第55話 既定路線


「⋯⋯という事で上手くやりたい」


ガロスに王国滅亡とマガラは帝国に臣従しない事、恐らくダンダムにはマガラ討伐命令が出ている事を伝える。




「まさか既に滅んでたとはなぁ⋯⋯。んで上手くって何か策でもあんのか?」




「八百長だ」




「八百長だぁ?」




「ダンダムとは殺し合いなんぞしたくないからな。戦う振りをしながら帝国の軍監だの幹部だのを暗殺する」






「⋯⋯閃撃なら可能って事か」




「いや、ウチの村の連中なら大体できる」




「⋯⋯おぃ。お前さんは薄々、魔術師じゃねぇかって思ってたがどういうこった?」




「今じゃ村全員魔術師みたいなもんだ」




「⋯⋯はぁ?」




「空も飛べる」




「⋯⋯」


空いた口が塞がらない様だ。




「という事でだ。戦闘になったら帝国の要人の場所を教えてくれ。何度か追い返して和平交渉に持ち込みたい。奴等もこんな辺境に大した興味も無いだろうしな」






「⋯⋯俺、絶対お前さん等とは戦いたくねぇわ」






マックスはアホの子なので談合の事は教えず魔石を取り上げる程度に留め、元傭兵の間では刃を潰した非殺傷武器で戦う振りをする事と、ハンドサインで敵幹部の居場所を教えてもらう事で合意に至った。






後は斥候隊か⋯⋯派遣を止めて戻すのも折角確立した仕事を手放す事になりもったいないし、森人集落との物流が滞る可能性もある。




ダンダム寄りまで拡張した防衛線も下げないと人が回らないかも知れない。




考えながらトボトボと歩いて帰る。




「斥候増やすか⋯⋯」




「拙者達にお任せを!」




高らかに叫んだ声とは裏腹に、葦の藪から音も無く現れる黒装束に覆面の長い耳。ヌルヌルと出てくる出てくる30人。




「森人忍部隊、森羅にござりまする」




「⋯⋯レインか」




「はっ!」




やはり隠密も兼ねてたんだなぁ⋯⋯ディートもあっさりトラップ回避したり、やたら身体能力高い気がしてたんだよね。しかし森羅ってネーミングかっこいいな!ゴブリン隊もそろそろ名前付けようかな?




「⋯⋯宜しく頼む」




「ははっ!我等一門、改めて殿に忠誠を誓うでござる」


レインは右手を左胸に置きそう宣言した。






どこか既視感あるけどまぁいいか。






◆◆◆◆◆






それからと言うもの、村ではゴブリンさんがゴブリンさんを抱えて飛び交い、怪しい黒装束のどう見ても不審者が闊歩する様になった。少しは忍べよお前等。






⋯⋯これはアレやな。




ゴブリンキングからステップアップしちゃうアレでしょ⋯⋯。






「よぅ魔王。今大丈夫か?」




「⋯⋯ガロスか」




馬に乗ってガロスがやってきたが、やはりジョブチェンジされていた。






「何だ。しばらく見ねぇウチに随分雰囲気変わったな。しかしホントに飛んでんな!」




「何かあったか?」




「先触れが着いた。マックス様が帝国の魔族討伐隊二百人も連れて明日ダンダム到着だ」




俺が王都を飛び出してからは1ヶ月が過ぎていた。




想定より遅い到着だったので柵の向こうに水堀を作ったり櫓を建てたりとこちらの準備も出来ている。




「そうか。忙しい所、態々すまんな」




「いいってことよ。飛ぶとこ見てみたかったしな」




自分の目で確認しないと気が済まないのだろう。ガロスらしいと言えばらしい。




「では手筈通りに頼む」




「あぁこっちこそだ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る