第36話 貴族になった日


やはりというべきか隻腕ゴブリンさんのダリは宿には入れて貰えず馬房すら断られ、薄暗くガランとした馬車の車庫しか貸して貰えなかった。




宿からの逃亡対策の指示通り、足枷は外すが首輪と柱をロープで繋ぐ。




本人はあまり気にしていない様だったけど毛皮のマントをあげた。せめて温かい寝床くらいは用意してあげたい。




しかし、食事もトイレも課題になってしまった。早めにダンダムを出る事を考えねばならない。






その後、広場まで魔具のお披露目式を見物に行った。




騎士のおっさんが使うらしく風撃で木の案山子を景気良く薙ぎ倒していたが、それ以上に景気良く魔石を魔具に吸わせていた。




一撃あたり小魔石10個は吸わせていたがコスパ悪すぎなんじゃないだろうか。




初めて魔術を目にする観客達は沸いていたが俺はどこか冷めた目でデモンストレーションを眺めていた。






首を長くして待っていた城からの呼び出しがやって来たのはその翌日の事だ。




城に連行され再び応接間。小太りのおっさんと久々の見回り役がソファに座って待っていた。




「よくぞ役を果たした。其方には北の開拓村であるマガラ村と士爵が与えられた。これからはマガラ士爵を名乗ると良い」




それだけ宣うとそそくさと部屋を去って行った。




ここの偉い人達いつも一方的過ぎね?もう与えられたの?出たくねぇけど叙勲式とかお披露目パーティーもなし?




「マガラ士爵、私が説明しましょう」


ポカーンとしていた俺に見回り役だった人が色々説明してくれた。




現在人口0名の北の開拓村はマガラ村と名付けられ、ダンダム領主から領地を分けられた領地持ち貴族となった様だ。戦国時代の知行みたいなもんか?税も法も好き勝手できるが給金とかは出ないらしい。




領地所有は貴族で無いとダメらしく、取って付けたようにダンダム領主が叙爵可能で1番下な準貴族の士爵にされた雰囲気。これなら王都に届けを出すだけだそうな。




貴族認定されてると王国内どこ行っても身元が保証されるが一般市民が他の町とかに勝手に行くと流民扱いだそうだ。ぶっちゃけ奴隷か市民かどうかの境目も領主マターだとか。何その絶対君主感。




要は自費で人口0の場所を開拓して発展させなきゃならんって事ね。寄親として援助してくれる訳でも寄子として上納金を納めたりしなくていい様だ。




「どこまでがダンダムの領地でどこからがマガラの領地なんだ?」




「城壁で囲まれた所がダンダムで柵に囲まれた所がマガラですよ?」


何言ってんだコイツを表情に出して見回り役が言う。実効支配エリア以外は領地と見做されない模様。ふーん。




「北に他の領地や国はあるのか?」




「山脈の向こうには幾つか国がありますが交流はないですね」




窓から外を見やると彼方に山脈が見える。遠過ぎて交流できないわな⋯⋯。




「人を増やすにはどうしたらいい?」




「ダンダムで移民を募集するか、奴隷を買うかですかね⋯⋯」


移民募集しても誰も応募しないの分かってて言ってるよねそれ?また奴隷か⋯⋯。とりあえず移民募集してもいい事は分かった。






質疑応答がひと段落した所でドアをノックする音が聞こえ、世話役奴隷のティリさんがサーラちゃんを連れて来てくれた。




「サーラ!」


やややつれた様子だが無事そうだ。




トコトコと普段通りの足取りで座っている俺の横までやって来るとぎゅっと抱きついてきた。




「待たせたな。⋯⋯無事か?」


頭を撫でながら聞いてみると潤んだ瞳でコクリと頷いた。丁寧に扱われていた様で髪の毛もサラサラだ。




「すまなかったな。1人にして」


抱きついたままブンブン首を横に振るサーラちゃん。鼻水出てるよ。




懐かれてますねとか何とか言われつつ、抱きついたまま離れないサーラちゃんを連れてとっとと辞去した。






宿に戻りゴブリンさんのダリをサーラちゃんに紹介したら怯えて余計に離れなくなってしまった。




仕方がないのでそのまま一緒に寝る事にした。




寝付くまで頭を撫でてやると安心したのかすぐに寝息を立てる。夜の発作は収まったのかな?




俺も久しぶりの体温を感じながらあっさりと眠りに落ちた。

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