第88話 赤の猟団

【赤の猟団 グットマン】





 畜生、まだ腹がいてぇ。


 誰だか知らない冒険者の男にやられた腹をさする。正直半端じゃない攻撃に俺は死ぬんじゃないかと思った。


「何なんだあいつは、とんでもない野郎だったな、クソ」


 冴えない男だと思っていたのに、恐ろしい手練れだったとは。口惜しさに歯噛みする。


「なぁグットマン、どうするよ。街の前にでも張り込んでとっ捕まえるか?」


 団員である斥候役のポートフが腹立たしい笑みを浮かべながらやってきた。


「リーダーともあろう奴が簡単にやられたもんだな」


 どうやら俺があの男にやられたのが面白いらしい。相変わらずいけ好かない野郎だ。これで腕が立たなければ速攻で切り捨てたものを。


「うるせぇ。お前だってあいつに会っていたらこうなっていた」


 唯でされ苛立っているの余計な煽りを入れてくるこの馬鹿は俺たちが気を失ってからここにやってきたらしい。訊いたら誰もあの男を見てないと言っていた。どうやらお姫様を連れてさっさとどっかに行っちまったらしい。


「いちちち、全身がまだ痛むぜ。まじで化け物染みた強さだったなぁ。俺ら3人あっという間だったぜ」


 俺と一緒にたウォーガンが座りながら腰をさすっていた。こいつは岩壁にたたきつけられたらしい。良く生きていたな。


「んでリーダー様どうすんだ。このまま諦めっちまうか」


 奴と戦ったこの場所に俺の煙筒を見た仲間たちが全員集まっている。こいつらがもっと早く来ていればあんな奴に煮え湯を飲まされずに済んだのに、こいつら全員とんだのろまだ。しかもそんな間抜けなことを言い出すとは。


「諦める? おいおい馬鹿なこと言ってくれるな。そんな訳無いだろうがよぉ」


 このままで終わらせたらこっちの面子と立場が無くなんだよ。


「あの男はぶっ殺すに決まってんだろう。それに俺たちが横取りに襲ったことがギルドにばれると面倒だ。奴が街にたどり着く前に始末しないと拙いだろうが」

「リーダーいきなり斬り掛かんだもんな、もうちょい考えてから動いて欲しいわ」


 もう一人俺と一緒にやられたウパがそう言ってきたが、こいつはこう言っているがそれが悪いなど微塵も思っていない。何しろうちで一番殺しをやってんのはこのウパだからな。


「だなぁギルドに報告されて【審判官】が出てきたら簡単にバレっちまうからな」


 その通りだ。あの忌々しい【審判官】の魔法にあてられるとどういう訳かウソが言えなくなる。経費が高いらしいからよほどの案件じゃなければ出てこないが、今回のは拙い。何しろ依頼主に国が絡んでいるからな。それで起きた揉め事をギルドが何にもなしに見逃すとは思えん。襲われて反撃して殺したならまだしも、俺たちの様な行為は犯罪者として鉱山送りにされてしまう。特に俺ら【赤の猟団】はギルドからマークされているからな。もしバレればここぞとばかりに【審判官】を送ってきかねない。


 まぁでも解決方法は簡単だ。


「俺たちにこんなことをした奴は口無しにしないとなぁ」


 ギルドに何も言えないようにしてしまえばいい。その一番簡単な事は殺してしまうことだ。


「だと思ったよ。んで、どこでやっちまうのさ。この近くだとタルバンの街だったか? あと最近開拓村が出来たって言うけど、ここからじゃ遠いだろう。だったらやっぱり街の前で待ち伏せて」

「いや、その前にあいつは仕留める」


 確かに街の手前で張っているのが一番楽ではあるがそれでは駄目だ。


「何でだ? 無理して探すと逆に逃がす事にもなりかねないぜ」


 ウォーガンの言うことはもっともだ、普段なら俺でもそうしたことだろうな。


「それでは一番の目的達成できないからな」

「あん? 目的? 手配書の公女様だろ。だったらあの野郎をやって公女様を奪っちまえばいいんじゃねぇのか? あれ本物なんだろ」

「あぁ、あれは間違いなく公国のお姫様だったな。あれだけの美貌はそういるもんじゃないからな。それにあのだ。間違いないだろう」


 そうだ一目見て分かった。あの美しさは別次元の生き物だってな。


「だったらそん時捕まえりゃいいじゃねぇか」


 ウォーガンが面倒臭そうに手を揺らす。


「それじゃあ他の奴に俺たちがあのお姫様を捕まえたってバレる可能性があるんだよ」


 俺がそう言うとウォーガンがハッとした顔をする。こいつも似たようなことを考えていたんだろう。まったく碌でもねぇなぁ、クク。


「別にいいだろう? どっちみち捕まえたら国に渡すんだから、誰に見られたって一緒じゃないのか?」


 どこがいけないんだとポートフが眉をハの字にしている。


 はっ、こいつはお姫さんを見てないからそんな事言えんだよ。一度でもあの顔を見たら絶対に俺らと同じように考えたろうさ。


「お姫様は国に渡さない。あれは俺たちがいただく」


 そうだ、あれは極上だ・・・・いやもっとそれ以上だ。年齢の幼さなどどうでもよくなる圧倒的な美しさを持っていた。

 あのお姫様を捕まえた手が未だに熱をもってやがる。あいつを抱きたいと俺の身体が疼いてやがる。


「おいおい、冗談だろ。あいつの懸賞金みただろうが、あれだけあれば当分遊んで暮らせるぞ」


 くそったれた戯言を言ってきたポートフに俺は呆れた目で向ける。あのお姫様はそんなはした金でくれてやれる品物しなもんじゃねぇよ。実際あのお姫様を目の当たりにしたウォーガンもウパも俺に対して何にも言ってこねぇ。こいつらだって同じ考えを持ってるだろうからな。


「その程度の価値じゃすまないって話だよ、あのお姫様はなぁ。なぁに存分に俺らで楽しんだ後、飽きたら売ってしまえばいい。それだってこの懸賞金以上の値が付くと思うぜ」


 まぁそんなことは無いだろうがな。あのお姫様に飽きて手放すなど余程の馬鹿か変人だ。


 きっとあの男も同じ考えなんだろうよ。


 奴に先に喰われちまうのもしゃくだからな、だったら人目の付きにくい森の中にいる間に捕まえちまった方がいい。そう考えれば彼奴らが街へ行かず森に逃げてくれたのは好都合だ。


「よぉし、お前たち。奴らが逃げた森の中を徹底的に探し出すぞ。何としても女を手に入れろ。そして俺たち【赤の猟団】にたてついたあの野郎をぶっ殺せ!!」


 待ってろよ。直ぐに俺の女にしてやるからな。

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