第79話 はしゃいだ自分を罵って下さい

 二足歩行の豚はなかなかにして気持ち悪い。


 こいつは顔が完全な豚、何故だか下半身だけ人と同じで上半身と腕も豚と言うアンバランスな生物は腕が豚だから当然物はつかめない。どちらかと言えば上半身を人型にして下半身を豚に寄せた方が便利だったろうに、どうしてそっちに行ってしまったのだろうか。


「とりあえずぶっ飛べ!」


 そんな進化の過程を間違えた可哀想なモンスターに俺は無慈悲にも魔法を打ち込む。


 二足歩行の奇妙な豚、もといオークは腹を魔法に抉られ光となって消えていった。



 あれからかなりの数のモンスターを魔法で倒していった。それで大体【魔術師】の能力と魔法の使い方は把握できたと思う。


 まずスキル【魔力調整】。

 これはMPの消費量を調整することで威力を変化させることが出来る。【水魔法Lv1】で使える魔法の【鋼水の礫】は基本消費MPが5。何もしないで撃つとゴブリンキングが粉々になるくらいの威力だが、MPを2まで減らすと、クラリアンさんが使った威力に落ちる。1にすれば威嚇ぐらいに丁度良いかもしれない。

 逆に最大に上げることが出来るのは倍の10まで。MPを10消費して使ってみたら辺りにクレーターが沢山出来てしまった。


 【多重起動】はやはり魔法を同時に展開させることが出来るスキルだった。Lv1で10個まで。ただしMPの消費量は展開数に応じて増えるので使用には注意が必要だろう。

 Lv1の魔法は消費MPは少ないので、相当な無茶をしない限りは枯渇しないとは思うけど、上位の魔法でMP消費が多いものは下手に使ったら逆にピンチを招きかねない。


 因みに【魔力調整】を最大値にして【多重起動】で10個展開して撃ってみたら、まるで空襲の後みたいな景色に変わっていた。

 超危険だったと言っておこう。あと自然破壊してごめんなさい。


 でも、魔術師がちやほやされる意味が良く分かった。魔法の威力は強く殲滅力が半端でない。それにこの魔法の特性上攻撃範囲も広い。



 そんな魔法の検証をしていると、ティロリンと脳内に電子音が鳴る。



『【水魔法】のレベルが2に上がりました』


『【刺突の流閃】を覚えました』



 来たこれ!


 早くもスキルのレベルが上がって新たな魔法を覚えた。


 こんなにも早くとも思ったが、朝来たのにもう日が傾き始めていた。夢中になりすぎていて気付かなかった。いったい俺はどんだけ魔法を撃ち続けていたんだ。

 それにどうも周辺のモンスターを狩りつくしてしまった見たいで、マップ上にはマーカーが見当たらなくなっていた。よく見ればMPはカスカスに近い。残り1割程度だろうか。


「あ、そうだ。薬草探さないと」


 魔法が楽しすぎてすっかり忘れていたが、今日ここに来た目的の一つであるギルドの依頼をまだやっていない。

 初っ端請け負ったクエスト失敗なんて恥ずかしい。

 別に今日中じゃなくてもいいやつだが安い報酬のクエストだけに日をまたぐと何となく負けた気がする。


 と言うことでジョブチェーンジ【農民】。ショートカットアイコンをポチっとな。


 見た目は変わらないけど【農民】に早変わり。


「どれ早速・・・・・・・・この辺には無し、か」


 【植物知識】を使って周囲を観察するも目的の薬草はこの辺りには無いみたいだ。ついでに【植物操作】でその薬草だけが伸びるように働きかけてみる。【植物操作】は植物を意のままに動かしたりできるぶっ飛んだスキルだが、これまた反応が無い。


「効果範囲の問題かな」


 よく考えればこのスキルはまだレベル1だから近くの植物しか操作できないのかもしれない。なのでちょっと検証。


「ふむ、大体10m位までかな」


 動かせる植物は周囲10mくらいまでだった。それと小さな植物は簡単に操れるけど、木とかの大きなものは少し枝が揺れるだけでしかできなかった。


「やばい、これは目論見が甘かったかもしれない」


 ベテランでも見つけ難い薬草だけどスキルがあれば楽勝って考えていたが、やってしまった。


 取り敢えず探して回るしかない。

 10m範囲の植物は分かるんだ。動き回っていれば見つかるかもしれない。






 そう思っていた俺は激アマでした。愚かな俺をどうぞ罵て下さい。


「・・・・・まったく見つかんねぇ」


 あれから散々丘周辺を探して回った。それこそ身体能力全開で走り回ったけど全く見つからない。

 丘の下に無いのであれば高台にあるのじゃないかと登ってみたけどやっぱり無い。


「見つかりにくいってレベルじゃないと思うんだが・・・・ウゥ・・・・」


 全力で走りすぎてちょっと気持ち悪い。ステータスが上がってから初めてかもしれないほど走りつかれた。


 もう随分と空に赤みがさしている・・・・・・・これは明日また来た方が良いかもしれない。


 高台に登ったおかげか地平線に落ちかけた夕陽がとっても綺麗だ。そして物凄く虚しい気持ちになってくる。


 魔法にはしゃぎ過ぎた。年甲斐にもなくはっちゃけてしまった。自分が恥ずかしい。ノルマと納期を達成できないなんて社会人失格だ。


「はぁぁぁぁぁ、帰ろう・・・・・」


 長い長い溜息を吐きだして、俺は諦めて帰路に着こうと踵を返した。




「・・・・キャ・・・・ァ・・・・ァ・・」




 その時、微かに甲高い声のようなものを俺の耳が捉えた。




「これって・・・・悲鳴?」

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