野口 翔太(8)


 4-①


 あいつは……よっちゃんじゃない。


 お父さんも、お母さんも、先生も、友だちも、みんなぼくの言うことを信じてくれない。

 この前の土よう日に、よっちゃんと、ちかくの林にあそびに行った。

 虫とりをしている時によっちゃんがいなくなった。よっちゃんをさがしてたら、人間みたいな形の、黒くてもやもやしたおばけがよっちゃんと手をつないで、よっちゃんをどこかにつれて行こうとしてるのを見つけた。

 よっちゃんをたすけなきゃと思って、おばけのあとについて行ったら、おばけはよっちゃんをつれて大きな黒い穴に入って行った。おばけをおいかけて、ぼくもいそいで穴に入った。


 4-②


 穴を出たら、いつもあそんでる林とはちがうところに出た。


 昼なのに……空が真っ赤だ。見たことのないへんな木がいっぱい生えてる。きっと、ここは……おばけの国だ。


 たいへんだ…早くよっちゃんといっしょににげないと!! よっちゃんをさがしてたら、むこうの草むらで “がさっ……がさがかっ……” って音がした。

 おばけかもしれないから、見つからないようにそっと草むらをのぞいたら、そこにいたのはおばけじゃなくて、よっちゃんだった。


「よっちゃん!!」


 ぼくはよっちゃんのところへ行った。でもよっちゃんがなんかへんだ。


「よっちゃん……どうして、はだかなの?」


 よっちゃんはなにも言わない。


「よっちゃん…? ねぇ!? よっちゃ……あっ!?」


 よっちゃんの足元に……もう一人よっちゃんがたおれてる。たおれてるよっちゃんは、あたまからいっぱい血が出てる……たおれてるよっちゃんは、ちゃんとふくをきてる。


 はだかのよっちゃんが “にぃぃぃっ” とわらった。こいつは、よっちゃんじゃない……おばけがよっちゃんにばけたんだ!!


 ぼくはにげた。よっちゃんのおばけがおいかけてくる。だいじょうぶ、よっちゃんは走るのが早くない。心の中でそう言いながら走ってたら、あの穴を見つけた。来たときよりかなり小さくなってる。

 ぼくはしゃがんで小さくなった穴に入って、まっくらな穴の中をハイハイですすんだ。だんだん明るくなってきた、もうちょっとで出ぐ…


 “がっ!!”


「わぁぁぁっ!?」


 なにかがぼくのくつをつかんだ。足を引っぱって、ぼくをおばけの国につれて行こうとしてる!!

 こわくて足をバタバタしてたら、くつが脱げた。うごけるようになったぼくは、いそいで穴の外に出た。

 いそいで帰って、お母さんに『よっちゃんがおばけにつれて行かれた!!』って言ったら、よっちゃんのお母さんや、おまわりさんが来た。ぼくはお母さんと、よっちゃんのお母さんと、おまわりさんたちを、穴があったところにつれて行ったけど、あの穴はなくなってた。

 おまわりさんたちがよっちゃんをさがしてくれたけど、よっちゃんは見つからなかった。


 それから三日して、よっちゃんは帰ってきた。よっちゃんのお父さんとお母さんも、先生も、クラスのみんなもいっぱいよろこんだけど、ぼくは知ってる……


 あいつは……よっちゃんじゃない。

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