第80話 あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ
『・・・・キャ・・・・ァ・・・・ァ・・』
「これって・・・・悲鳴?」
野生動物をも超える俺の超感覚が微かな女性の声らしきものを捉えた。
マップには何も映っていないってことはもっと遠くか?
マップの縮尺を変更、1km四方で表示して・・・・・・・あ!
そこには青いマーカーと赤いマーカーが。
赤いマーカーは選択すると【ハンターウルフ】と表示された。こいつはいつぞやのがぶがぶ狼ではないか。
もう一方の青いマーカーは選んでも何も表示されない。
そうなると人の可能性が大かもしれない。人の場合は一度目視しないと名前が出てこない。
「襲われてんのか!? こ、これはてーへんだ!」
のんびりとしている場合ではないぞ。
ショートカットからジョブを【冒険者】に変更する。【魔術師】では身体能力が今一だ。持久力では【農民】の方が上だが、1kmくらいなら然程体力は使わないし【冒険者】の方が素早さが上だ。
「よっしゃ~、テンプレだぁぁ」
不謹慎であるが俺のテンション上がっている。走りながら手をぶんぶん回す。どうも今日の俺のテンションはおかしい。
がしかし、これは仕方のない事だ。誰かが襲われているところを助けるっていうのは異世界ものの常套展開の標準装備だ。しかも声は若い女性っぽかった(微かな音しか聞こえてはいないけど)。ならばパターン的には王女様とか貴族の令嬢あたり、しかもとびっきりの美人で、そして・・・・・むふふふふ。
「待ってろぉ! 今助けに行くぞぉぉ」
俺の駆ける速さがアップした。
「この辺のはずなんだが・・・・・」
マップを見る限り襲われている人はまだ無事だ。早い事助けてあげたいのだがその姿が全く見当たらない。視界を360度回してみるも女性の姿どころかモンスターの姿も無い。
「もしかして下か・・・・」
俺は高台の端に行くと切立つ崖の下を覗き込んだ。
「・・・・・っ!」
俺がいる高台の下は山を切り崩して作ったような細い道があった。整地されていないごつごつとした岩が至る所にあるような辛うじて道と呼べるそこに2体のハンターウルフを発見。そのうちの1体が割れた岩を必死に掻きむしっていた。どうやらその岩の切れ目に何かがあるらしい。だがこの場での何かとは1つしかない。
俺はじっとその切れ目を見る。
岩と岩の間から僅かに女性らしき姿が確認できた。
ハンターウルフが無理矢理頭をねじ込んだ。
拙い、急がないと。
中の女性がどうなっているのか分からないがもうあまり時間はなさそうだ。ハンターウルフが徐々にだが岩の切れ目に体が入って行っている。
だがどうやってあそこまで。
ここは切立った崖だ。普通に降りることなどできない。迂回・・・・していたら間に合いそうになさそうだ。ならば飛び降りるか? 俺だったらこのくらいの崖だったら降りれるかもしれない。いけそうな気がする、気がするのだが・・・・・・・流石に恐怖心がわいてくる。
見た目大体3階建て位はある崖だ、いくら俺でも骨折くらいはするかもしれない。
『いやぁ!』
女性の悲鳴が響く。
ハンターウルフの強靭な爪が岩を削り取っていく。
ガシガシと岩を削るハンターウルフの力に岩が大きく砕け散った。
どうにでもなれ!!
俺は崖を走っていた。
切り立った崖を垂直に駆け出していた。
「させるかぁ!!」
もう怖さとかは無い。無我夢中で足を動かしあり得ない軌道で壁面を走る。
「ガ!」
岩をガシガシとしていたハンターウルフが驚いたように俺を見た。
もうじき地面に到達しそうだ。
俺は咄嗟に崖を蹴る。勢いを縦から横方向にずらす。
それはうまくいった。
地面に着地し1回転してから勢いを殺さずにそのまま駆けだす。
2体のハンターウルフは突如現れた俺にまだ反応できていない。
女性が隠れている岩とハンターウルフ目掛けて走り込むと靴を滑らせブレーキをかける。
ズザザザザと砂利を鳴らし、乾いた土埃が舞い上がる。
今日は歩くのに適したスニーカーを履いていた。やっぱりこの世界の革ブーツでは長時間歩くと疲れるのでこっちのほうがいい。
まあ舗装された道路を歩く用のスニーカーなのでこれがまた砂利の上をよく滑る。
本当によく滑る。
いや、マジで・・・・・・・・。
やっべ止まんね!!
俺はズザザと地面をスケーターの様に滑り水平移動。何時しか女性の岩場まで来てしまったがそれでも全く勢いが治まらない。
「あわわわわ」
「グガ!?」
慌てて近くにあったものに手を伸ばして掴んだ。まさに藁をもつかむ気分だ。
だが崖からの疾走に始まった俺の勢いはそんな事では止まらなかった。掴んだものと一緒にそのまま滑っていく。
掴んだのは岩を攻撃していたハンターウルフだ。
「ガ! ガァァァァァァァァ」
俺に掴まれたハンターウルフが地面に爪を立てる。俺に引っ張られるのを必死に耐えてくれている。
ハンターウルフに「がんばれ」と内心でエールを送る。
「あ・・・・・」
「ガ・・・・・」
だけどそれらはもう遅かったようだった。
俺とハンターウルフは道の反対側まで到達してしまったようだ。
道の反対側、つまりは更なる崖へと。
足の裏から何の抵抗も感じない。
「あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「アオォォォォォォォン」
そして俺とハンターウルフは崖から落ちて行ってしまった。
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