだ。

叔父が、どうするつもりだったのかはわからない。子どもを床に寝かそうとしたのか、浴室に運ぼうとしたのか、いずれにせよ死体を移動させようとした。そのとき、食卓の下に画用紙が落ちているのに気付いた。

その紙には、叔父と思われる男性の絵と、覚えたての平仮名で「だいすき」と書かれていた。その日は叔父の誕生日だった。


叔父は、己の行いを悔い、自ら命を絶った。


子どもの言葉が予言なのか、言霊なのか、呪いなのか、それはわからないままである。

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