まぼろしのあめだま
無
しあわせあじ
ふわふわした感触に目を覚ませば。ふわふわした床に、甘い匂いのする白い壁。そこらじゅうに、甘くて上品な色のクッションが散らばっている。壁には何も入っていない豪華な額縁がいっぱい下がっている。ふと上を見上げると、星々が煌めいている。夜空を切り取ったかのような美しい星図がプラネタリウムのように偽りの空を形作っていた。夢を見ているのだろうか。胸の中は何故か多幸感で満たされている。
「お菓子を食べましょう。」
「いいよ。」
そこにはゴシック・ロリータを着た少年人形が2人。瓜二つの二体は白い陶磁器の肌はそのままに、色だけが反転している。見るからに柔らかそうな髪に、すっと通った眉毛。睫毛は過剰なほど多く、くるりと巻いている。鼻筋なんて、文句のつけようがない。薄い唇は、桜の花びらを3枚重ねた色。服はフリルブラウスにパニエのたっぷり入ったスカート、取ろうとすれば頭ごと取れそうな大きなヘッドドレス。互いを長いリボンで繋ぎ留めているチョーカー。身体中に巻きついたリボン。小さな纏足には小さなハイヒールが嵌っている。
「これにしよう。」
「そうですね。レアで頂きますか?」
「それがいい。今日は満月だからな。」
繊細な細工の施された小箱から出てきたのは、切れ味の良さそうな大振りのナイフ。柄の部分には、大きなピジョンブラッドが嵌め込まれている。
「さて、今日はどこから食べる?」
「そうですねぇ、手からに致しましょう。」
ざくりと音がした瞬間、右の肩口に鋭い痛みが走った。ごりごりと、骨が切れていく音がしたあと、また肉を切る音がする。
「こんな感じでいいか。」
「最後まで切れていませんよ…えいっ」
ぶちりと音がして、腕が引きちぎられた。少年人形は無邪気に笑った。これほどまでに残虐な事をされていると言うのに、とてつもなく嬉しい。
「「頂きます」」
じゅる...ぶちっ...ぐじゅぅ...ごりっ...じゅるる...
しばらくそこは捕食の音で満たされた。幸せだ。
「おい、指全部食べたな?口の中にまだ残ってるだろ…んぅ」
「んんっ...そんなにがっつかなくても、腕はもう一本あるじゃないですか。」
二体は仲睦まじく食事を楽しんでいる。意識が遠くなり、目を開けていられなくなる。感じた事の無い幸福感に包まれる。最期に二体の声が聞こえた。
「心臓は最後に食べますか?」
「いや、動いてるうちに食べるのも良いものだと思う。」
「どうしましょうか…」
「あっ、動かなくなっちまったぞ。早く心臓を取り出さないと…
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