シンデレラシューズ
カゲトモ
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「おめでとう」
しっとりとした声色で目線の高さまで上げたグラスを傾け合う。
「ありがとう」
桜色の唇がそう返すと二人してグラスに口を付けた。なんて素敵な記念日の一場面だろう。
なんて、二人は正真正銘の親子だけれど。
「どうだい、志麻」
覗き込むようにして訊いた言葉に、娘はにっこりとして言った。
「凄く美味しいわ、ありがとうパパ」
「はは、それは良かった。これで志麻も大人の仲間入りだね」
「ふふ」
珍しく(なんて言っては失礼か)大人しい志麻は淡いピンク色のグラスを持ってこくんと頷く。今日彼女が持っているのはいつものノンアルコールではない、れっきとした酒を作ってサーブした。彼女は今日、二十歳の誕生日を迎えていた。
「あんなに小さかった志麻がねぇ、こんなに立派に大きくなって。どうだい花菱君、志麻は素敵な女の子に育っただろう?」
「えぇ、とても」
常盤さんに似た端正な顔立ちで、きっと小さなころから美人でそのまま美しく育ったのだろう。あと態度もね。物好きだし。
「目が笑ってないわ」
「そんなことないよ」
ただの美人じゃねぇって思っていただけだよ☆
「あぁ、泣けるねぇ。僕たちの志麻がお酒を飲める歳になるだなんて。大きな病気も怪我もせず、良くここまで育ってくれたよ」
「もうパパったら」
肩を抱かれ常盤さんの胸に埋まりながら志麻はまんざらでもない顔で答える。いつまでも仲が良くて羨ましいよ。
「お家でお祝いはしなくて良かったんですか?」
常盤さんの二杯目をサーブしながら疑問をぶつけた。普通だったら親子三人でご馳走とケーキを囲んでお祝いするんじゃないの? 今日は一生に一度しかない二十歳の誕生日だよ?
「どうしてもここでお祝いをして欲しいって志麻が「パパッ!」
「おっと」
常盤さんの身体がぐらつき、危うくグラスが倒れるところだったぞ。
志麻は口元に人差し指をやり、シーッとポーズを取った。そんな志麻の顔は早くもうっすらと赤くなっている。まだグラスは半分も開けていない。
「そうだった僕が志麻とお酒を飲みたいって言ったんだった。で、ママはお酒が飲めないからって遠慮したんだよね。花菱君はノンアルコールも上手いのに。残念だよね」
「ね、ねー? ママも一緒に来られたら良かったのにね」
常盤さんは顔に出ないタイプだから、奥さんがお酒を飲めないってのは本当なのかもしれないけど、別にそんな分かり易いウソをつかなくても。お兄さんは素直に嬉しいぞ。
志麻はつい、と視線を外してあさっての方向を見た。そういう所は若さかな、なんて。
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