第84話 神さんよりも女神っぽい

「まずは少女を寝かせる場所を用意しないとだよな」


 何時までも少女を抱えているわけにも以下ず、ましてや地面にそのまま寝かせるなど出来ないので、アイテムボックスからキャンプセットを取り出して設置することにした。


 アイテムボックスというのは非情に便利で大きさ関係なく収納ができる。だからテントはたたまず組み立てた状態のままにしてあるので設置には時間も手間もかからない。


 俺のテントは2流メーカー品ではあるが6人用を買ったのでそれなりに広く使える。値段は3万くらいだったが結構しっかりとしていて使用には全く問題はない。まあテントは雨風がしのげればいいのだから、組み立ての容易さや重さとか考えなければこだわる必要はないだろう。

 だがそれ以外の装備はかなりこだわっている。底敷きの断熱シートにテント内のエアーマット、それに簡易のベッドに寝袋など、これは高い方が機能も快適さも段違いに良くなるので、こちらには随分と金をかけた。そしてそれらも全部テントに設置したままししているので出したらもう何時でも寝れる状態だ。


 地面を【整地】スキルで整えてからテントを設置。予備で持っていた毛布を敷きそこに助けた少女を寝かせた。それでは寒いだろうから上から更にもう一枚毛布を取り出して掛けてあげる。寝るには邪魔そうな外套だったが、流石に少女と言えど女性の着ているものを剥ぎ取る訳にもいかずそのままだ。

 血や泥もそのままだから毛布は使い終わったらコインランドリーで洗わないとだめだろうな。そんなことを考えていたらふとこの間のことを思い出した。


「・・・・・・コインランドリー、か」


 あの夜にばったり出くわした少女のことだ。


 見た目に反して気さくに話しかけてくる女子高生の少女。思えばあの子との出会いも助けたことが切っ掛けだった。


 助けてあげて、盗撮魔と間違われ、可愛い女子高生と知り合い、そして少しだけ仲良くなれた。


 そう考えると俺って分からない。


 そんなどうでもいい事を考えながら、毛布に包まれすやすやと寝息を立てる少女を残し俺はテントの外に出た。



 テントの前に小さなテーブルと椅子を置いて座ると、シングルバーナーを取り出しその上に小さなポットを乗せる。それから買っておいたミネラルウォーターをポットに注ぎ火をつけた。容量が小さいのでお湯は直ぐに沸いた。ドリップコーヒーをカップに乗せてお湯を少しずつ回しいれるとコーヒーの良い香りが立ちのぼる。

 熱々の出来上たてコーヒーをちびりと飲んだ。

 特段拘りもないので銘柄も入れ方も適当だが、こうして外で飲むコーヒーは不思議とおいしく感じる。


「・・・・・今日は徹夜だな」


 食道と胃を中心の身体の内側からじんわりと温まってくるのを感じながらぼそりとそう呟く。


 俺一人であればモンスターに襲われても死なないだろうが、あの少女はそういう訳にはいかないだろう。

 なので今日の俺は寝ずの番だ。

 因みに赤外線センサーはあまり役に立たないでお蔵入りしている。


 とは言え俺自身一晩位寝なくても苦にはならない。最近まではしょっちゅう会社で徹夜していた訳だし、酷いときは3日くらい徹夜したこともある。まぁ流石にあの時は寝不足のあまり最後は気絶してしまったがな。その後大変だったと室長に愚痴られたのはいい思い出だ。


 小腹がすいたのでカップラーメンで簡単な腹ごしらえをした。夜は冷えそうだと焚いた焚火に薪をくべると何故だかニヤついてしまった。


 結局モンスターが現れることも無く静かに夜は過ぎ去り何事もなく朝を迎えることが出来た。




 ちゅんちゅんと清々しい小鳥のさえずりを聞きながら背伸びをしていると、テントの中で布すれの音が聞こえてきた。


 どうやらお目覚めのようだ。


『・・・・どこここ、え、どうして、出られない』


 それから直ぐに慌てた声とともにテントの幕に手形が何度も盛り上がってきた。どうも出方が分からなくて中で暴れているみたいだ。


 入り口のファスナーを開け入り口を捲り上げる。すろと驚いたのか少女が悲鳴を上げて隅っこへと逃げていった。


 その様子に「一声かければよかったな」と反省しつつ少女の事を見た瞬間、俺は絶句とともにその場で固まった。


 逃げていった際に少女の外套のフードが外れた。


 結果露になった少女の顔。



 それはあまりにもだった。



 凡そ地球ではお目にかかれ無い淡い青色を含んだ銀髪の少女は、汚れてはいるがそれでもはっきりと分かるくらいに美しかった。

 キャラデザの担当者に写真を撮って送ってやったらきっと大泣きして喜ぶだろう、そう思えるほどにだった。


 その美貌は触れたら壊れてしまいそうな精巧かつ繊細なまるで美術品のようであり、世の人の理想を完全にそして完璧に再現したらきっとこうなる、そんな顔面パラメーター値で組み立てられたかの様な造形美だ。

 そのあまりの完璧さはもはや生身の人間であることを疑ってしまうほどだ。だからだろうか些か人間味に欠ける様に思えてしまう。


 ただもし俺の部屋に現れたのが神さんではなくこの少女であったのなら、俺は間違いなく女神だと信じ崇めたことだろう。


 それくらい神秘的な美しさをこの少女は持っていた。


 もはやこの少女を美少女と言う言葉が生ぬるい。さしずめ現実の美少女が御堂林さんだとするならば、この子は幻想の美少女って感じだろうか。


 いやぁ心底助けてよかったと思った。この子が死がどれだけ世界の損失になるかわからん。ただそれだけに大変残念に思える。


 なぜこの子が少女なのだろうか。


 年齢的には外人の子なので判断しずらいが、見た目多分12,3歳くらいじゃないだろうか。

 いくら綺麗だからと言っても流石にこの年齢に俺の食指を動かすわけにはいかない。俺は決してロリではないし分別もある。そもそも一小市民としては犯罪になりそうな事案は勘弁だ。


 折角テンプレ的・・・・からはちょっと外れた救出劇をした俺だが、どうやらその後のムフフな展開とか見返りとかは夢として消えてしまったみたいだ。


 なので一瞬驚きに硬直してしまったが、恐ろしく綺麗な子に対し俺は冷静に対処が出来ていた。


「あぁ・・・・別に何もしないから怖がる必要は・・・・・て、それは無理か。俺は外にいるから落ち着いたら出てくるといいよ」


 それだけを告げて幕を上げたままにしてテントから離れた。


 それから10分くらい過ぎた辺りで少女がテントから出てきたのだが、何て言ったらいいのかもうオーラみたいなものがバリバリ出ているし、美しい銀髪なんかは朝日に照らされキラキラと輝きまるで後光のようだ。明るい場所で見る少女の存在感が半端じゃない。


  思わずかしずいてしまいそうになるぞ、これ。


 全く持って信じられない少女だ。これが3次元で実在するなど異世界恐るべし。


 それはともあれだ。


 少女を見た限り脚を引き摺る様子は無さそうだし、顔の血色・・・・・はちょっと病的なまでに白いがそれはきっと元々だとして、少なくとも調子が悪そうには見えないな。

 ハイポーションでHPは完全に回復してくれたみたいだ。

 

「怪我は大丈夫そうだね」


 あれだけの大怪我だと地球なら後遺症が残ってもおかしくないレベルだからな。その場で傷が塞がるのは見ていたけど、こうして普通に歩けているのを見るまではやっぱり不安はあった。


「・・・・・・え!? うそ、どうして」 


 どうやら少女は気付いていなかったらしい。俺の言葉の意味を最初分からないといった感じにしていたが、自分の体の変調に気付き目を丸くした。

 

 そして信じられないと怪我をしていた脚を摩る。


 きっと驚きに回りの事など忘れてしまったんだろう。少女は太もも付近まで脚をはだけさせていた。真っ白く柔らかな絹の様な太ももが眩しい。


 エロスは無いが背徳感は物凄い。


 そっと目を逸らす。


「これは・・・・・・・貴方が・・・・・」


 少女が訊いてくる。どうやら正気に戻ったようだ。


「ポーション渡したろ。悪いけど勝手に使わせてもらったよ」


 事後報告をしておく。本当は抱きかかえて脚をめくってしまったのだがそこは内緒にしておこう。


「まぁ立っているのもなんだからそっち座ったら」


 もう一個出しておいたキャンプチェアに座るよう少女を促すと、少女はチェアと俺を交互に見てから恐る恐るではあったが素直に腰を下ろした。


「う、ぁ」


 その際座面が沈み込んで少女が驚いた。それはこの少女が初めて見せた年齢に相応した可愛らしさがった。

 俺はそれを鑑賞しつつ今朝入れたコーヒーを口に含む。少女はキャンピングチェアの座り心地に落ち着かないのか視線をあちらこちらと彷徨わせていた。


 俺が怪我を直したことでどうやら少女の警戒心が少しだけ緩んでくれたみたいだ。これならば話も出来るだろう。確認しておかないといけないことは多くあるからな。


 だけど最初に訊かないといけないのは決まっている。



「名前を教えてくれないか?」

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