書籍化記念 魔我羅の立て直し3

 

 立て直し着手から1週間で、大分秩序が戻ってきた。


 ゴブリン運送ブリンガーも陸路と空路の両方で定期便を運行しており、深刻な食料不足が緩和されたのが大きい。


 農地で強制労働させられていた人達の中に、城勤めの元文官も数名見つかりガロスもホクホク顔だった。


 森人の里からやってきた技術者は多岐に渡った。聞けば農業技術だけではなく、製紙技術や土木・建築、簡易医療の技術もあったのだ。恐るべし迷い人先輩と研鑽を続けた森人達。


 空き家の多かった街中も取り壊す物は取り壊し、大胆に再開発計画が進む。


 公衆便所と公衆浴場、それに集合住宅というか長屋が急ピッチで建造されている。埋没した下水管路を実現するには時間がかかる為、なるべく住居自体を集めてしまうことにした。


 森人技術者達は、足踏みで空気を送り込む簡易的な分離ばっ気型浄化槽まで実現していたのには驚いた。


 そういえば、山奥の小さな旅館に泊まった時に下水事情を聞いて浄化槽の仕組みを調べたことがあったなと思い出した。


 見たら思い出すけど、見なければ思い付きもしない無駄知識だ。もうちょっと現代頭脳をフル活用したい。


 里では流石に足踏み式ではないようだが、単純労働先が増えるのは現段階では大歓迎だ。



「殿。帝国に出していたゴブリン空輸便ブリンガーエクスプレスが戻りましてござる」


 レインが窓の向こうで横顔を覗かせながら囁く。

 いや、普通に報告にくればよくね? 何その窓の外でどうやって浮いてるんだろうとか考えさせる演出⋯⋯。


「首尾はどうだ?」


「詳しくは後ほど書状も届きますが、一月後出立の予定となったそうでござる」


「そうか! では、到着は2ヶ月後だな。よくやってくれた」


「ははっ」


 今のペースで2ヶ月後なら何とか受け入れの体裁が整いそうだ。宿場町も整備できるといいのだが⋯⋯。


 大まかな方針を考えていると小さなノック音がする。このマナはサーラちゃんだな。


「⋯⋯シューイチ? エメリがお手紙きたって」


 多分、誰かが来ていたことを感知していたのだろう。遠慮がちに扉を開けてサーラちゃんが口を開いた。


「わかった。行こう」


「うん」


 身重なエメリーヌには、遠慮なく呼び付けて欲しいと伝え、周知もしたらようやく呼んでくれるようになった。別段、偉そうにしたい訳じゃないのだ。もっと気楽にやって欲しい。


 とはいえ、配下の者達がいる前で振る舞いを間違えるとそれはそれで軋轢を生む。王様というのも面倒なものだ。王様といっても魔王だが。


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