第79話 「その者、蒼き衣を纏いて金色の野に降り立つべし」

 男子という生き物がいる。

 彼らは単純にして複雑な生き物であり、『臆病な自尊心モテたい』と『尊大な羞恥心恥を搔きたくない』という二面性を兼ね備えたその精神性は、ややもすると光と闇が備わり最強に見える。

 そんな特殊な思考回路によって突き動かされる彼らの至上命題は、多くの場合たった一つ。

 伝説の生き物である『彼女』という存在の獲得である。

 極々稀ごくごくまれに『彼女』を作るということ以上に、他の事に楽しみを持つ者もいるが、殆どの男子は彼女という存在を手に入れようとする。

 彼らは『彼女』の力を借り、自らの聖剣を鞘から抜き放つことで初めて、脳内を支配する『臆病な自尊心』と『尊大な羞恥心』からの解放を得るのである。

 ――だが。

 当然、『彼女』は容易く入手できるものでは無く、中には手に入れらない男子高校生も出てくる。

 しかし、手に入らなかったとはいえ、彼らを突き動かす熱情が無くなる訳ではない。

 ソレは――いつでも。

 ソレは――どこでも。

 彼らの脳内で、囁き、呟き、呻き、喚き、嘆き、その欲求を満たすように訴えてくる。

 ソレは、曰く名状しがたく、酷く冒涜的で、這い寄るようにゆっくりと。

 ――彼らを責め立てていく。

 その声を無視することは容易ではない。

 故に。

 彼らは『彼女』を使わない方法で、ソレを抑える必要があった。

 ……そうしなければ、いつか彼らの中で膨れ上がったその『臆病な自尊心』と『尊大な羞恥心』が何をするのか分からないのだから。

 だから、彼らは行動する。

 自らの内から滾る、浅ましく、愚かしい情動を封じるように。

 その方法は個人によって異なるが、多くの場合、本というようなアイテムの力を借りて、鎮めることになる。

 『彼女』程の効果は無いが、そういうアイテムによって一時的に聖剣を開放し、『賢者』への道を開くことが出来るのだ。

 それによって、ソレを一時的に鎮めることが出来るのである。

 なので、『彼女』を持たざる男子にとって、それらのアイテムは『聖典』と呼ぶに相応しいものであり、自らの内面に深く結びつくものなので、大事に保管するのが一般的である。

 使うタイミングと、保存場所として適性を考えるのなら『ベッドの下』が一般的だろうか。

 ――長くなってしまったが、言いたいこととしては一つだ。

 年頃の男子には隠し事があるのだ。


「来ちゃダメー!! なんにもいないわっ!! ここには、なにもいないったら!!」

「……惨めですねぇ、ご主人」

「……妾としても、今のノゾムは見とぉなかったぞ」

 布団が仕舞われている押入れを前に、みっともなく叫ぶ男が居た。

 ――というか、俺だった。

「俺は……俺は悪くねぇっ!」

 憐れむような視線を向けてくる黒猫と少女に対して、俺が出来ることと言えば、こみ上げてくる罪悪感に押しつぶされないように、そう叫ぶことだけだった。

「何を開き直っているんですか、ご主人。……もう、良いですから。怒りませんから。さっさと隠しているモノを出して懺悔しなさい」

「……う……うむ。妾も……その、なんじゃ。……男というものにはそう言うモノが必要じゃ、と聞いたことがあるしの。……それがノゾムにとって必要じゃというのなら、理解はするつもりじゃぞ?」

 溜息をつく黒猫と、顔を赤らめながら両手の人差し指をチョンチョンと合わせる魔王を見ながら、俺は思う。

 どうしてこうなった。


 話は少しだけ遡る。


「それじゃ、俺はちょっと師匠と話してくるぜ。……一応言っとくと、学内であれば危険があったら分かるから良いんだけど、学外へ出るなら一声かけてくれよ? 理事長室に居るからよ」

「分かった。さっきの件頼んだぜ、リッジ」

「おうよ」

 そう言うと、リッジは手をひらひらと振りながら教室を出ていった。

 これで教室に残ったのは、俺、ノワール、ナイアだけとなる。

「……ちょっと、疲れているみたいだったかな。理事長」

「……ですね。まぁ、実力はあるとはいえ、本分は教職者でしょうから、『護衛』というのは少し辛いのかもしれません」

 まぁ一応、今は十五くらいの少年に見えるけど、あの人の本当の姿は、それはもう豊かな髭を蓄えたご老人だからな。

 体力的には、むしろ自然なことかもしれない。

「本当に感謝してもしきれないな」

「ええ」

 頭の上の黒猫とそう言葉を交わし、俺は視線を横にいる少女に向ける。

「ナイアも疲れただろ? ありがとうな」

 リッジと同じく『護衛』として、傍でずっと気を張ってくれた少女へと。

「ん? ああ。大丈夫じゃぞ、ノゾム。妾としてはこれしき何の痛痒も感じぬわ」

 なんせ妾は魔王じゃからのぅ――などと笑い、胸を張るナイア。

 その笑顔を見ているだけで、なんだか救われた気持ちになる。

 そして同時に――


『ノワールを渡すつもりはありません……それ以外に、俺から言う事はありません』

『……っく』


 ――俺の返事を受けて、泣き出した『第二王女』の表情を思い出した。

「……」

「……ん? どうしたのじゃ、ノゾム? なんぞあったかの?」

 気付けば、黙り込んでいた俺を覗き込むように首を傾げながら、ナイアはそう声をかけてきた。

「いや、なんでもないよ……思った以上に、ナイアが元気そうだから安心したんだ」

「そうかの? ならば良いのじゃが」

 尚も不安そうなナイアの頭を誤魔化すように撫でながら、俺は『第二王女』のことを考えていた。

 ……なんで、あの人は泣いたんだろうか。

 結局、答えは出ないままだ。

「ご主人。この後はどうしますか?」

 ――と、そこで、俺の悩みを切るように、頭の上からそう声がかけられる。

「どうするってのは、どういう意味だ? ノワール」

「いや、そのままの意味ですけど。今日は勉強会も流れてしまいましたし、時間がぽっかりと空いてしまったじゃないですか。私としてはこのまま教室で時間を浪費させるのはもったいないと思うのですが」

「ああ。そういう意味か」

「ええ。……どうしましょうか? いっそ理事長へとお声掛けをして、迷宮ダンジョンにでも潜ります?」

 そう言って、黒猫は上から俺の顔を覗き込んでくる。

 そんなに身を乗り出したのなら、落ちそうだと思うのだが、変に器用な奴だ。

「……いや、今日は止めとこう。初日だから無いとは思うけど、『第二王女』が何か狙ってるかもしれないしな」

「ふむ。そう言われたら、そうですね」

「まぁ、偶にはこんな日もあるってことで、部屋に帰ってメルと絡もうじゃないか」

「分かりました。……こんな殺人者がうろついているかもしれない外になんて居られるか!! 俺は部屋に篭るぞっ!! って奴ですね?」

「フラグを立てるな」

 そうやって、俺たちは教室を後にした。

 ……ノワールには言えなかったが、俺が迷宮探索を断った理由は他にもある。

 教室を出ながら俺は、誰に言うでもなく呟きを漏らした。

「……ホント、なんで泣いたんだろうなぁ」

 女の子を泣かしたという事実は、静かに俺の豆腐メンタルに傷をつけていたのである。

 この状況では、とてもモンスターと戦闘する気分にはなれなかった。



「あっ! ノゾムさん、ノワールさん、ナイアさん!! お帰りなさいですー!!」

 部屋へと戻ってきた俺たちを迎えたのは、そんな明るい声だった。

 見れば、妖精であるメルが半透明の翼をぱたぱたと動かしながら、こちらへと向かっていた。

「ああ、ただいまメル」

「ただいまです、メル」

「ただいまなのじゃ」

 そんなメルに言葉を返しながら、俺たちは部屋の中へと歩を進める。

 メルはそんな俺たちを笑顔で向かると、腕を振った。

 瞬間。

 呼応するかのように、台所の方からコップと水差しがふよふよと飛び出し、部屋の中央にある机の上を滑り、俺たちの前で静止する。

 そして今度は水差しだけが動き、自身の中身をコップへと注いでいく。

「どうぞ、召し上がって下さい」

「ん。ありがとうな、メル」

「頂くのじゃ」

 差し出された水を受け取り、俺とナイアはくいっと口に入れた。

 うん。

 冷えた水が喉を通る感覚が心地良い。

「ん。美味かった」

「うむ! 満足じゃ」

 俺たちがそう言ってコップを置くと、メルは嬉しそうに笑った。

「そう言って貰えると嬉しいです」

 そう言ってはにかむメル。

 そんな笑顔を見て、俺はまた『第二王女』のことを思い出していた。

「……」

「……ノゾムさん?」

「――っ! あ、ああ。なんだ? メル?」

「いえ……急に黙り込んでしまったので」

「そうか。なんか、ごめんな」

「いえ、大丈夫なら良いんですけれど」

 大丈夫、大丈夫――と、手を振りながら俺は思う。

 ……やばいなぁ。

 どうやら、思っている以上に俺は落ち込んでいるようだ。

 まぁ、同い年の女子を泣かしたのなんて小学生以来だしな。

「うーむ。本当に大丈夫かの? ノゾム?」

 俺がそう考えた時、横にいるナイアからも声がかけられた。

「なんじゃか、今日は調子が悪いみたいじゃし、早う休んだ方が良いのではないかの?」

「メルもそう思います」

「ふむ。そう言えば、なんだか午後の講義くらいから上の空でしたもんね。ご主人」

「いや、本当に大丈夫だって」

 俺はそう言って笑ってみせたが、心強い仲間達はそれを強がりと見抜いたようだった。

「まぁ、ノゾムは命を狙われとるかもしれん張本人じゃしのぅ。気疲れもあったのじゃろうて。気を使わんでも良いから今日はゆっくりと休むのじゃ」

「私もナイアに賛成です、ご主人。まぁ、まだ眠くは無いかもしれませんが、横になっているだけでも良いかと思いますよ?」

「いや、本当に大丈夫――」

「強情じゃのう。それじゃあ、妾が布団を敷いてやるのじゃ」

「――うおぃっ!! ナイアっ!! ストップだっ!!」

 俺の台詞の途中で、ナイアがそう言って押入れに向かった瞬間、俺は彼女の腕を強く掴んでいた。

「うおっ!? なんじゃ、ノゾム? 驚いたぞ」

「あ、ああ。すまん、ナイア。……でも、本当に大丈夫だからさ。あまり心配しないでほしい」

 はははっ――、なんて空笑いをしながら俺は冷や汗を流していた。

 ……あまり大きな声では言えないことだが、今あの押入れの中には、俺の個人的な嗜好品が入っているのである。

 いくら同じパーティだからとは言え……いや、同じパーティだからこそ『言えない秘密』というモノが存在するのだ。

 ……それにしても、今のは危なかった。

 未然に防げたのは奇跡的だと言えるだろう。

 俺がそこまで考えた所で――

「怪しいですね? ご主人?」

 ――頭の上の黒猫がそう呟き、床へと降りた。

「すこーし、必至すぎましたよね? ナイアを止めるのが。……何かあるんですね? あの押入れに」

 そう言いながら、首だけ振り向いた姿勢でこちらをみるノワールさん。

 なんでそう言う所に気づくかな、この黒猫は。

 普段いつも一緒にいるからか?

「……疑問形なのに、確信があるような言い方だな?」

「……否定はせず、ですか。決まりですね」

 そう言った猫の動きは速かった。

 ノワールはいきなり押入れに向けて駆け出し――

「――っ!? 行かせねぇよッ!!」

 ――それを確認した俺によって、その行動を止められていた。

 俺はノワールより早く押入れの前まで移動すると、振り返り両手を広げて黒猫の進行を阻害する。

「なっ!? いつの間に!!」

「残念だったな、ノワール。レベルアップによって俺とお前のステータスも変わっているからな。素早さで言うなら、もう俺の方が速いんだよ」

「くっ!! ……でも、そこまで隠すということは確定みたいですね!! 一体、何を隠しているんですか!? ご主人!!」

「に……にじり寄るんじゃない! ノワール!!」


 これが冒頭に至るまでの、流れの全てである。


「大体、人様の秘密を探ろうとするのは良くないと思うぞ、ノワール」

「人様に秘密を作ることが問題でしょうに」

「人には守るべきプライバシーというものがあってな」

「あいにく、猫に守るべきプライバシーというモノはありません」

「……」

「そもそも、ナイアもメルもいる状況で何をしてるんですか。貴方は」

「……それは悪いと思ってる」

 そう答えながらも俺は体から力を抜かない。

 この中の物を見られてしまったら俺は。

 ――この仲間たちに嫌われてしまうのかもしれないのだから。

「……はぁ。そんなに身構えないで下さい、ご主人。……私だってその行為を全否定する訳ではありませんよ。……必要なことなんでしょうし」

「……本当か?」

「ええ……言わせないで下さいよ。なんだか恥ずかしいですから」

 俺はノワールの目を強く見つめる。

 ノワールは恥ずかしそうにプイッと視線を逸らしたが、前言を撤回する様子は無いようだ。

「……そうか」

 俺はそう言うと、ナイアとメルにも視線を向ける。

 ナイアも顔を真っ赤にしながらもコクリと頷き、メルは良く分からないようだったが、大丈夫だと言うように笑ってくれた。

 それを見て、俺は息をついた。

 ……ああ。

 本当に良かった。

 俺がやっている行為は俺にとって必要とは言え、同じパーティのメンバーには受け入れてもらえないと思っていたのだ。

「――でも、それは俺の思い違いだったんだな」

 俺のそんな呟きに対して、ノワールは仕方ないとでも言うように、首を軽く振りながら口を開く。

「ご主人。……私たちはそれくらいで貴方を嫌いになったりしませんよ」

「……ごめんな、ノワール。……本当にありがとう」

 俺がそう言うと、猫は恥ずかしくなったように顔を横に向けながら、早口で言葉を紡ぐ。

「で、でも。無条件で認める訳ではありませんからね!! ナイアとメルの教育にも悪いですし!! やるなら人が居ないところでコッソリとやって下さい!! 後、隠し場所も私たちの目に届かない所に変えて下さいね!!」

「……そうだな。分かったよ。言いにくいことを言ってくれてありがとうな、ノワール」

 黒猫の言葉に暖かいものを感じながら、俺は何度も頷いて頭を下げた。

 ノワールはそんな俺を見て優しく笑ってくれた。

 その笑顔に背を押されるように、俺は押入れを開け中に大切に隠していたモノを取り出す。

 ノワールは俺のその行動を確認すると、始めは俺の手にあるものを見ないように、見ないようにと視線を逸らしていたが、やがて好奇心に勝てなかったようにチラリとそれを視界に入れた。

 ――瞬間。

 黒猫の動きが固まった。

「……ご主人?」

「ん? どうした? ノワール?」

「……それは何ですか?」

 ノワールはそう言うと、俺が持っているものを前足で示してきた。

 うん?

 おかしいな。

 さっき認めてくれてたし、話の流れからこれが何かなんて分かりそうなものだけど。

 ああ、そうか。

「何って……『貯金箱』だけど?」

 俺はそう言うと、硬貨を入れるための切り込みが見えるように、手に持っている『木製の箱』をノワールの前に翳した。

 見た目は只の四角い箱だしな。

 ブタの形とか招き猫の形とかの前の世界の『貯金箱』に慣れたノワールには、これが『貯金箱』だとは思えなかったのかもしれない。

「いやぁ~、でも良かったぜ、ノワール。前の世界から身に着いた習慣だから、毎日コソコソと溜めてたんだけど……一円も使っては無いとは言え、やっぱりお前とナイアと一緒に稼いだ金じゃんか? 見つかったら怒られると思って、今まで戦々恐々としてたんだよ」

 いやぁ、良かった――なんて、笑っていた俺は、気付かなかった。

「……」

 目の前にいた黒猫が酷く呆れた顔を浮かべていることに。

「……ご主人らしいと言いますか」

「妾としてはホッとしたのじゃ。……今のこの体では、求められても応えられんしのぅ」

「? ナイアさん、ナイアさん。求めるってなんですかー?」

「――っ!! なんでもないのじゃ!! メル!! なんでもないのじゃーっ!!」

 俺がふと視線を向ければ、ナイアがメルの口を塞ぐようにパタパタしていた。

 ……メルの体は物質を通過するから、その行動に意味は無いと思うんだが。

「ん? ナイアとメルはどうしたんだ? ノワール」

「……はぁ。なんでもありませんよ、ご主人――それより、そんなお金があったんなら私をもっと強化して下さいよ」

「お前がそう言うと思ったから、今まで隠してたんだよ。……基本的には買い物の時の端数とかしか貯めてないし、いざという時は使うから見逃してくれ」

「まぁ、内の家計はご主人がやりくりしてますしね。それくらいの役得はあってもいいでしょう……で、今はいくらくらい貯まってるんですか?」

「……二千円くらい」

「……」

「……」

「……少なくありません? なんなら、もう私にまとめときません?」

「……貯めてるっていう事実が大事だから」


 黒猫の憐れむような視線がやけに突き刺さる、とある日の夕暮れだった。




 『賢者 ルーネ・リカーシュ』

 過度にではなく、適度に豪奢な調度品で整えられた室内で、一人の女性が中空に向かって言葉を紡いでいた。

「――そうそう。そういう訳で、複製が許された資料については君の所に送ってあるから、年代別に纏めながら目を通しておいて欲しい」

「――え? ははっ。それをするのも弟子の仕事だよ」

 彼女は誰も居ない虚空に話しかけているのだが、その口調に迷いは無く、適宜に挟まれる沈黙はまるで見えない第三者と会話をしているようだった。

「――調査の進捗かい? それが当初の予定よりは遅れてるんだよね。なんでも三〇〇年前の資料について閲覧許可を出せる人物が、ここ最近、長期的な遠征をしているみたいでさ。調べられるところから調べてはいるけど……なかなかね」

「――ん。大丈夫じゃないかな? 明日にはその人、『勇国』に戻ってくるみたいだし。一応、あと一週間では調査も終わると思うよ」

「――ん? ノゾム君が? ――ふんふん。分かった。それくらいで彼に貸しが作れるなら安いもんだしね。――でも、意外だね? 彼は寧ろ関わらないように、距離を取りたがると思っていたんだけど……」

「――え? ナイアからのお願いでもあるのかい? ……分かった。一応、明日中にはそっちも調べておくよ。結果はまた定時連絡の時に伝えるから、ノゾム君たちにはそう伝えて欲しい」

 それじゃあね――、と言うと彼女は首を軽く振って、少し長めに息を吐く。

「……ふぅ。この距離で念話なんて久しぶりだけど、体は覚えているもんだねぇ」

 そう言いながら、彼女は伸びをして言葉を紡ぐ。

 組み合わされ、頭の上に伸ばされた両手が、彼女の髪を優しく揺らした。

「でも、本当に意外だったなぁ。……ノゾムくんから『第二王女』について、どんな人物か調べて欲しい、だなんて」

 そう言うと彼女は伸びを止め、部屋の壁に寄せるように置かれているベットへ自らの体を投げる。

 ポスンッ。

 という音を立て、一度だけ跳ねた後、彼女の体はベットの上に落ち着いた。

「まぁ、良いさ。……それも明日の僕の仕事だ。今日は少し疲れたしね、ちょっとだけ休むとしよう」


 そう言って、彼女は目を閉じる。

 その寝顔は『勇者パーティ英雄』の一員である賢者とは思えない程に、穏やかなモノだった。

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