第33話 追跡、ゲームセンターにて
「あそこに入って行ったみたいだね」
日野崎が指さしたのは駅前の通りから少し横道に入ったところにあるゲームセンターだった。
僕らは周りの目を気にしながら、そっと入り口の前まで近づく。
「でも、気を付けないと。……もし入り口近くで遊んでいたりなんかしたら私たちに気が付いちゃうかもしれないわ?」
「いや。その心配はなさそうだ」
明彦が入り口の自動ドアのガラス越しに中を観察しながらつぶやく。
「二人とも奥の方の筐体で遊んでいるみたいだな」
「よし。それじゃあ入ってみようか」と僕が先陣を切って足を踏み入れた。
派手な音楽が流れる店内を自然に歩いているように装いながら、僕らは周囲に目を配り二人を探しまわる。
「そういえば、巴ちゃんはゲーム好きだって聞いたことがあったけど、どういうジャンルをやるんだ?」
日野崎はうーんと唸りながら記憶を探るようにこめかみに指をあてた。
「確か、音ゲーとかだけど一昔前のガンシューティングとかも好きだったような」
「それってああいうの?」
星原が指さしていたのは、犯罪組織と戦う刑事という設定で、画面に現れる凶悪犯をガンコントローラで倒していくシューティングゲームの筐体だった。
「そう、ああいうの……いた!」
日野崎が小さく叫んだ。
僕らの目の前のゲーム筐体の列をはさんだ向こう側に置かれたゲーム筐体。その前で巴ちゃんと赤羽という少年が二人並んでコントローラを構えていた。
ちょうど一ステージクリアしたところらしく、少年は巴ちゃんの前でどうだと余裕の笑みを浮かべているように見えた。
巴ちゃんもそんな彼に「すごい!」とはしゃいで笑い返しているようだ。
「ふーん。巴ちゃんの好みに合わせてあのゲームを選んだのかな」
隣の明彦が僕の呟きに言葉を返す。
「あるいは事前に巴ちゃんの好きなゲームを聞いていて、良いところを見せようと練習していたのかもしれないぜ」
一方、日野崎は憤怒の表情で二人を睨んでいる。
「あいつめ。よりにもよってガンシューティングゲームとはね。薄汚い本性を見せ始めたようだよ」
「え? ガンシューティングゲームをやるのがそんなにまずいのか?」
よくわからないと言いたげに明彦は
「かーっ! わからないのかな。もう! 馬鹿!」
「よりにもよって日野崎にバカって言われた……」
明彦が愕然とした表情で立ち尽くした。そんな彼の反応を無視するように日野崎は一気にまくしたてる。
「いい? ガンシューティングということは狙ったものを打ち抜くゲームだよ」
「お、おう」
「しかも銃と言ったら男の暴力性の象徴みたいなもんじゃないか」
「そ、そうかもしれんな」
「それを女の子と一緒にプレイしようだなんて! つまりこれは『女の子のハートを打ち抜いて自分のものにしてやるぜ』という宣言。いや『自分自身のマグナムで巴を貫きたい』という深層心理の表れなんだよ!」
「な、なんだってー!」
僕らは世界滅亡の予言を聞かされたかのような勢いで吃驚する。
「……って本当にそうか?」
明彦が冷静に僕と星原に問いかける。
「いや、僕に聞かれても。『ガンシューティングゲームをやる』ということが『女の子にいやらしいことをしようとしている』ことに関係があるのかどうか」
「うーん。だよなあ。これがさっき言ってた疑似相関とかいうやつか」
「……いや、疑似相関を通り越して妄想なんじゃないかという気もするけれど」
普段は冷静沈着な星原も今回ばかりは困惑して顔をしかめていた。
日野崎勇美の「いさみ」は勇み足の「いさみ」なのではという言説が僕の中で成り立ちそうな勢いだ。
「それと」
「ん?」
「どうも、こうあの赤羽ってやつの物腰には引っかかるものを感じるんだよなあ」
明彦は眉をひそめて考え込むかのように渋い表情でそんなことを呟いた。
「引っかかるって? 何が?」
「何となく、こう、身に覚えがあるというか。いやはっきりとはわからんが」
「何だ、そりゃ」
明彦にしては奥歯にものが挟まったような、茫洋とした言い回しだ。
日野崎がそんな僕らを振り返って発破をかけてくる。
「何をそんなごちゃごちゃ悩んでいるのさ。見る限りあいつが巴にまとわりついてくる悪い虫なのは間違いないだろ?」
「いや、確かに巴ちゃんに好意を抱いているのはそうかもしれないが……」
歯切れの悪い明彦を無視して、日野崎は「ああっ」と更にわなないた。
「店の反対側出口の方に行っちゃう! 見失っちゃうよ。行くよ!」
彼女はそう言って速足でゲームセンターの通路を通り抜けていく。
「ちょっと待ってくれ。速いって!」
「急がなくても、この辺りじゃあそんなにカフェとかの飲食店は多くないからすぐ見つかるよ」
「……聞く耳なさそうね」
僕らはまたもそれぞれぼやきながら、彼女の後を追いかけた。
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