第4話『杉誤爆炎上事件』



 ──『花粉症』の話の数日後の事だった。


「これが我が工房の新商品『花粉ナクナール』」


 俺は、屈強なおじさま方に囲まれたオーバーオールを着た茶髪の女子にどことなくパイナップルに似た金属の球を手渡された。葉の代わりにピンのようなものが刺さっていて、サイズは手に丁度収まるような。


 これ。手榴弾では?


「こ、効果は?」


 正直声は震えていたと思う。だって仕方ないじゃないか。俺は椅子に座らされていて、肩を思い切り、黒野先輩に押さえ付けられていたのだから。


 ──因みにここは高校じゃなくて何かの工場みたいな所だった。何処だか分からないのは誘拐されたからです。何でだ。


「そりゃ、花粉をこの世から消すってヤツよ」


「うん。試作品の1つ。ピンが抜けた瞬間爆発して周囲の花粉もろとも吹き飛ばす」


「へー爆発で花粉を……もろとも!? 今もろともって!!?」


 オーバーオール女子は首を傾げる。代わりに黒野先輩が慌てふためく俺に対して込める力を強くしながら言う。


「そりゃ木の回りで使えば樹齢三百年でもボキンですわ。大義のために犠牲となれってやつっすわ」


「あっぶな!!? 大義って花粉を世界から消してしまおうってやつですよね!? そんな危ない行動に走る大義なら捨ててしまえ!!」


「投げたあとにピンを抜けば安全」


「どうやって抜くんですか!!」


 手に持っているがさすがに怖くて弄れない。説明聞くにこれは完全に手榴弾だし。


「そんなの簡単。貸して」


 オーバーオール女子に手榴弾を返す。すると女子は事も無げにピンに手を掛ける。


「こ───────────。」






「次の新商品はこちら『対花粉オートビームキット』」


「ちょっと待って。しれっと進めてますけど皆死にかけたんですけど。爆発して死にかけたんですけど。というかどうやって生き残れたんですか俺達は」


「そこは悪の組織パワーってことで流してくれ」


 黒野先輩がまだ俺の肩を掴んで押さえ付けている。というか辺り真っ黒で所々火がのぼってて且つ辺りを屈強なおじさま方が消火活動してるんですけど、無視していいんですか。


「これは、花粉を感知するとビームを打って花粉を燃やし尽くしてくれるロボ。力作」


 無視ですね。いいのかこれは。


「これを肩に」


「分かったぜ」


 黒野先輩にロボが手渡される。昆虫のような六本足が金属製の平たい六角柱の底面から出てる感じだ。その足を俺の肩に突き刺し──突き刺さるの!?!?


「いっっっっ!!!? 」


「はいはい我慢我慢男の子でしょ」


「同じ男子として黒野先輩もやってみてくださいよマジで」


「あー俺改造人間だから痛くねぇと思うっすけど」


 出た。ファンタジー設定。スルーさせてもらいま「スイッチオン」ぎゃああああああああああ!!!?


 視界が真っ白になった。






「続きましては」


「ちょっと待て」


「?」


「何か、無いの?」


「何かとは?」


 辺りを見渡す。死屍累々と言った感じに、屈強な男たちが倒れていた。


 先程のロボットはスイッチをいれると、ビームを放った。確かに、それは花粉を消し飛ばしてくれるだろうと思うくらいに威力の高いビームだった。


 しかし、花粉に対して放たれるビームは。


「全方位ビームをブッパするロボットで皆を倒しておいて何も!!! 無いの!!?」


「皆、ちゃんとここで実験することわかっててここにいるから」


「じっっけんって言った!!!? いや俺知らなかったんですけど!!?」


 これまでに無いくらいのテンションで俺は問い詰めた。


「黒野先輩はロボのビームを至近距離で浴びて……」


「おいおい、死んだみたいに言わないで欲しいけどな」


「……言ってません」


 黒野先輩は俺の肩を押さえながら、そう言った。黒野先輩は普通にしていた。


 火事になりかけてはいるものの、おじさま方も死人は居ないようだ。大怪我の人も居ない。不思議な状態だ。生きてるに越したことはないけど。


「大丈夫、この『無効空間クラワナーイ』があれば」


 オーバーオール女子が取り出したのは球体の粒々が詰まってるタイプの消臭剤。ただ、なんとなくその残量が気になる。


 もう殆ど残ってるように見えない、その中身滅茶苦茶気になる。


「なんですかその無香○間みたいな消臭剤は」


「なんと。これは臭いが届く範囲なら、致命傷を無効化してくれる消臭剤」


「それは、すごいですね」


「うん、ありがとう。それで次はこれ」


「……猛烈に嫌な予感がするんですけど」


「そう言うなよ新入生、危なくないかもしれないだろ?」


「そうなんですか?」


 俺は少し安心して振り返って黒野先輩を見ると、どうしてか正面から気まずそうに顔を逸らしていた。


「これは『メギドの炎』。試してみよ」


 前へ向き直ると、オーバーオール女子が全く効能を説明をしないで持っているランタンにライターを近付けているところだった。


「はい起動────────。」


 ──その日、全ての杉の木が一度燃え上がった。


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