第54話 戦時体制
ゴブリン村はいつもの牧歌的な空気が漂っていた。このどこか安心感すらある空気を壊したくは無かったが俺は心を鬼にして号令を下す。
「ロイ!第1投槍隊で農業従事者も交代でダンジョンに連れて行け。手筈は分かるな?飛行も許可する」
「ははっ!」
「ダリ!」
「はいだすっ!」
「主要な面子を集めてくれ。緊急事態だ」
「承知だす!」
やがて集まってきたサーラちゃんやエメリーヌにお帰りなさいの抱擁を受けると、帰ってきた実感と共に失いたくない物である事を自覚させられる。
俺は決意新たに皆を見渡し口を開く。
「王国は滅亡して帝国となった。しかし我がマガラ領は帝国には臣従しない!」
「そ⋯⋯それは!」
案の定、反応したのはエメリーヌだけだった。既に顔面蒼白だ。
「恐らくダンダムも敵に回る」
「あなた様っ!」
これには流石ににエメリーヌだけでなく他の連中も驚き顔だ。
「案ずるな。⋯⋯まだ時間はある」
エメリーヌはダンダムのマックスの事だけでなく、王都の両親の事も気になるのだろう。
「先程、ロイには農業従事者もダンジョンに連れて行く様に命じた。戻ってきた連中にサーラ。マナの扱いと魔法を教えてくれ」
「⋯⋯ん。分かった」
「ダリとレインには食料の買付と備蓄を頼む。ダンダムと森人集落から買えるだけ買っていい」
「承知だすっ!」
「殿!貴族のしがらみが無くなったのでござれば是非輿入れを!」
あー。やべ。
政略結婚的なディートの輿入れ希望を貴族のしがらみがーとか言って断ってたんだった。未だにディートはマナ循環してる昼間とかは怖がって近づかないくらいなのにもうちょっと本人の意志も尊重してやって欲しい。
「今はそれどころではない!」
マナ全開で言い放つ。
「ははーっ!」
エルフは大体これで乗り切れる。
「エメリーヌは王国貴族の状況を調べてもらえるか?」
「⋯⋯承知いたしました」
お手紙とか時間かかってしょうがないが何もしないよりかはマシだろう。
「帝国は亜人種を皆殺しにせよと命じた。これに対し我等は全力で抗う。奴等の専横はこのマガラでは絶対に許さん!」
「「「はっ」」」
女衆は暗い顔のままだが、男衆は眼差しにギラギラした物を宿す。
「殿!森人からも兵を出すでござる!寧ろ早く森人も併呑して欲しいでござる!」
「助かる。⋯⋯兵を借りよう」
森人は索敵に優れるので大変有り難い。
「飛行で急ぎ戻ってきたので少なくとも7日間は猶予がある。俺は今のうちにダンダムのガロスと打ち合わせを行ってくる。皆頼んだぞ」
普段は村の皆には飛行を訓練のみに制限しているが解禁だ。飛び回るゴブリンさん達に緊張感が嫌でも高まってくる。
ゴブリン村の存亡を賭けた戦いが幕を開けようとしていた。
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