第25話 森からの脱出

「な、なんじゃその格好はウケケケケケケ!!」


 何とかボスを撃破し、一旦ログアウトしてアパートに戻ったら、神さんに爆笑された。

 指を差し足をバタつかせ笑い転げる神さんに忌々し気な目を向ける。


「どうせたんだから知ってんだろ、何があったかなんて」


 神さんは俺の事を覗き見て楽しんでいる。承服しがたい事だが、それが俺に異世界冒険という名の趣味を与えてくれた代償なので仕方が無い。

 つまり神さんは俺がこんなになった理由を知っている、いや見ていたはずだ。なのに爆笑って!?


「ん、おうおうすまんのう。ちょいとテレビに夢中になっておってお主の方は見ておらなんだ」


 と思ったら見ていなかった、だと!?


 そ、それはそれでちょっと複雑な気分だ・・・・。


「言いたいことは色々とあるが、俺が向こうに行っている間時間が止まってるはずなのにテレビを見てたって、ほんと神さんの行動はどうなってんのさ?」

「それこそ神のみぞ知るなのじゃ。お主では到底理解できない理屈じゃから気にしてもしょうがないのじゃ」

「へいへいそうかよ」


 はぁと溜息をこぼしその話はしめた。

 神さんの非常識さを今更どうこう言っても仕方ない。それこそ神さんが言う通り神のみぞ知る世界なのだろう。俺としてはこの貰った趣味さえ使わせてもらえていれば問題無いしな。あと、疲れたのでこれ以上つっこむ気力もない。流石にあのゴブリンキングの相手は精神的に草臥れた。


「・・・・・・シャワー浴びてくる」

「ほっほ、そうするがいいのじゃ」


 取り敢えずこの泥だらけの体を何とかしよう。

 本当は銭湯に行ってゆっくりと湯船にもつかりたいところだが、こんな泥だらけの姿で行くのは流石に恥ずかしい。


 泥を流し、着替え終えてさっぱりして部屋へと戻ると、神さんは既に居なくなっていた。

 何処に行ったのか、妙なタイミングで居なくなる神さんに小首を傾げるが、これもまた神のみぞ知るだろうと気にするのをやめた。


「テレビつけたままじゃねぇか」


 テレビ画面にはアナウンサーの男性らしき人物とにぎやかし的な芸人二人組が絡んでいる映像が流れていた。

 何と無しにそれを眺めながらドライヤーのスイッチを入れる。


『先日オープンしたばかりの横浜の新エリア。コラール・ベイポートアウトレットにやってまいりました』


 大雑把にわしゃわしゃと髪を掻きまわしながら適当にドライヤーをあて、ある程度乾いたくらいでスイッチを切りちゃぶ台に置く。

 用意していたウーロン茶を半分くらいまで飲んでほっと一息。


「・・・・・そう言えばこんなのが出来たってウェブニュースで見たかも」


 ついていたから眺めていた番組は、どうやら最近新規オープンしたアウトレットショッピングモールの紹介をしているらしい。休憩中に眺めていたスマホでそんな情報があったなと思いだす。


『綺麗すぎて小汚いおっさん三人で紹介するのが申し訳ないですわ』

『誰が小汚いおっさんや。俺はまだ43のお兄さんや』

『小汚いは否定しぃひんのか。てかお前のお兄さん幅広すぎやないか?』


 ベタベタのボケとツッコミであるが軽妙なテンポですすむので思わずプッと拭いてしまった。だが俗世から外れた生活社畜をしていたのでこの芸人たちが誰なのかまでは知らない。


『そんな事もあろうかと今日はスペシャルゲストをお呼びしております』


 ショッピングモール入り口でやいのやいとやり取りをする芸人を、アナウンサーが段取り良く切り込むと、画面がパンして女性3人が登場する。


「・・・・・ほぉ」


 その女性3人組が画面いっぱいに映しだされた時、思わず感嘆の声が漏れ出た。


 まだ10代中後半くらいと思われる女性芸能人は、如何にもテレビ映えのする可愛らしい顔立ちをしていた。


『ここに負けず劣らず話題を振りまく“プリシード”の皆さんです』

『『『こんにちはプリシードです』』』

『先日発表された新曲のPVはアップしてから僅か一週間で視聴回数が1000万回を超え・・・・・・・』


 当然ながら俺は聞いたことが無いグループ名だった。アナウンサーの紹介を聞く限り多分アイドルか何かだろう。


「加藤が好きなのもこんな感じなのか?」


 最近アイドルにハマっているらしい後輩加藤。きっと加藤が好きななんちゃらもこんな風に可愛らしい女性なのだろう。


「・・・・あぁ確かにハマる人はハマるわな」


 容姿の良さは言うまでも無く、声や雰囲気でも特別感がテレビを通してでもバリバリ伝わって来る。いや、テレビを通しているから猶の事なのかもしれないが、それでも彼女たちはまさしく偶像アイドルと呼ぶに相応しい存在だと素直に思った。


「最近のアイドルはすごいんだな。加藤を馬鹿にも出来なくなっちまったわ・・・・・しかし、この子どっかで見たような気もするんだが・・・・・神さんが見てた他の番組にでも出てた子か?」


 三人組のうちの一人。恐らくグループの中心となる少女。

 そのアイドルの顔、と言うか雰囲気だろうか、それが俺が知っている誰かに似ているような気がした。


 とは言えこんな美少女の知り合いなどいない。俺の周りにいる顔の綺麗な人と言えば室長くらいだが、あの人とは年齢がかけ離れて似ているとは思わない(本人には絶対言えない)。

 可能性があるとすればテレビかネットか?


「これだけ目立つ顔ならどっかであってれば分るし、多分そうだろうな。さっぱりもしたし、さてと、もうひと踏ん張りしてきますかね。あぁこれでやっと森から出られる」


 体の熱も冷めてきたのでそろそろ異世界に行こうと立ち上がる。


 長かったような短かったような。

 化物みたいな森ももう終わりが目の前だ。


 アイドル少女たちが自己PRをしている番組のチャンネルを異世界に切り替え、再び必要とは思えない階段を下りる為テレビの中に潜り込んだ。






「うおぉぉぉ、ついに脱出したぞぉぉぉぉぉぉぉ・・・・・・・・・・はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 喜びに雄たけびを上げた。


 そう、とうとう化物森を抜け出す事が出来たのだ。

 マップが途切れていた部分がやはり森の境界線だった。


 が、その高揚は直ぐにしぼみ、いつしか俺の口から出ていたのは不機嫌な声。


「嘘だろおい!」


 振り上げていた手を降ろすのも忘れ、俺は周囲の景色に愕然とそう呟いた。



 森を出た先、そこは辺り一面が何も無い荒野だった。



 どこを見ても土、土、土の茶色の世界。ゴツゴツした岩と土の殺風景な景色。

 俺が求めた人里などどこにも見当たらない。それどころか人の気配を感じさせるものが何一つない。


 どうやら俺の異世界ムーブメントはまだ当面先のようだ。


 俺が落胆に肩を落したのは言うまでも無い。

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