第130話 狭まる包囲網
※コメント
ババァがヒロインか?何て声がありましたが、現時点にてババァヒロインルートは考えておりません。
確かに主人公とのやり取りで今一番主人公の心を掴んでいるのはババァですが、そこに男女の想いは一切存在しておりませんので安心(?)してください。
一応ヒロインとしては2名+プチ1で物語は組み立てています。2名が誰なのかは言わずもながらってとこでしょう。
今後の展開をお楽しみにお待ちください。
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街の中はいたるところに武器を持った兵士と冒険者たちが待ち構えていた。
「マジで有能だな!!」
ここならばと思って進むと必ずその先に誰かがいる。マップが無ければ宿屋を出て早々に捕まっていただろう。
街の熟知度が桁違いだ。
装備品から追手は兵士が七割冒険者が三割ってところだろうか。兵士だけならいざ知らず冒険者もきっちり連携と統制がとれているのだから質が悪い。
屋根伝いに逃げようとしたが、その屋根上にまで弓を構えた冒険者がいた。スナイパーとかやめてほしい。
こうなると見つからずに逃げ切るのは不可能じゃないかと思える。
「くそ、こんな早朝にこれだけの人数集めるって、どんだけブラックだここの領主」
追い詰められていく状況に愚痴気味な悪態が出る。いっその事面倒だから突貫してしまおうかと頭をよぎる。
だがその選択肢を背中から伝わってくる体温が抑えてくれる。
「大丈夫か、フィア」
「は、はい。私は大丈夫です」
俺の背中に手を添えたステルフィアが息を整え大丈夫そうでない大丈夫を返す。
今、建物の陰に身を潜めステルフィアの体力が回復するのを待っているところだ。
何時襲撃を受けるか分からないこの状況、常に臨戦態勢をとるために屋根を降りてからはステルフィアには自分の脚でついてきてもらっているのだが、お姫様だからか体力が少々心もとない。無理はさせられないので隠れがてら度々休んではいるのだがそれでもやっぱり辛そうだ。
流石にこの子を連れて突貫は無謀だな。
マップを眺めながらステルフィアに負担の少なそうな脱出ルートを模索しよう。
正直ここまでいいように踊らされている気がしてならない。単純に数で押さえ込む訳じゃなく的確に嫌なポイントに絞った人員の置き方をしているので、隙をつき難いし地味に俺も疲労が溜まってくる。
相手が何枚も上手だというのが身に染みる。今まで俺はステータス任せで切り抜けてきたが、今回はそうも行かなそうだ。
マップを見ると南は街の中心地なうえにギルドが近い為めか包囲網が厚い。東西は出口付近を厳重に固められていて街から出るのはすんなりとは行かないだろう。
残るは北だが・・・・・・北側はステルフィアが攫われたスラム街がある場所だ。乱雑に並んだ建物で道が分かり難く入り組んでいるうえ、低い建物しかないので明るくなってきた今では屋根を進むと返って目立ってしまうから逃げるには向かない場所だ。
だが・・・・・・
「少し手薄になっている。スラム街だから兵士も入りにくいのか?」
思案に耽っていたら口にだしていたみたいだ。ステルフィアが不思議そうに俺を見上げていた。
誘われている気もしないではないが・・・・・・・ここなら抜けられそうなんだよな。
迷うところだが、現状を考えるとステルフィアに一番負担を開けないで済むのは明かに北側だ。
俺はしばし思案して決めた。
「スラム街を抜けよう。フィア、そろそろ行けるか?」
「はい、問題ありません」
体力的にも精神的にも大丈夫かと問いかけると、ステルフィアは力強く頷いた。
ステルフィアの心の傷を考えると不安があったのだが・・・・・・気丈な子だ。
「また少し走るけど、辛くなったら言ってくれ」
「これ以上ご迷惑は掛けれません」
子供らしくないことを言うステルフィアに「無理はするな」と苦笑いに注意を促してから、俺とステルフィアは周囲を警戒しながらスラム街を目指して路地へと飛び出していったところで、マップには追手がこっちに近付いてくるのが映っていた。
気を焦ってタイミングを間違えてしまったようだ。くそ、失態だ。
「フィア、急げこっち」
早くここを去らなければ、とステルフィアの手を引いて走り出した。俺は見えない敵との戦いに精神的に随分と追い込まれていたのかもしれない。
飛び出すタイミングだけじゃなくここでも失態を繰り返してしまった。
「あう!」
突然引かれたステルフィアがバランスを崩して転倒してしまった。
慌てて立ち止まりステルフィアを助け起こそうとしてると「見つけた」の声。ハッと顔を起こせば曲がり角の端に兵士らしき男がこっちを指さしていた。
しまった。
俺が急ぎステルフィアを抱え起こすとここでもミスを犯す。
ステルフィアの外套がパサリとはだけてしまったのだ。
朝日に眩しく光る銀の御髪。
美しくも特徴的なステルフィアの銀髪が敵の目に触れてしまった。
見つかった兵士から何とか逃れ、俺とステルフィアはスラム街までやってきていた。
廃材を組み合わせて作られたような建物は今にも崩れ落ちそうなほど傾いている。元からなのか徐々に朽ちてきたのかは分からないが、ただ人が住むような場所に見えない事だけは確かだ。
ステルフィアを助けに来たときは夜だったからあまり気にしてなかったが。
「これじゃあ廃墟といってもいいくらいだ」
どれもこれもボロボロで辛うじて小屋の体を成している現状に思わず不躾な言葉を吐いてしまった。以前立ち寄った開拓途中の村であるティンガル村、そこの掘っ立て小屋の方がまだましだと思える家々なのだが中では人が暮らしている。
こういう現実を目の当たりにすると気が滅入ってくるな。
ステルフィアも同様なんだろう。細く綺麗な眉が物悲し気に歪んでいる。
複雑な路地を人気に注意しながら進みスラム街の半ばまで来た辺りで、当たって欲しくなかった予測が見事に的中してしまった事に気が付いた。
「・・・・・・これって、誘導されてる?」
マップ上の追跡者たちのマーカーがこちらの動きに合わせて集まってきていた。広範囲にされど要所要所に配置されていた追跡者が、俺たちを囲むようにその包囲網の範囲を小さくしている。
見事な包囲網だ。だからこそ疑問でならない事がある。
いくら何でも優秀過ぎる。こっちはマップで相手が見えているにも関わらずこうも追い込まれるなんて。これじゃあ俺の動きがバレバレって事じゃないか。
どうやってそんなことを出来る。
「・・・・・これも魔法なのか?」
「・・・・?」
俺の呟きに後を着いて来ていたステルフィアが不安そうに見る。少女を怖がらせるのは得策じゃ無いのだが今の俺は取り繕う余裕が無かった。
俺はマップを使って人と出会わないように動いていた。実際俺たちの姿が目撃されたのはほんの数度。それだけでここまで的確に、しかも最高のタイミングで場所を特定されるのはどうにも違和感がある。
もしこれが予測だとしたらそんなもんもう神の領域だぞ。
俺は見えない敵の首領にうすら寒いものを感じた。
追跡者の動きはまるで俺と同じようにマップを見て動いてるかのようだ。最適で最小限に俺たちを追い込んでいる。
冗談じゃないぞ。
そんなのって俺みたいな能力者がもう一人いるって事じゃないか!!
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