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「今日は志麻ちゃんの特別な誕生日なので、私からもプレゼントを」

「え」

 向こうを向いていた志麻は予想通りのリアクションでこちらを見た。本当は用意するのはどうしようかと思ったけれど、常盤さんは俺の誕生日にもプレゼントをくれるような人だし、俺も常連さんが誕生日のときはお返しをしたい派だから。

「気に入ってくれると嬉しいけれど」

 そう言ってリボンの掛けられた水色の箱を手渡す。その時の志麻の表情は今まで一度も見たことのないような、無垢な少女の笑みだった。

「開けていいの?」

「もちろん」

 一瞬躊躇うようにして固まった両手をそろりと動かしてリボンの両端を掴み、ゆっくりとそれを引いた。解けたリボン、箱を開けるとそこにあったものは――

「ガラスの靴ッ」

「へぇ、こんなのがあるんだね」

 箱の中には一足のガラスの靴が入れられてあった。それはガラスの靴を模した瓶で、中にはピンク色のリキュールが入っている。ちなみに味はピンクグレフル。味見用にうちにも一足買ってあった。

「私も最近知ったのですが、とても可愛らしいと思って。ほら、素敵な靴は素敵な所へ連れて行ってくれると言うでしょう?」

 まさか俺が志麻に靴をあげることなんてことはないし、これくらいならいいかと思って。

「さすが花菱君だね」

「とんでもございません」

 志麻はガラスに刻まれたカボチャの馬車を指でなぞって呟いた。

「素敵だわ」

「よかった、喜んでくれて」

「大切にするわ、ありがとう」

「中身はお酒だからいつかは飲んであげてね」

 そう言うと『あぁそっか』と言わんばかりに頷いてハッキリと言った。

「それじゃぁこれ、無くなるまでここに置いておいて。何て言うんだっけこういうの」

「ボトルキープかい?」

「そうそれ! きっとお酒なんてここでしか飲まないもの、そうしておいて」

 まさかの言葉にこっちが一瞬固まってしまった。そう来たか。

「お願いできるかい?」

「もちろんですとも」

 うちはボトルキープしていないんだけどね。バックバーに置いても可愛いから。

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