第4話 4対1
「おいおい、まだ集いやってんのかよ?時間かかりすぎだってえの」
訪問者は、管理者に声をかける。
二人とも何も言わないからか、はたまた息の潜め方が悪かったのか、野性的な目が私を捕捉した。
「あ?誰だ?」
「……あなたこそ」
包み込むように、真綿で首を絞めるように。
見つめ返しても、相手は微動だにしなかった。
「……マキさん、あそこにいるのは、昔の集いの参加者、セイゴくん。僕たちとは顔馴染みです」
「集いはもう終わったわ。彼女は今回の集いに参加する予定だったってわけ。ああ貴女、あの野蛮人のことを覚える必要はないわよ」
「んだとこの冷血女」
嘘ではないらしい。性格もばらばらだけれど、一種の信頼感のようなものが感じられる。
「ーーっと。そうそう、サトシ、おまえに連絡あんだよ」
「何ですか?」
「あんまりでかい声じゃ言えねえんだけどよ……」
声量も体格も大きいセイゴ、こちらのほうに近づいてくる。
刹那。
殺気とともに繰り出された拳をかわし、スタンガンを突き出した。
「効くかよ!」
利き手を思い切り捕まれる。
ぞくりと粟立ち蕁麻疹。
「ーーDon't touch me!」
昔はあげられなかった声を、今張り上げる。
手首をひねり、相手が怯んだところで私の両拳をセイゴの顎に振り上げた。
「っ!」
よろめいたところに鳩尾へ一発。
げほおという呻き声がした。
「てめえ、なんだ……?」
「あなたが先に手を出しました。防戦したまでです」
サトシ、アンリ、ともに呆然としている。
「……空手かなにかの選手?」
「いいえ。昔、軍属の方から護身術を習っただけですよ」
「マジもんじゃねえかよ」
「こちらもまさかお腹を狙ってくるとは思ってなかったです」
正当防衛。
あちらのほうが、分が悪い。
反論はなかった。
女性の笑い声だけが響く。
「プランBも失敗だったら、ちゃんと話を聞くしかないわよね?」
「……どういうことですか」
「それじゃあ謎解きを始めようか」
開け放たれた扉から、第四の人物がやってきた。
「まずはじめに、そこの二人、サトシくんとアンリさんは集いの実質的な管理者だ。最初、この二人は君のことを侵入者だと思った。だからあんな出迎えかたをした。ここまではいいよね?」
「ええ。誤解がとけた上で私の身の上をお話ししました」
「そしてセイゴくんがやってきて、マキさんに襲いかかった。でも管理者の二人が止めないっておかしくない?いくら顔馴染みといってもさ」
「あらかじめ打合せされたものだとしたら理屈は通ります。例えば集い自体が罠で、悪意を持った誰かが待ち構えている可能性も、私は考えていました」
「ねえサトシくん、マキさんって危機管理能力高いよね」
「話を戻しましょう。私が知りたいのは2つです。なぜ集いの参加者と分かったにも関わらず、私の意識を失わせようとしたのか。そして四人目のあなたは、管理者の一人なのか。私はあなたにまだ名乗っていませんし、今までの経緯をお話していません」
「……では、改めて説明します」
重たい息を吐きながら、サトシは私を見据えた。
「彼も集いの元参加者です」
「ノブオです。どーも」
「二度もあなたの意識を奪おうとしたのは、僕が作成したマニュアルに則っています。集い終了後にここで一人で死なれると、早い話、困るんです。この場所で二度と集いができなくなります。ですので、何人かの協力を得て運営には細心の注意を払っています。目の届く範囲の侵入者は気絶させる。遅刻者も含みます。今回だと第一波が僕とアンリさん。保険としてお願いしていたのがセイゴくんです」
「気絶したまま放置するとは思えません。さしずめ四人めのあなたは通行人を装った通報役ですか」
「ザッツライト!セイゴくんあたりが道端まで運んで、そこを僕が119。事件に巻き込まれたらよくないからね」
「状況を把握していたのも納得です。どこからか盗聴していたのでしょう」
「その通り!」
「聞かなかったことにしますから、ノブオくん、すぐ にデータの提出と破棄を。セイゴさん、しめといてください。そしてマキさん」
サトシは体ごと私に向きなおる。
「あなたは集いに何を求めていますか」
「人生の、指針を」
「…………それでは、変則的な集いを行いましょうか」
福音。
それぞれに変わる表情。
「集いは全員一致で物事を進めるのが原則です。通常はメンバー全員で死ぬか、そうでないかを決めますが、今回は違う」
息を吸い込む。
いきるため。
次の言葉を紡ぐため。
「マキさんを除く全員で、生死を決定します。……あなたの生殺与奪の権利を、我々が握っていいですか」
「ええ」
答えなんて決まっていた。
「俺はお前の事情は知らねえけどな」
セイゴがタバコに火をつけた。
「イカれてるぜ」
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