みじかい小説やポエム
桜庭みゆき
2018年の夏
「今年は40℃近くの気温なんだから外で遊んじゃ駄目よ」
息子の海斗は、外で遊ぶことが大好きなので、夏休みも、どんなに暑くても、朝から夕方までセミ捕りやトンボ捕り、昭和初期の子供のように、近所を走り回って遊んでいた。
それまで家の中でゲームをしていた近所の子供たちも、海斗と一緒に走り回るようになり、喉が乾くと5〜6人の友達を引き連れて、家に戻ってくる。
麦茶を大きなヤカンで沸かしては冷やしても、足りないくらいに。
今年はほんとに無理だから。
そんなことを心配してからはっとする。
8歳だった海斗は、今ならもう大人だ。外で走り回ることはしないのだ。
それに……。
海斗はもうこの世にはいないのだった。
8歳で亡くなった海斗は、わたしの中では、いつまでも8歳の頃のままの海斗なのだ。
死んだ子の年は数えるな、と昔の人は言う。だけど、やはり、今年でいくつになったのかなと思ってしまう。
生きていたら、どんな大人になったのだろうか。
遊ぶことが大好きな海斗。大人になったら遊んでばかりじゃ駄目なのよ。
子供が犠牲になる悲惨な事件を知る度に、海斗は?海斗はどこ?大丈夫?などと思ってしまう。
「お母さん今日カレーが食べたい」
海斗の声がしたような気がして、今日の夕飯はカレーにしようと思った。
完
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