プロローグ
「銃のない世界に行きたくはないかね?」
かつて黒く重たい道具を握った私の手に触れながら、その人は言った。
「そんなことが、できるの……?」
お兄ちゃんは私が殺した。
私を助け出してくれたお兄ちゃんも、死んでしまった。
「できるとも。君が望むなら」
「しかし!証人保護プログラムを適用するにはまだ年端がーー」
私の手に触れた男の人は、私が震えているのを見て、手を引っ込めた。
そして口を挟んだ別の人を制する。
「約束しよう。銃のない世界へ、君はいくことができる。ただし」
「ただし?」
「ケイティとしてではなく、別の人間としてだ。名前も、家族も、思い出も、全部別のものにして、新しく生きなおす」
「…………マルドゥックではないところで?」
「ああ。とても遠いところだ」
目の前に、にこやかで、でも答えなんて決まっているだろうと言いたげな人がいる。
私の大切な人は、死んでしまった。
私に関わったばっかりに。
だったら私は。
「ここから、離れたい…………」
あの人から毎日送られた花は、もう届くことはない。
病室の隅で、ゆっくりと朽ちていくのを待つばかりだった。
「君の願いを、叶えよう」
暖かい温度、優しい声。
今度なんてこない。
あんな思いは、もう二度としたくない。
誰かがなにも言わず永遠にいなくなるなら。
するりと隣から消えてしまうなら。
だったら私は。
大切なんて作らずに、だれも傷つけないために。
これからずっと、一人でいたい。
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