おいもんうぉーず

鳴海 真樹

序章

 芋。それは、植物の根や地下茎といった地下部が肥大化して養分を蓄えた器官である。また、炭水化物を多く含み栄養価が高いことが特徴である。

そんな芋が、二足歩行するようになったのは記憶に新しい。


 時は[おいーも86年]。西暦というものが存在していたのなら3000年は優に超えているだろうか。そんな[おいーも86年]現在。人類は絶滅し芋が世界を納めていた!


 芋に手足が生え自立するようになってからというもの、芋たちは凄まじい速度で進化を遂げ且つての人間たちの様な豊かな暮らしを送っていた。新しく生まれた芋は、親芋に育てられやがて学校に行き、人類の遺した知見や生きるための知恵を学んでいた。そして成熟したら各々の仕事に就き、結婚し、一生を終えていた。まさに人間らしい生き方である。ただひとつ人間と違う点を挙げるなら、種族間の争いがないことだろうか。[芋]と一括りに称してはいるが、芋の種類は多様である。例を挙げるならじゃがいも、さつまいも、さといもと言ったところだ。


 さて、前置きが長くなってしまったがここで本題に入るとしよう。芋の教育機関、つまり学校に[私立御芋ヶ峰学院(しりつおいもがみねがくいん)]という場所がある。この学校は私立というだけあって、無駄に土地面積が大きく設備が整っているがそれ以外は至って普通の学校である。そんな学院に三人の・・・いや三個の・・・?いや、ここは[人]と称しておこう。三人の生徒がいた。


「あぁ、はいはい。前置き長いからこっからは俺が話す。」


そう言って現れたのは先の紹介にあった三人の内の一人、[ジャガイモ]だ。勝気な性格で、リーダー気質の為人望も厚い。所謂クラスのリーダーのような熱血ポテトだ。しかし、初登場早々語り部に文句をつけるのはいかがなものだが、そこは黙っておくとしよう。

(だって、わたし心広いもん!)


「じゃあ語り部さんからのバトンを貰ったということで改めて、俺はジャガイモ。私立御芋ヶ峰学院の生徒だ。さっきの説明でもあったが、俺にはあと二人、仲のいいダチがいるんだ。おっと、そうこう言ってる間に、噂をすればだ。」


 ジャガイモがそういって視線を横に移すと、教室の扉が開かれて新たに芋がやってきた。どうやら、ジャガイモの言っていたダチのようだ。


「ジャガイモ君、誰に話しているの?」


少し気弱そうな少年がそう尋ねてきた。その少年はジャガイモが虚空に語り掛ける姿に違和感を覚えたのだろう。彼の口調は穏やかで根は優しいおっとりポテトだ。


「ちょっとお茶の間に俺達のことを話していたんだ。あっ、丁度いいからお前も自己紹介しろよ!」


ジャガイモはそう言ってサツマイモに[お茶の間]という名の虚空に紹介を促す。突然の無茶振りに気弱そうな少年は戸惑いながらも自己紹介を始めた。


「えっと・・・。ジャガ君と同級生のサツマイモです。こんな感じでいいのかな?」


そう言って、気弱そうな少年は自己紹介を済ませた。どうやら先の紹介にあったダチの内の一人だったようだ。[ジャガ君]というのはジャガイモのあだ名のようだ。単純明快でわかりやすい。そして自己紹介を済ませたサツマイモは確認するようにジャガイモと・・・何故かこちらを見てきた。

(えっ、何!?わたしのこと見えてるの?そこは、見えていてもいないものとして扱ってもらわないと!!)

悲痛な語り部の想いが通じたのか、サツマイモは察したように視線をジャガイモに戻した。

(ほっ。察しの良い子でわたし安心。)


サツマイモの確認にジャガイモが


「まぁまぁってとこだな。」


と返していると、再び教室の扉が開かれまた一人やってきた。


 教室に入るや否やジャガイモ達の奇怪な様子を確認したその生徒は、興味津々な様子で足早に近寄ってきた。


「ねぇねぇ何してるの?誰に向かってしゃべってるの?」


そう言ってやってきたのは、天真爛漫と形容するに相応しい少女だった。彼女の明るく眩しいばかりの振る舞いはクラスの人気者間違いなしだろう。


「おおサト~ちょうどいいところに!ちょっとお茶の間に自己紹介してくれ。」


ジャガイモは興味津々にやってきた少女に、サツマイモと同様に自己紹介するよう促した。見たところサツマイモ同様、先程紹介にあったジャガイモのダチのようだ。


「えっ?よくわかんないけど・・・。私はサト芋!皆からサトって呼ばれてるよ!

ジャガ君とサツマ君とは幼馴染だよ~!こんな感じでいいのかな?」


始めは虚空に紹介なんてと不審がっていたものの、持ち前の明るさを活かし自己紹介を済ませた。そして、確認を請うようにジャガイモの方をみた。

(よし!今度は気づかれなかった!)


「ああ!上出来だ。」


と満足げな顔で言った。そしてお茶の間に向きなおし、


「とりま俺たちはこんな感じで学生生活を送っているんだ。」


とジャガイモが締めに入ろうとした時、学院の予鈴が鳴り


「ジャガ君、そろそろホームルーム始まるよ?」


サツマイモに急かされていた。


「おお!じゃあお茶の間の皆またな!」


と切れよくお茶の間への締めの挨拶をした。


 ではここからは、わたくし[語り部]が進行をするとしよう。このように人類が絶滅した現在では、ジャガイモ達のような[芋]が世界を納め人間の様な暮らしをしている。その暮らしぶりは平和そのもので種族間の紛争と言った様な大きな争い事も無かった。しかし、そう言った平穏は長くは続かないのが人の世の常。いや、知性有りし者の常だろうか。


 ジャガイモ達が平穏な学生生活を送っていた水面下では、災厄と呼ぶに相応しい[何か]が動いていたが、この時の三人はまだ知る由も無かった・・・。

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