第47話 魔法少女サーラ爆誕

朝起きたら居なかったせいかサーラちゃんが若干不機嫌だった。エメリーヌを威嚇する様に軽く睨みながら鼻息荒く俺の上に座る。




感情を表せる様になってきて良かった。




「俺の事は『パパ』って呼んでいいんだぞ」




「『パパ』?」




「俺が居た世界でお父さんって意味だ」




「⋯⋯嫌っ」




反抗期だろうか。結構凹む。






エメリーヌはあらあらうふふ状態だ。俺に肉体関係という保険を掛けて上機嫌と言ったところか。




ダンダムの事を聞いてみると三男16歳は側室の子で、ダンジョンで大怪我をした後は引き篭もりになっていた所を無理矢理神輿に担がれたらしい。ちなみにマックスは18歳でエメリーヌは33歳、子はマックスだけだそうだ。




派手なおっさんには第4夫人までいた模様。後継に困ってなさそうだが次男は病死してるし、もうちょっと後継候補がいてもいいくらいらしい。




でも夜のお相手は若い側室とばかりだとか余計な情報は教育上良くないので止めてもらっていいですか?男日照りだったのは昨晩よく分かりました。




サーラちゃん、むさいおっさん達居なくなったからお外で遊んでおいで。






サーラちゃんを送り出した後も、王都の貧乏貴族から嫁いできたらより貧しかったとか延々と愚痴っぽいお話が続く。ヒートアップしてきたのか、双丘を震わせながらにじりにじりと距離を詰めてくる。真っ昼間から肉食獣の気配だ。




やばい⋯⋯喰われるっ⋯⋯。






「シューイチ!見て!」




息も絶え絶えにやってきたサーラちゃんに手を引かれ、村の外にやってきた。




⋯⋯ふぅ。危なかった。


多少、とうが立っているとは言えエロい美人さんのエロオーラに押し流される所だった。遮音もクソもあったもんじゃないこの村の開放感溢れる建物で真っ昼間からは勘弁して欲しい。




「⋯⋯何があった?」


平静を装いそう尋ねると息を弾ませてサーラちゃんはこう言い放った。


「魔術!できた!」






⋯⋯えっ?






グリグリと活性化されるサーラちゃんのチャクラ。




伸ばした右手から発現する目には見えないが感知できる魔素殻。




袋状のそれは見る間に大きくなり、そして縮んだ。




おいおい⋯⋯空気遮断系の魔素殻かよ⋯⋯。






ドンと言う音と共に、やっぱりサーラちゃんも吹っ飛んだ。




何となく予想できたので立体機動で落下地点に移動し、難なくサーラちゃんを受け止める。




「危ないだろう!1人で練習してたのか?」




「⋯⋯ごめん。⋯⋯でも⋯⋯サーラ、これで役に立つ?捨てない?」




「捨てる訳ないだろう!」


頭を殴られたかの様だった。サーラちゃんはずっと不安だったのだ。捨てられ売られ、役立たず扱いされてきたサーラちゃんはこの村でも役に立っていない事を幼いながらも気付いていたのだろう。エメリーヌとの事はあっち方面でも役に立てない焦りとなって表面化してしまった。




できる事は必死にしがみつくだけだったサーラちゃんが手に入れた魔法⋯⋯その希望に縋るのは当然だった。




「サーラが居てくれたから俺はこの世界で独りじゃなくなった。娘の様に思っているんだ。何があっても捨てたりはしない」




「サーラ⋯⋯娘じゃなくて⋯⋯お嫁さんがいい!」




こ、これが娘が大きくなったらお父さんのお嫁さんになる!って奴か⋯⋯破壊力やべえな。




「お、おう。⋯⋯嬉しいが大きくなってから考えような」




「うん!大きくなる!」




「まずは怪我をしない様に『魔法』の訓練をしよう」






俺が飛んでいる所を見ていたりした所為かやたらと飲み込みが良く、加速減速や加熱脱熱はあっさりと理解し風撃も飛ばす事も出来るようになった。




更に恐ろしい事にサーラちゃんの触媒魔素は、指輪の一つ目の触媒魔素である二酸化炭素と水からメタンと酸素を作り出す触媒魔素だった。指輪のイメージが定着したのか?




指輪の火球ほど黒煙が出たり燃える火が見えたりする事はなく派手さは無いが、サーラちゃん単体でなんちゃって火球まで扱える様にまでなった。






対象に触れれば魔素殻で包んで窒息もさせられるオールレンジ対応の魔法少女サーラが爆誕した瞬間だった。






⋯⋯ダンダムくらいなら単体で鼻歌交じりに落とせそうだ。




「なるべく人前で魔法を使わない様に。使える事がバレても面倒事になる」




「⋯⋯ん。秘密」


はにかんだ笑顔を見せる。サーラちゃんの笑顔は本当に久しぶりだ。





そして俺は自らの魔法性能の低さに、高機動スナイパーとしての精度を上げて生きて行こうと決めた。




何となく納得のいかない気分はエメリーヌにぶつけておいた。喜んでいた。

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