第131話 代官ブルゴリ

【代官ブルゴル】





「さてはて敵さんもそろそろ気が付きますかね。どうやっているのかは分かりませんが、賊は逃げ上手な方みたいですから、これだけ慎重に行っても多分勘づかれてしまうでしょうね。いやいや面倒なことです」


 代官である私が早朝からこんなに頑張っているのです。ほんとにほんとに面倒ったらありはしませんねぇ。


 額から流れる汗を拭きながら、机上に広げた街の地図の駒を動かす。


「はいはい、ここ、この方たちをこちらへ・・・・・・あぁそれこここは少し押し上げていきましょうか」


 えぇえぇ、でもこれも時期に終わりますかね。


 追い詰められていく一つだけ違う駒を見て「ぐひ」とほくそ笑む。


 私の指示にしたがって行動を開始する【テイマー】たち。彼らが働いているうちにお気に入りの焼き菓子を一つ頬張る。


 あぁ実に豊かな甘味ですねぇ。やはり頭を使ったときはこうしてお菓子と紅茶を楽しむのが一番です。

 そしてこの後お噂高い美しい少女をじっくりと愛でられればこれに越したことはないのですが、残念ながらそんなことをしたら私の首がどっかに飛んでしまいます。と言っても私は少女趣味は無いので別にいいのですがね、えぇえぇほんとですよ。


「ブルゴリ様配置完了いたしました。それとご報告が」

「ふむふむ、聞きましょう」

「追跡していた兵士の一人が目標を目視で確認。銀色の髪をした美しい少女とのことです」

「ぐひっ、当たりですねぇ、ほむほむ」


 テイマーからの朗報にお菓子を一気に頬張る。


 半信半疑だった情報がこれで確実なものとなった訳です。銀色の髪の少女などノーティリカ大公家の血筋にしか存在しませんからねぇ。あれはの証、大公家女系女性にしか現れない唯一無二の印です。


「ほぉほぉ、ではいよいよ罠への追い込みをかけましょうかねぇ。これで一切妥協をする必要がなくなりましたからねぇ。予定通りゴミ掃除も合わせて行うことにいたしましょう。公女の確証がなければ言い訳も面倒だったのでどうしようかと思っていたのですが、いやいやこれは一石二鳥の素晴らしい作戦ですよ、はい」


 駒たちがちゃんと働けば私が失敗するわけがありませんからねぇ。それと、それと、この作戦で煩わしい街の問題を多少は解消できそうですし、その費用を国が出すのですから、えぇえぇこんな美味しいことはありませんよ、はい。


「領主様もきっとお喜びでしょう、はい」


 私はこの後の栄誉に酔いしれる。


 しかしまんまと踊ってくれる道化ですね。私にスラム街へと誘導されていたとも知らずに・・・・・・・いや知ってて来てますかねぇ。どっちみち賊に選択肢はないのですから同じことですが。


 今回は数名のテイマーを用意する大規模な作戦です。”テイマー”の視覚共有があれば逃亡者の追跡など楽なものですよ。しかも今回連れてきたのは空を飛ぶ”鳥のテイマー”なのですから、どうあがいたところで逃れることはできませんよ。


 と言っても最初屋根の上を真直ぐ逃げ出したときは正直慌てましたが、追撃用の冒険者を配備していたのが功を奏しましたねぇ。全く非常識な逃げ方は困ります、はい。


「ではでは、ここに目標が到達したらを実行してください」


 さて大詰めですよ。これは腕がなります、はい。


 私がその瞬間を今か今かと待ちわびていると、ギルドの職員たちが何やら困り顔で私に進言してきました。


「・・・・あの、本当に・・・・・・やるのでしょうか?」

「何を言っているのですか、当然ですよ、はい。ここまで追い詰めておいて逃がすわけにはいかないでしょうが」

「それは・・・・そうですが、方法は別なものがあったのではと」


 どうもギルド職員はを一緒に片づけるのに抵抗があるみたいですね。


 本当に本当に・・・・・・愚かなことですね、はい。


「はいはい、分かっておりますよ。これでも私はこの街の代官をやらさせていただいておりますからねぇ。ですがですが敢えて言わせていただければ・・・・・だから実行するのですよ、はい。先日のことだってそうではないですか?相手が偶々であっただけで、もしかしたら街の住民が犠牲になっていたのかもしれないのですよ。いえいえ、もうなっているんでしょうねぇ。これは由々しき事態ですよ、はい。私はこの街を愛しておりますから、この街の住人を大事に思っておりますから、それを考えると胸が痛くて苦しくて、えぇえぇ、夜も満足に眠れなくなっているのです」


 ほんと、臭いし騒がしくて寝てられませんよ、えぇえぇ。


「だから正常化するのですよ。無法者をこの街から追い出す、これは好機なのですよ、はい。この機を逃すことはそれこそ街の損害なのです。だから・・・・・・分かっておりますよね」

「・・・・・分かり、ました」


 私が強く睨むとギルドの職員は渋々とながら頷きました。


 全く全く、何が「人のためにあれ」ですか。ギルドの理念だか何だか分かりませんが、それはちゃんと人として成り立っているものの為に行うことであって、人になり切れないにすることではありませんよ。


 おっと、そんなことをしている間にネズミが掛かったようですよ。


「今です。おやりなさい。魔術師たちで奴らをスラムの街からなさい」


 さぁさぁ、計画通りです。


 奴らをスラムから誘き出すためにスラム街を燃やしてしまいなさい!!

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