第59話 深刻なNAISEI問題
戦争からは3ヶ月が経った。
帝国はその後攻めてはきていない。
この世界は地軸が傾いていないのか、そもそも惑星ですらなく巨大亀の上なのかは分からないが季節感が無い。
それでも年の終わりは存在する様で皆で一つ年を取った。誕生日ではなく年明けに年を取るシステムらしい。
サーラちゃんも9才となり俺も三十代最後の年となった。娘の成長は喜ばしい。
⋯⋯が最近ふと見せる大人の仕草にどぎまぎとさせられる事がある。エメリーヌ陰謀説が俺の中での主流だ。彼女は息子が村に居ても相変わらずだ。
団長は一線からは退いた。
色々、嫌になっちゃったみたいだが、有能な人材を遊ばせる余裕なんてものは毛程も存在しない。他の元傭兵達と農家をやりながら避難民とか移民の対応をお願いしている。
マガラは戦力的にも亜人種上位だ。
ゴブリンさんもエルフも権力欲が薄いので敢えて上位民扱いにした。魔王が治める土地という事で理解はあったので押し通したのだ。亜人種達は下位民だからといって無意味に虐げたりしない。
亜人種は文化的には上位存在に感じてしまうが生存競争には負けてしまうんだろうかと、どこか哀しみを覚える。
人族の浅ましさという意味では来訪者が増えた。元王国貴族の使者だ。
やたらめったらやって来ている。最近のトレンドは押し掛け輿入れだ。いきなり娘を送りつけてきて娘は帰れないと喚く。何というか何がしたいのかがさっぱりだ。敵か?敵なのか?
王国復興や打倒帝国をしたいなら勝手にやればよろしい。対応はエメリーヌに丸投げした。
ダリは産休に入ったのもあり、内政の相談はガロス相談役だ。ダリと違い全肯定しないので最近はよく一緒に打ち合わせという名の魚釣りに行く。やはり小綺麗よりむさい感じがガロスには似合っている。今日も、朝日をやわらかに反射する水面を眺めながらの太公望だ。
「ガロスも団長も嫁をとってはどうだ?」
「⋯⋯ゴブリンのか?」
そういえば、どうでもいい輿入れ希望は沢山来るが村としては深刻な女性不足だった。でもサーラちゃんはやらん。
「森人はどうだ?」
「お前さんじゃあるめぇし気後れしちまうわ」
日本では女性は子供を産む機械発言が炎上していたが、俺は子供をなす機械扱いされている気がする。特にエルフに。
「ポツポツ避難民が増えてきたが⋯⋯女性は増えないな」
「辺境だしなぁ⋯⋯最近ここが何て言われてるか知ってるか?」
「いや知らん」
「⋯⋯殲撃の魔王が治める地、魔我羅だ」
何だその厨二病を飛び越えて五月蝿いバイクに乗ってそうな当て字ネーミング⋯⋯。名付けた奴のドヤ顔を殴りたい。
「好条件で移民募集しても、女連れどころかなしのつぶてだぜ」
どう見ても悪いイメージがあるのだろう。移民や避難民も女性がいると王都方面に行ってしまう様だ。
蛮族や不審者ばかりの村だが問答無用で移民を奴隷に落としたりしないし、希望があれば農地も割り当てもする平和な村なのにだ。しかし、説明したところで誰も信じてはくれない。一度貼られてしまったレッテルは中々剥がれはしないのだ。
2人とも黙り込んでしまう。
改善策が浮かばない。
イメージを変えようにもメディアも無ければ起用する芸能人もいない。見た目を改善した所で見に来る人もいないのだ。
マガラと取引している商人達も、マガラ交易に新規参入する心理的ハードルを上げた方が他の商人が参入せず自分達の既得権益を守れるのだ。ネガティブキャンペーンに積極的に乗っている気がする。⋯⋯俺の事をゴブリンキングとか呼んでたし。
結局、2人共黙ったまま昼過ぎまで釣り糸を垂らしていたが魚も釣れなかった。
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