第108話 動き出すゲーム
【????】
「馬鹿な」
我は憤りに手にしていたティーカップを床に叩きつけた。
あり得ない報告に朝から気分が最悪である。
「どういうことか、魔物達が全滅であると?」
我は怒りのあまり濃密な魔力が漏れ出していた事に気づかぬまま、報告をしてきた黒衣をにらみつける。それによって黒衣は傅いたまま身動き出来なくなり締め上げられたような呼吸音を喉から吐き出す。
「黙っていては分からぬぞ!!」
苛立ちに我は黒衣を蹴り飛ばす。黒衣は壁に激突しその場に崩れ落ちると黒い霧となって消え去っていく。
軟な眷属だ。この程度で消えてしまうとは。
使えぬ眷属に舌打ちを鳴らし、我は別な黒衣の眷属へと視線を向ける。眷属は同胞が消えた事など気にする様子も無く淡々と話し報告の続きをする。
「恐れながら報告は真実であります。タルバンの街を襲わせるために用意しました魔物がその姿の大半が消失してしまいました」
「あれだけの数を放ったのだぞ。どうしてこうも簡単に全滅などした。そもそもタルバンに被害無しとはどういうことだ・・・・・ん、待て、消失だと? 死んだのではないのか」
「いえ、言葉通りでございます。魔物の多くは消えてなくなってしまいました」
おかしい、そんな筈がない。魔物が消えるとはどういうことだ?
あ奴らは我の魔力から作った眷属とは異なりあれから生み出されている。倒したからと言って消えるものではない。
いや、今はそちらを気にするより魔物が何も出来ずにいなくなった方が問題だ。これでは我の計画が、あの御方に献上する筈だった楽しみが無くなってしまうではないか。
「詳細は不明ですが、大規模な爆発が発生、それにより魔物は殲滅されてしまったものかと」
「それはタルバンの人間どもがやったのか?」
「いえ、見た限りでは別な要因かと」
「別な要因だと? それは王国の手の者たちか? または別な国か?」
他国がリーンフォルデン王国に干渉してきたならばそれならそれでいいだろう。
だが我のその考えは即座に否定された。
「申し訳ありません。詳細は一切つかめておりません。しかしあの場にいたのは魔物達とタルバンの街から出兵した軍のみでしたので、大規模な別な戦力がそこに存在したとは思えません。ただ一つ分かっておりますのが・・・・・・」
ひとしきりの報告を眷属からの説明を受けた。
「・・・・・・なるほどな。分かったもう下がってよい」
我はひとしきり聞き負え手を振ると眷属はその場を去って行った。
我は椅子にどかりと腰を下ろす。
「あれだけの魔物が消えただと・・・・・!」
それも我の眷属の話が本当であれば、それを行ったのは大部隊などでは無いという。それであれば小規模な戦力、或いは個人か・・・・・・。
「そのような傑物・・・・・・いや、おるか」
そこで我は思い出す。この世界にいる厄介な人類の戦力の事を。
それは剣聖、賢者、聖女と呼ばれる者たち。
「だが今の世に存在しているのは剣聖のみの筈。それであれば別の何か、或いはあれだけの数の一掃だとすれば新たな賢者が現れた可能性もあるのか? もしやと思うが消えたとなると途絶えた空間魔法の使い手の出現か」
眷属はあの場で何者がいたのかは見てはいないが、だが『あの場には膨大な魔力の残差が残っておいた』と言っていた。
「大規模魔法、あるいは転移魔法だが・・・・転移魔法では爆発は起きないか。ならば合成魔法か」
あの魔物達を全滅させるとなると、それこそ戦略級儀式魔法クラスが必要であろう。あるいは人間にとっては伝説なっている第7階層魔法を使えるものが現れたかのどちらかだ。
だが戦力級儀式魔法はあのタイミングで用意できたなど考えられぬ。魔物達はあれの力で作り出したものだ。事前に察知など出来るとは思えん。
それであればやはり次世代賢者が現れたと考えるのが普通。
だがそれだと分からないのが消えたという現象。
「・・・・・・なんにせよ面白くないな」
我の計画を邪魔立てすることは|あの御方の楽しみを奪うと同義だ。そんな事を許せるはずがない。
折角動き出した娯楽を邪魔されてはたまらない。
その為に一番邪魔になりそうな精霊どもを黙らせ、娯楽の火付け役としてあの国を滅ぼしたというのに。
・・・・・・・・・・。
「・・・・く・・・くっ、くくくくくく」
いや違うな。これは返って面白くなったのか?
そうではないか。我に対抗する存在が現れるのは娯楽としては至極真っ当。人間どもを争わせるだけではつまらない。
と、そこで我はふと気が付く。
「そうであった。もう一つ面白くなる要素が残っておったな。くくっ、もしかしたらそちらの方なのかもな・・・・」
あの御方の事だ、きっとそれは近いうちに実行されるはずだ。
それにそれならば我の知らない方法で魔物を消すという方法もあるのやも知れない。
我が生み出されたのだ。その可能性は高いだろう。
それであれば我は更に行動することにしよう。我の役目はあの御方が楽しめるようにこの娯楽を盛り上げることだからな。
ならば計画をこのまま進めようではないか。その為にはやはり餌が必要だ。それも極上の。
「あの公女は手に入れておかないといかんか」
火種はまいたがやはりそれを燃え上がらせる燃料は必要だ。あの公女はその中でも一番の起爆剤になってくれるだろう。
それにあの公女さえいればこちらで押さえている精霊を手駒として使う事も出来よう。そうなれば益々この世界は面白く転がってくれることだろう。
「うむ、あの御方もきっとご満足してくれる」
我はそれを思うと嬉しくて仕方が無い。
今回は邪魔が入ったが我のすることに変わりはない。我の役割は決まっているのだから。
さぁ続けようではないか、人間同士が争う、最高の娯楽を。
そして世は理解するだろう我の存在に、そしてそれに対抗できる人間の存在に。
そう魔王と勇者の存在に。
それこそ我が主が求める余興の始まりである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。