オバケトンネルの怪

純太

第1話 夏合宿最後の肝試し

 桜坂高校剣道部では、毎年8月下旬、神奈川県の湘南で合宿を行う。3年生が引退した後で、新チームの結束を高めるとともに、基礎力を向上させることが目的だ。


 その宿泊地の近くに、地元民から「オバケトンネル」と呼ばれるトンネルがある。


 海沿いの旧道にかかる寂れたトンネルで、毎年、夏の終わり頃になると、


「夜な夜な、女のすすり泣く声が聞こえる」


 と噂されている。


 合宿最後の夕方、そのオバケトンネルで肝試しをすることが、桜坂高校剣道部の恒例になっていた。男女のペアをつくり、1組ずつトンネルを抜けるという行事だ。


 オバケの正体については諸説あるが、部員たちはそれらの都市伝説を信じていない。この肝試しが親睦を深めるイベントの一環であることを理解している。


 ところが……


 肝試しに参加した1・2年生の何人かは、トンネルを抜けた後、言うのである。


「恐ろしいものを見た」

「確かに、女のすすり泣く声を聞いた」


 何も見なかったし聞かなかったが、胸がドキドキした、と言う者もいる。


 ***


 男女の組み合わせは、合宿に参加しているOB・OGが厳正なくじ引きで決める、という建前だが、何らかの作為が加えられている、というもっぱらの評判だ。


 今年の夏も、稽古の仕上げと入浴を済ませた部員たちがトンネル前に集合する。先にトンネルの向こう側に移動した3年生が、懐中電灯を振ったら出発の合図。


 一組目は、2年のぶきりょうすけと1年のあさむらさきというペアだ。

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