第23話 神に時間は関係ないんだとさ

 干し草のベッドにダイブする。名作アニメを見て誰しもが一度はあこがれるだろう干し草ベッド、意外と寝心地は良かった。


 何時の間に用意されたのか、俺の今日の寝床にはシーツを敷かれた干し草の山があった。多分ティルルさんなのだろうが、それを見た瞬間俺は感動のままダイブだ。


 ぬるいエールが効いた。ほろ酔い加減が気持ちいい。


 結局俺を中心に置きながら俺を無視した会談は変な盛り上がりをみせ、みんなで宴会騒ぎに発展していった。だけどやっぱりみんなの中に俺は入っていない、入れない。

 居心地の悪さに輪の中心から逃げるように抜け出したのだが、悲しい事にその事に誰も気づいていなかった。もしかしたら分かっていたけど放置されたのかもしれない。そうであったならばもっと悲しい。


 まぁ、もともとああいった場は得意でないから気にしてないけどね・・・・・・あれ、何だか目頭があついぞ。


 クァバルさんが何で俺に話しかけてきたのかは結局分からなかったな。服を買ったお礼が言いたかっただけだろうか。


「あぁ、何だか疲れたな。お風呂入りたいけど、お酒飲んだから面倒だし、今日はもう寝よう」


 干し草に体を沈み込ませ、心地よい弾力に眠気が押し寄せてくる。今日一日歩き疲れたのもあった所為か意識が暗転するのにそう時間はかからなかった。





「おはよう神さん」


 朝起きて早々にアパートに戻ってきた。目的はお風呂だ。


「ん? おはようなのじゃ? まだ夕方なんじゃがな、向こうは朝なのかえ?」

「ふぁあ、そうだったっけ? ん~、この時間と日付の感覚がずれるのは何か対策しておかないと拙いかな」


 俺が向こう行っている間はこっちの時間が止まっていて、その逆もまた同じ。長い間あっちに行っていたりすると完全に感覚がずれてしまうな。


「スケジュール管理とメモを双方で付けてれば何とかなるかな?」


 この特殊な二重生活の弊害だな。だからと言ってやめる気は全くないが。


「ケケ、言うなれば二つの人生を同時に送っているようなもんじゃからのぉ。あむっ、んぐんぐ・・・・・んん、慣れるまでは何かしら残しとく方がいいじゃろ」


 やっぱりそうだよなぁ。


 神さんは口いっぱいに丸っこいお菓子を頬張ると、しわがれたほっぺたを目一杯に膨らまして意外と現実的なアドバイスをくれた。おいおい、そんなに口に突っ込んだら喉に引っ掛かっちまうぞ。


 あれはバームクーヘンかな?ちゃぶ台に乗せられているお菓子に目をやると、そこで一つ気になることが。


 そう言えば神さんは俺が出て行った時と帰って来たときで違う行動しているけど時間て止まっていないのだろうか?

 そもそも俺が向こうに行くときにバームクーヘンなんて無かった筈だ。


「お主に加護を与えたのはわしじゃよ。神であるわしが人の理に左右される筈も無かろう」


 久々に心を読まれた。


 得意顔でふんすと鼻を鳴らす神さん。


 言われてみれば確かにそうだ。


「俺が向こうに行っている時って神さん何してんの。こっちの世界は止まっているんだろ? だったら何にも出来ないんじゃ」

「さっきも言うたであろう。わしは理に左右されないと。先にも後にも時間は自由に動かせるのじゃ。そもそも時間という概念が無いから正確には違うがの。そこにあると思えばある、そんな感じかの」


 いや良く分からん。


「それよりお主風呂に入りに来たのじゃろ?だったら早く入って方がええんじゃないかえ。どうも先程から酸っぱい匂いがして堪らん」


 え、マジで。自分ではちょっと匂うかなくらいにしか思っていなかったけど、そんなに臭い?


 やめて、神さん鼻抓んで離れるとかいくら俺でも傷つくし。


 やばいな、これは加齢臭ってやつなのだろうか? シャンプーとボディーソープ違うのに変えようかな。


「そうだな。取り合えず銭湯にいってくるよ」


 お風呂セットを手にしそそくさと出ようとしたら神さんに「ちょっと待つのじゃ」ととめられた。


「その格好は目立つと思うのじゃ」

「格好?・・・・・・・・・あ、そうだった向こうの服を着てきたんだった」




 ジャージに着替えて銭湯に行き、さっぱりしてからコインランドリーに向かった。持ってきた服と買った予備の服や下着類を洗濯する。元々着ていた服は燃えるゴミへと。

 確り乾燥まで終えた後、帰り道スーパーによってビールと総菜類を何点か購入。ついでに神さんが好きそうな甘いものも買っていこう。


 アパートに戻ると神さんはテレビを見て笑っていた。


 人の世の理には左右されないが、俗世には左右されるらしい。


「ほれお土産」


 買ってきた安物の苺大福を放り投げる。


 神さんは両手でキャッチしようとしたが、手に弾かれ床にコロコロと転がった。それを何もなかったように拾う神さん。


「お主がわしに土産をくれるなんて珍しいのじゃ」


 取れなかったのが恥ずかしかったのか赤い顔を誤魔化すようにそっぽを向く。意外と可愛いところもあるようだ。

 と、俺がそんな事を思ったものだから神さんは益々顔を赤く染めていた。


「深い意味は無いけど、また直ぐにあっちに行くから何となく」


 戻ってきて直ぐにまたいなくなるののでちょっとした気遣い・・・・・・・・だったのだけど、ここって俺のアパートで神さんは不法侵入者じゃねぇか。


「硬い事気にするやつじゃのう」





 服を再度着替えて異世界に戻ってきた。


 寄宿舎を出ると清々しい青空が広がっていた。


 体を伸ばすストレッチが最近の日課になってきている。パキパキ音を立てる俺の体。


 さて、今日はどうしよう。


 相乗り馬車とか探して街まで移動しようと考えていたんだけど、昨日見た限りではそういった便利な公共の交通機関はなさそうだ。


 そうなるとまた歩きか。


 何日間も只管歩くのはもう飽きた。出来ることなら楽な旅をしたい。


 急ぐ旅路でも無いので村をブラブラしながら良い手を考えよう。


「しかし、早起きしすぎたのかな・・・・・・誰もいないな」


 狭い村なので人が動いていれば直ぐに分かるのだが全く気配が無い。マップを見てみるとどうやらその逆だったようだ。家の中にいるのが何人かくらいで、後は村外に出ているようだった。


 早くも皆さんはもう仕事にいったみたいだ。


 静かな寒村、そんな雰囲気の村をフラフラと歩いていると、昨日と同じように入口にポックリンさんが腰をおろしていた。


「おはようございます」

「ん?おぉハルさんか、おはようさん。昨日すまんかったの。誘っておいてあまり話もできんで」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 慣れてますから。


 昨日は村長宅で食事をしていた人たち皆で途中から大宴会に発展していた・・・・俺を抜いてだが。

 どうもクァバルさんの国とこの国の仲が悪いらしく、そのことでお互いが恐縮しながらも苦労している同士意気投合してしまった感じだろうか。


「いつの間にかハルさんがいなくなっていたから気になっていたんじゃよ」

「そうでしたか、皆さん話し込んでいたので・・・・声もかけずにすみません」


 ポックリンさんと軽く言葉を交わした後、そのまま一旦村を出て村の周辺を見学する事にした。


 村をぐるっと囲むように畑が広がっているて、更にその周りを森が囲む。

 森の木を伐採しながら広げていっているのだろう、木を伐採する音が森から聞こえてくる。


 畑の中では女性たちが野菜を収穫している姿があちらこちらで見受けられる。


 とってものどかな風景・・・・・・・・なんだけど、何だかやっぱり違和感がある。


 はて、何だろうか?


 昨日通ってきた道を歩く。目的が有る訳じゃない・・・・・有るかもしれない。自然と目がティルルさんがいないか探している。


 そして見つけた。


 鍬を手に掘り起こし作業をしていたティルルさん。

 額の汗を手の甲で拭う姿が色っぽくもあり、頬についている泥が可愛らしい。


 見つけたは良いが声を掛けようかどうしようか迷っていたら、ティルルさんが俺に気が付いたらしく屈託の無い笑顔で手を振ってくれた。

 俺はそれがうれしく、ちょっと照れながら小さく手を振り返していた。

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