ジェラートの屋台

第2話 暇人の選別

「ねぇ、委員長?」

「ん、神代さんか。……なんだい?」

 トントン。委員長はプリントの束をまとめながら振り返る。


 サラサラな前髪、つるんとした卵型の輪郭。眼鏡が似合って、当然頭も良い。

 まさにベタな委員長像、ステレオタイプって言うんだっけ。

 私、神代桜かみしろ さくらが話しかけた彼は、まさにそう言う人である。


 そして同じクラスである私は、休み時間に無造作に彼に話しかけても良い。そう言う権利を有するのだ。

 我がうつくしヶ丘高校は超一流とまでは言わないが、有数の進学校ではある。

 ……受験勉強、がんばって良かった。


「忙しそうだねぇ。……放課後もなんかあるの?」

「ん? あぁ。――今日の放課後は、生徒会のクラス委員総会だけれど。何か用事だった?」

「いや、あの。うん、忙しそうだから手伝おうかな、なんて」

 ――ありがとう、言う程忙しくは無いから大丈夫だよ。そう言って目を合わせると、彼は笑う。


 一応放課後の予定は知っていたけど、話す口実さえあれば良かったわけで。

 とか言いながら。それでも言われれば手伝うつもりは全然あったし、実は放課後に付き合って欲しかった。と言うのも本当だけど。


 でも、こんなわかりやすい抜け駆けなんかしたら。

 クラスの女子全員を敵に回す事になるだろうな。

 もっとも、委員長と“仲良し”になれるなら。女子全員一八名全員が敵に回ったって、何処にも問題はない。受けて立ってやる!


 

 ま、それはともかく。放課後である。

 誰か、暇な人をピックアップしないといけないな……。

 間違い無く暇なヤツならいるんだけど。




「おい桜、俺だって暇じゃ無いんだよ!」

「部活もバイトもしてないじゃん」

 と言うわけで。


 同じクラスで一番暇そうな南高仁史なんこう ひとふみを引っ張って、新興住宅地うつくしヶ丘中心部にある公園へと向かっている。


「だいたい、アイス食うだけでなんでわざわざ公園に行くんだよ。電車の時間が……」

「もう五時十三分の快速無理でしょ? 四十六分のあとは六時過ぎだもん、良いじゃん」



「良くない! 付いたあと、駅からウチまで何分かかると思ってる!」

「自転車で一二分。――駅からバスで行ったら? 一三〇円だし」

「明日の朝どうすんだよ!」

 朝のバスは繋がりが悪くて、六時二三分に乗り損ねると次は七時一八分。これは猛烈に混むのだ。


「あのさ、公園のね、ジェラートの屋台がおいしいって。みんながさ……」

「だから! そういうのは女同士で行けば良いだろうが。なんで俺だよ!?」

「周りに帰宅部が仁史しか居ないから。それにもう夕方でしょ? 女の子の一人歩きは危険だしぃ……」


アパートおまえんちは学校徒歩五分、隣はスーパーだろうが! 寄り道をするな、買い食いをするな、食い物は家で喰え! それで問題はほぼ全て解決だっ!」


 彼とは従兄弟同士で有り、本来は家もご近所、同じ町内会で徒歩数分。

 但し高校に入ってから環境は変わった。

 彼は自宅から一時間弱をかけて電車通学、私は学校の近所にあるアパートを借りて貰った。


 彼が帰りの足を心配しているのはそう言う理由だ。

 アニメじゃあるまいし、私んちに泊まるわけにも行かないしね。

 だいたいそう言う意味なら電車の最終は23時58分。足が無くなる道理が無い。


 駅が学校にほど近いところにある、と言うのも怒ってる理由だろうな。

 公園と駅は逆方向。必要以上に遠回りさせている、と言う事だからね。

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