第12話 ぼくのかんがえたさいきょうのまほう


 遂にこの時がやってきた⋯⋯。



 篝火を焚き、やってきた獲物と柵を挟んで睨み合う。



 俺は柵に掛けた梯子はしごを登り獲物どもを睥睨へいげいする。



 唸り声を上げながら飛び掛かろうとする狼達。柵が激しく軋む。



 ⋯⋯集中。


 チャクラを開きマナを練り上げるッ!



「喰らえッ!メテオストライク!」



 ◆◆◆◆◆



 魔法の発現には苦労した。


 例えば、ファイヤーボール。


 アレって何で着弾したら、爆発したり燃えたりすんの?中に増粘剤とか燃焼材入れたナパームなの?


 そもそも火の玉って何で燃えてんの?

 ただの熱の塊なら火の玉に見えないよね?プラズマ?



 ⋯⋯悩んだ。



 イメージすればするほどファンタジーからかけ離れて行く。


 いいオッサンなのだ。

 年を食うってのは「ファンタジーたるものこういう物だからこういう物なのだ」という思い込みを許してはくれない。



 ⋯⋯悩んだ。



 少なくてもファンタジー物でよくある四大属性魔法は俺には無理だ。


 イメージ途中で「カマイタチで切れる訳ねーじゃん」とか「それってテレキネシスじゃね?」とか「属性跨またがってない?」とか「質量どっから持ってくんの?マナを分子変換?それって無駄に超絶技巧じゃね?」といった現実世界の物理法則に汚染されたセルフツッコミが脳裏を過ぎってしまう。


 回復魔法も「掛けたら全自動ですぐ治る」は無理だろう。病気は病名が分かればワンチャンあるかも知れない。青カビからペニシリン抽出の方が早そうだが。


 ⋯⋯抽出方法は知らんけど。



 この世界のスタンダードな魔法ってどんなんだろうか⋯⋯?



 まぁファンタジー常識に拘らずにやって行こう。


 両腕を輪にして右腕から左腕にマナを流して中丹田に戻す事は出来るようになっていたので、掌を離してマナを循環させてみようとすると、1センチ離しただけで減衰して無くなってしまう。



 空気の中には自分では扱えないマナ的なものが多分ある。ファンタジー的には魔素と呼ぶのが一般的だろうか。



 でも少なくとも数ミリは体の外にマナを出せているのだからこれを活用できないだろうか。


 ⋯⋯という事でマナを出せる体の場所探しと活用方法、そしてマナ射程を伸ばすの三点を試行錯誤していったのだった。



 マナを出せるのは現状では右手の掌と左足の足裏。何か不満だ。



 活用方法としては、マナの熱エネルギー変換とか運動エネルギー変換に成功した⋯⋯どっちも運動エネルギーだけど。


 だけど、熱エネルギー変換は掌が火傷しそうになるし、運動エネルギー変換も既存の運動エネルギーを増幅するだけなので、空気に使うと爆発するただの自爆魔法になってしまう。手と耳が痛い。


 マナ射程が伸びれば危険が少なくなるが全く伸びない。腹が立つ。



 怪我の功名か左手と右足で熱エネルギーと運動エネルギーを少しだけマナに変換して吸収出来るようになった。凍らせたり衝撃全カットとかはできないけどファンタジー。


 とっても使い勝手悪いけど、とりあえず使えそうなのが石飛ばし。


 投げる時使うと指ごと明後日の方向に飛んで行ってしまうので、重力の運動エネルギーを増幅して真下に落とすだけ⋯⋯それが⋯⋯




 ◆◆◆◆◆




「喰らえッ!メテオストライク!」




 一瞬の風切り音と、まるで爆発でも起きたかの衝撃。




 柵の向こうへと伸ばした腕の指の皮ごと発射された石ころは狼を容易く粉砕し、地面に大穴を開けもうもうと土煙を吐き出していた。



「うわぁ。ちょっとノリノリで撃ってみたけど魔法やべぇな!」

 ⋯⋯メテオストライク!と言ってみたいだけだった。


 危うく柵ごと壊してしまうところだった。射程ェ。



 ミンチになった狼さんを見て、他の3匹はキャンキャン言いながら帰って行った。そして再び現れる事は無かった。



「俺の肉と毛皮が⋯⋯」


 自爆魔法しか持ってない癖に魔法が使える様になった事に浮かれてやらかしたオッサンが闇夜に項垂うなだれていた。






「⋯⋯次は掌底突きでメテオストライクだ!」




 俺はメゲない男だった。


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